第167話~赤い駄鬼とこちら産の新兵器~
よゆうの18じとうこう!_(:3」∠)_(まにあってない
翌日、作物の収穫を終わらせた俺達は二台の改良型エアボードに分乗して後方拠点へと移動を開始した。
「おー、速いねェ。ガタガタ揺れたりもしないし、こりゃあ快適だ」
俺の操縦する改良型エアボードに乗ったシュメルは非常にご機嫌であった。彼女が大の苦手としているグランデ空輸便を回避できたからだろう。
「空を飛ぶのには敵わんが、なかなかの速さじゃな」
グランデは一番後方の座席から窓の外を見ているようだ。
改良型エアボードの外観は浮いて移動する大きなソリのような感じである。幌馬車型と箱馬車型を作ったのだが、箱馬車型のエアボードには外を見られるようにガラス窓をつけておいたのだ。
ちなみにグランデが一番後ろなのは尻尾が他の人の邪魔になるからだ。きっとあっちの幌付き馬車型のエアボードではザミル女史が一番後ろの席に乗っていることだろう。
「運転楽しそうっすね……」
俺のすぐ後ろからベラが声をかけてくる。恨めしそうな声で耳元で囁くのはやめろ。この駄鬼め。
「運転したいのか?」
「したいっす!」
「じゃあ後方拠点に着いたら少し運転させてやろう。ただし、もしぶつけたら……ふふ」
先っぽしか隠れてない超マイクロビキニかフリッフリの魔法少女服を着せてやろう。ついでにまた首から板をぶら下げさせて今度は後方拠点を練り歩かせてやる。
「敢えて何も言わないのが怖いっす。鳥肌が立ってきたっす」
「見事なさぶいぼやねぇ」
「くすぐったいっす!」
カプリに肌を撫でられでもしたんだろうか。確かにあの翼の羽でそっと肌を撫でられたらくすぐったいだろうな。
こちらのエアボードに乗っているのは全部で五名。俺、シュメル、ベラ、グランデ、カプリである。アイラの操作する幌馬車型のエアボードにはアイラ、ピルナ、イーグレット、エイジャ、ザミル女史、トズメの六名が乗っている。こっちの方が人数は少ないが、積載重量は上だ。
鬼族は身体が大きくて重いし、ハーピィさん達は体重が軽いからな。ハーピィさん三人より鬼族一人のが重いんだよ。命が惜しいからこっちの方が重いとは言わなかったけどな! 女性に体重の話は厳禁だ。どこの世界でもな。
☆★☆
さて、発掘現場から後方拠点までは徒歩で一日半の距離だったわけだが、改良型エアボードを快調に走らせているとおよそ一時間ほどで後方拠点に辿り着くことができた。
別にこれで全速力というわけではない。出力的には最大出力の半分以下だ。
何で最大速度で走らないのかって? そりゃ安全第一だからだよ。別に急ぐ旅でもないしな。一応最高速度の実験はしてある。多分余裕で時速200km近く出てたと思う。風の抵抗を無効化してジェットエンジンで推進してる割には速度が遅い気がするが。きっと推進装置にも改良の余地があるんだろうな。今のはただの筒だし。
もっとこう、ノズルの形とか工夫したり、向きや太さを変えられたりするといいのかね? そういや推力偏向ノズルなんてのが戦闘機についてた気がするな。研究開発部に研究を委任する時に大体の概要を伝えておくか。実用化されるかどうかは知らんけど。
というか、あれって空中戦における運動性を高めるためのものじゃなかったっけ? 自動車代わりのエアボードにつけても意味がない気がするな。そんなに小回りが利くようになっても仕方ないだろうし。まぁ、でも何かに役立つか……? 伝えておいて悪いということはないか。左右への出力偏向だけできれば良いわけだし、そんなに難易度は高くないだろう。
一体エアボードの未来はどこに向かおうとしているのだろうか……? いっそ車載型の機関銃でもつけてテクニカルでも作るか? 方陣を組む聖王国軍の周囲を馬より早い足で滑るように走り回りながら機関銃掃射を浴びせるテクニカルエアボード……地獄か何かかな?
でも作っておこう。俺は敵には容赦しない人間なのだ。
一方的過ぎる? 殺し合いなんて自軍側が一方的であるに越したことはないよ。敵だからって皆殺しにして良い訳じゃないけど、味方に死人が出るよりは出ないほうが良いに決まってる。そうやって殺されるのが嫌ならとっとと降伏すりゃいいし、そもそも戦争になんて出てこなければいい。
でもそうだな。そういうのを投入する前にしつこいくらいに警告はしておこうか。俺にだってそれくらいの良心はあるさ。ははは。
「アイラ達は引き継ぎに行ったわけだが……」
「……」
赤い駄鬼がキラキラした視線を俺に向けてきている。何でお前はそんなにエアボードが好きなんだ。乗り物が好きなんだろうか?
「いいか、ぶつけるなよ」
「はいっす!」
「絶対にぶつけるなよ。もしまた大破させたらシャレにならない罰を与えるからな? 一生モノのトラウマを与えてやるからな?」
「マジ怖いっす……震えてくるっす」
真顔で言ったら物凄く怯えられた。いいぞ。怯えろ、竦め。だがぶつけたら許さん。超マイクロビキニかフリッフリな魔法少女服を着せて首から罪状を書いた板を提げさせて後方拠点内を引き回してやる。
俺の本気度が伝わったのか、ベラの運転は非常に慎重なものだった。滑り出すような加速、まるで慣性を感じさせないコーナリング、そしてピタリと指定位置に停車。
「なんだ、ちゃんとやればできるじゃないか」
「え? やっぱそうっすか?」
俺の言葉にベラが笑顔で振り返り、その拍子に右のスロットルが前に全開、左のスロットルが後ろに全開になったのが見えた。
「ばっ……おまっ!」
「あ」
物凄い速度でエアボードが回転を始める。
「ああああああああああああちょうしんちせんかいいいいいいいいいいいいいい!?」
キャタピラではないから超信地旋回ではない。どちらかと言うとねずみ花火みたいなもんである。だがそんなことはどうでもいい。今の問題はとんでもない速度で俺とベラの乗ったエアボードが回転しているということだ。
「ひええええっ!?」
「スロットルを戻せボケェ!」
「はいっす!」
がちゃん、とベラはスロットルを元に戻した。出力がカットされた推進装置から推力が失われ、徐々に機体の回転が収まっていく。
「いやー、酷い目に遭ったっすね」
「このやろう……」
「野郎じゃないっすよ」
ドヤ顔でそんなことを言ったので頭に割と本気目にチョップをかましておく。あうち、とか言ってるが余裕あるなこいつ。
「お前に運転させるのはヤメだ。ちょっと声をかけられただけで超高速回転をかます奴に運転は任せられん」
「そんなー」
しょんぼりしながら言ってもダメだ。興味が惹かれるような何かを見る度に突撃していきかねんからな。
「もう一回だけチャンスが欲しいっす! 何でもするからチャンスが欲しいっす!」
「ん? 今何でもするって言った?」
「あっ……はい」
顔を引き攣らせるベラに、もし事故を起こしたらどんなことをさせるかを聞かせて滅茶苦茶脅しておいた。ついでに超マイクロな虎柄ビキニとフリフリの魔法少女服がどんなものなのかもしっかりと説明しておく。
「絶対に安全運転するっす」
「そうしろ……というかこんな脅しを食らってまで運転したがるとか、一体エアボードの何がお前をそこまで惹きつけているんだ……」
「エアボードはかっこいいっす! 運転してて楽しいっす!」
ベラが目を輝かせ、拳を握りしめながら力説する。力説するんだがさっぱり伝わってこない。語彙力が貧弱過ぎる。しかし熱意だけは伝わってきた。ここまで熱意があるなら任せてもいいか。
「……あたしの集めたメンバーがアンタ達の旦那に取られそうなんだけど?」
「コースケさんのすることですから」
「旦那さんのすることやからなぁ」
「有能な技術者で人格者でもある旦那様に惹かれるのは女の宿命ですわ」
「……」
遠くでシュメルとハーピィさん達が何か言っているが、別にベラをどうこうしようだなんてこれっぽっちも思ってないから安心してくれ。おバカで親しみやすい良い子だとは思うが、そういう関係になろうとは俺は思っていないし、ベラも思っていないだろう。
「というか姐さん、その言い方だと私まで引き抜かれそうになっているように聞こえるんだけど?」
「昨日、コースケとアイラと一緒に楽しそうにエアボードを作ってただろォ?」
「あれは……別にそんなんじゃないし」
シュメルに追求されたトズメが気まずげに大きな目を逸らしている。なんだかんだでトズメも物づくりが好きなんだろうな。サイクロプスの血が騒ぐのかね。あっちも別に俺に気がある風じゃないし大丈夫だろ。
でも、アイラと研究開発部に話を通して暇な時にでも顔を出してもらえるようにするのは良いかもな。広く浅く色々と知ってて、具体的にものを作るスキルを持っている人材ってのは貴重だと思うし。
そんなことを思いながらベラにつきっきりでエアボードの操縦をマンツーマンで教えていたらアイラとザミル女史が戻ってきた。引き継ぎは問題なく終わったらしい。そしてザミル女史が何か銃のようなものを抱えてきている。なんだあれは?
「おかえり。あれは?」
「ん、後方拠点で製造された試作型の魔銃。アーリヒブルグに戻るついでに資料と一緒に持ち帰ることになった」
そう言ってアイラは開発資料と思しき分厚い書類の束を持ち上げて見せた。なるほど? そしてザミル女史が運んできた試作型の魔銃を受け取る。
「ほう……」
どうやら前装式の銃であるようだ。形状は前に資料として渡したマスケット銃に酷似しているな。ただ、この魔銃は全てこちらの世界の職人が一から作り出したものであるらしい。撃発方式は……これはちょっとよくわからんな。撃鉄らしいパーツはある。先端はごく小さな魔力結晶か何かに見えるが。
「あと、後方拠点の倉庫から色々と前線に運び出す物資がある」
「ああ、そうか。わかった、行ってくるよ」
「ん。私は資料に目を通しておく」
「ベラに操縦を仕込んでおいたから、次はアイラが運転しなくても大丈夫だぞ。でも動いてる車内で資料を読むと酔うかもしれないから気をつけろよ」
「ん、わかった」
頷くアイラとその他のメンバーをその場に残して俺は後方拠点の中へと移動する。ミスリル槍の流星を担いだザミル女史が後をついてきた。いや、流石に後方拠点で護衛は要らないと思うけど……まぁ好きにさせておくか。




