第187話~銃士隊の訓練~
耳を劈く銃声が絶え間なく聞こえる。それはまるで獣の咆哮のような――。
「FOoooooooo!!」
咆哮のような──。
「うにゃーーーーーっ!!」
咆哮──。
「ヒャッハーーーーーー!!」
「マジもんの獣の咆哮じゃねぇか!」
思わず叫んで地団駄を踏む。
いや、俺はね? 強力過ぎる武器を提供して聖王国軍を一方的に殺させることになるであろうことに心を痛めてたのよ? それを彼ら彼女らに強要することになるのを厭うていたのよ?
「たーーーーのしーーーーーー!!」
それがご覧の有様だよ! 銃士隊の面々はボルトアクションライフルではあまりバカスカ撃てなかったという鬱憤を晴らすかのようにぶっ放していらっしゃる。しかもどいつもこいつもバイポッドを装備したまま立射していやがる。それ肩とか大丈夫なん? 反動制御できてるの? あ、全然問題ない? そうですか。
そういえば君達は元の世界の人間に比べると身体能力が滅茶苦茶高いんでしたよね。一見細めに見えるジャギラでもその膂力は軽く俺を上回ってますものね。そりゃ11kg超えの汎用機関銃でも軽々と振り回せるよね。
「これ、弾のついた帯をぶら下げて歩くのはちょっとよくないね」
「……はい」
文句を行ってくるジャギラに俺はインベントリからドラムマガジンを取り出して手渡した。
「んん? どう使うのこれ」
「こいつはな」
と50発の弾丸を装填できるドラムマガジンの使い方を教える。このドラムマガジンは機関銃に取り付けることが出来る丸い弾薬箱って感じのものだ。丸いコンテナの中にくるくると巻いてある弾帯が収まっているだけで、装填方法は全く同じである。
「うーん、一長一短だね。腰を落ち着けて使うなら弾薬箱から弾帯をそのまま利用、動き回りながら戦うならこのどらむまがじん、ってのを使うのが良いのかな」
「そうだな。弾帯ぶらぶらさせて地面に擦ったりしたら、弾に土とか泥がついて動作不良を起こしかねないからな」
「そうだね。それで、こんなものを私達に与えるってことはあれだよね。こういうのが必要な相手に私達をぶつけるつもりってことよね」
「そうなるな」
ここでどう答えても与えた武器を見ればジャギラの言葉通りだということは明白なので、しらばっくれるのはやめた。
「まぁ、徒歩でお前らを危険地帯にぶちこむつもりはないから安心しろ。俺も行くし」
「そうなんだ? まぁコースケがいるならなんとでもなりそうだね」
「弾薬補給ならまかせろー」
実際のところ、今現在も銃弾は量産中である。最近アーリヒブルグの近くで見つかった洞窟で火薬の原料になる資源が大量に見つかったから、火薬に関しては暫く不自由しそうにない。
え? それはなんだって? 洞窟に住み着いているデカいコウモリのフンが堆積したモノです。つまりウンコです。肥料にも使えるし良いものだよ、うん。
金属系の資源についても武器弾薬を製造している待機時間中にグランデに山に運んでもらってガンガン採掘しているので、今のところは枯渇の心配はない。
「銃身の交換と再装填の方法に関しては特に注意をして修練してもらうとして、次はこいつだ」
と、俺が次にインベントリから取り出したのはエアボードであった。それも、俺が作った試作品ではなく、研究開発部の面々が実験を繰り返し、改修を施した先行量産型である。
「なんだいこりゃ?」
「エアボードという乗り物だ。魔力結晶一つで後方拠点からアーリヒブルグまでを一日で走破できる機動性を持っている」
「えぇ!? 後方拠点からここまで一日!?」
「そうだ。しかも、どんな悪路も走破できる。でこぼこの草原も、荒野も、全く問題なしだ。森の中はダメだけどな」
先行量産型のエアボードの外観は、ピックアップトラックの下半分を切り取って板に載せ、その左右に筒状の推進装置を取り付けたようなものになっていた。操縦席だけが装甲に覆われているような感じだな。
「確かにどことなく馬車っぽい感じはするけど……車輪は?」
「このエアボードに車輪はない」
そう言いながら俺は先行量産型エアボードの荷台後方部分に設置されていた銃架に機関銃を据え付けた。この銃架は250発入りの鉄製弾薬箱を固定できるようになっており、装填手の助けなしにスムーズに機関銃を射撃出来るようになっているのだ。
本当は回転できる砲塔をつけたかったのだが、重量的な側面と技術的な側面から断念せざるを得なかった。まぁ、蓋を開けてみれば銃士隊の面々は銃架などを使用せずとも軽々と機関銃を振り回せているわけで、それほど回転砲塔に拘る必要も無かったわけであるが。銃架も単に弾薬箱を固定する部分だけを荷台の両側面と後方につければ良いのではないかと今は思っている。
重量的な面からの制約は浮遊装置の出力を上げるか、浮遊装置の数を増やすかで対応できるだろうと考えられているのだが今はある程度の数を揃えるのが先決であるのと、どちらにせよ浮力や推力のバランスを取る時間が取れないということで見送られたわけだ。
「よーし、試験走行を行う。射手としてジャギラと、装填や銃身交換の補助をする人員としてもう一人荷台に乗り込んでくれ。他の人員はこちらに集まって待機だ」
俺の指示に従ってジャギラと小柄なリス獣人が一人荷台に乗り込み、他の人員は指定した待機地点に固まった。これから移動しながらの射撃も披露する予定なので、万が一にも事故が起こったら目も当てられないからな。
「ジャギラは銃身交換用にこのワイバーン革のグローブを嵌めるように。一箱250発撃ったら銃身を交換だ。そっちの君はジャギラが銃身を交換している間に装填をしてもらう。弾薬箱の固定方法と、装填の手順を確認しておいてくれ。あまり揺れないと思うけど、旋回時は曲がろうとする方向と逆方向に身体を引っ張られるような感じになるから、投げ出されるなよ」
「うん」
「了解」
リス獣人の女性が素直に頷き、ジャギラも素直にワイバーン革の手袋を嵌める。それを確認した俺は操縦席にある燃料スロットに魔力結晶を嵌め込み、エアボードを起動するためのスターターを捻った。するとたちまちにエアボードの隅から隅まで魔力が行き渡り、ふわりとエアボード全体が浮き上がる。
操縦システムに関しては研究開発部の間でもそれはもう侃々諤々と議論が交わされた。
戦闘用として使うのであれば精密な操作ができる俺の作った操作システムそのままが良いのではないか、長距離を走り続けるのであれば常に気を張り続けなければならない今のシステムは疲労が大きくなるのではないか、いつぞや俺が語って聞かせた自動車のようにハンドルとフットペダルで操作できるようにするべきではないか、などとそれはもう色々な意見が出た。
で、最終的には量産性を取って俺が最初に作り上げたツインスティック式の操縦システムをそのまま踏襲することになった。結局のところ、開発にかける時間があまりにも少なくて新規の操縦システムを開発する余裕がなかったのである。ハンドルとフットペダルを使った所謂自動車型の操縦システムを搭載することも検討されたのだが、浮遊装置と推進装置を使って機動を行うエアボードととは明らかに相性が悪かったのだ。
どちらかというとエアボードの機動特性は馬車やその発展型の自動車よりも船舶に近いもので、また左右の推力バランスと方向舵を併用した複雑な旋回システムをハンドルとフットペダルだけで制御するには高度なゴーレム制御が必要になるだろうと考えられた。
なので、今回は左右の推進装置と浮遊装置の制御を同時に行うツインスティックと、方向舵を操作するフットペダルを用いた操作方式に落ち着いたわけだ。方向舵と推進装置の改良によってより旋回性能と速度性能が増し、更に魔力効率が向上したのが試作品との違いとなる。
「おおっ、浮いた」
「高さは操作によって多少変えられる。最大で1.5mくらいまで浮き上がれるが、高く浮くと安定性が悪くなるからあまり高く浮遊するのはオススメしない。そんじゃ動かすぞー」
まずは推力を控えめに、ゆっくりと移動を始める。車輪もついていないのに荷台が動くのが不思議なのか、荷台に乗っているジャギラ達と、離れたところで見ている銃士隊の面々が驚きの声を上げている。
「スピードを徐々に上げていくから、ジャギラは荷台から標的を撃ってくれ」
「了解」
推進装置の出力を上げて標的に接近し、擦れ違いながら旋回して荷台の後方を標的の方向に向ける。すると、ガァァーン! と途切れることのない轟音が後方から響き始めた。早速射撃を開始したらしい。
暫く射撃と再装填を繰り返し、他の銃士隊の面々が待機している場所へと戻る。
「どうだった?」
「本当に地面の状態を物ともせずにあまり揺れないで走り回るのは凄いと思ったね。速度も凄いし、馬と同じかそれ以上に小回りも効くみたいだし。でも、銃架は要らなかったかな?」
「そうだね、銃架を使うと後ろの方にしか攻撃できないし。荷台の中心にくるくる回る弾薬箱の固定器があると良いかも?」
「ああ、それはいいね、それならどっちの方向にもバンバン撃てるし」
「銃架じゃなくて弾薬架かぁ……その発想は無かったなぁ」
そもそも銃架もなしに機関銃の反動を問題なく制御した上に、機関銃の重さを苦にしないというのが俺にとっては想定外の出来事である。
でも確かに荷台の中心にくるくる回る弾薬箱の固定器、つまり弾薬架があれば弾薬箱からスムーズに給弾ができそうだ。荷台のど真ん中にそんなものがあったら間違いなく通常走行時は邪魔なので取り外しを出来るようにするか、使わない時は倒して荷台の床と一体化させられるようにするかした方が良いだろう。
「フィードバックは早速伝えたいと思う。ただ、中心に回転弾薬架をつけるのは間に合わんと思う。前後左右に固定式の弾薬架をつけるようにしておく」
「了解。他の隊員にも練習させたほうが良いよね?」
「そうしよう。操縦も覚えてもらうからな」
というわけで、一日を使って俺は機関銃の扱いとエアボードの操縦方法を銃士隊の面々にみっちりと教え込むのであった。
シュメルみたいな鬼族系の人々だと7.62mmの軽機関銃どころか12.7mmの重機関銃も生身で保持して撃ててしまうアレ。
え? シルフィとかメルティ?
ハハヤダナー、アンナホソイフタリガソンナコトデキルワケナイジャナイデスカー_(:3」∠)_




