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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
メリナード王国領でサバイバル!
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第107話~手当て~

「まずは通信を確立するのが一番だと思いますね」

「私もそう思うわ」

「なのです」

「そうか? 早く帰ったほうが……」

「どっちにしても、つうしんができないとこんごのことをかんがえるとめんどうー?」

「なるほど、それもそうか」


 エレン――つまりアドル教懐古派との交渉は『ゴーレム通信機による通信が十全に行える』ということを前提とした方針だ。そもそもの段階でゴーレム通信機が使えないのでは話にならない。


「しかし、向こうの機能改善をただ待つってのもな? そもそもの話、俺がアーリヒブルグまで走って、向こうでこの据え置き型のゴーレム通信機を作れば良いわけだし」

「これ、壊れたりはしないの?」

「え? いや、そりゃ可能性はゼロじゃないけど」

「もし壊れたら通信ができなくなって計画が頓挫するのですよ」

「それは確かに……」


 予備に一台と、一台分の部品を作っておくべきだろうか? いや、問題は資材だな……ゴーレムコアは摩耗もしないだろうし、予備は要らないだろう。ゴーレムコアを除いた筐体だけ作って、もし通信機が不調になったらゴーレムコアを予備の筐体に移し替えてもらえば良いか。

 後は消耗しやすい部品を交換できるように作っておけばベストなんだろうけど……正直、運用実績が少ないからどの部品が壊れやすいかとかわからんのだよな。そもそも、俺はアイテムクリエイションで作ったアイテムの細かい構造や仕様までは理解していないから作るのが難しいんだよ。

 これは俺の能力の欠点と言えるだろうな。それを補って余りある利点があるけど。別に俺の作ったものを分解・解析してリバースエンジニアリングできないわけでもないしな。実際、テコの原理で簡単に弦を引けるゴーツフットクロスボウはそうやってこの世界の職人が考え出したものだし。


「予備の筐体作りと通信範囲の拡張をしつつ向こうからの通信待ち、だな」

「それが良いわね。私達は材料を集めてくるわ」

「金属屑で良いのですよね?」

「ああ、俺も行――」

「コースケはここでゆっくりしててー?」


 そう言ってスライム娘達はそそくさと地下道の奥へと姿を消していってしまった。後に残されたのは光を放つ魔法の玉と、俺とメルティだけである。


「あー……まぁ、そういうことみたいだし休んでるか」

「そうしましょうか」


 インベントリからソファを出して座る。メルティも俺の隣に腰掛けた。


「なんか距離近くありません?」

「そんなことありませんよ」


 そんなことあると思います。ソファは三人は並んで座れる広さがあるのに、めっちゃ俺にくっついてるじゃないですかメルティさん。


「ええと……角、切ったところは大丈夫なのか?」

「あんまり大丈夫じゃないです。妙に頭が軽くて調子が狂いますし、感覚が鈍くなった気がします。それに、切った時は物凄く痛くて……夜に夢を見るんですよ。たまにズキズキと痛みますし」

「大変じゃないか……俺のために、本当に」

「謝らないでください。私が勝手にやったことですから……でも、診てもらえるなら嬉しいです」

「専門的な知識なんて無いぞ」

「ただ手を当てて擦ってくれるだけでも違いますよ」


 メルティはそう言ってコロンと転がり、俺の膝を枕にした。魔法の光に照らされた灰色の潤んだ瞳がジッと俺を見上げてくる。


「それじゃあ……」

「んっ……」


 少しくせっ毛気味の豊かなストロベリーブロンドに手を入れて角が生えていたであろう部分に手を這わせると、明らかにそれとわかるものが俺の指先に当たった。中心部分は多孔質になっているようだ。


「大丈夫? 触ったら痛くないか?」

「んっ、だ、大丈夫……んんっ!」

「本当に大丈夫なのか……?」


 どう見ても涙目で身体を震わせている。とても大丈夫には見えない。


「い、痛くはないんです。ちょっと敏感なだけで……」

「それはそれでどうなんだろうか」


 どうも角の中心部だったところを指先で触るのは刺激が強すぎるようなので、その周りや角の付け根あたりの頭皮をできるだけ優しく触ることにする。そうすると今度はとろんとした目になって半開きの口から声にならないような声を漏らし始めた。


「はあぁぁぁ……あぁー……」

「なんというか、目に毒なんですけど」


 いつもニコニコ笑顔で表情の読みにくかったメルティの蕩けるような表情というのは破壊力がヤバい。語彙が死ぬほどヤバい。理性が破壊されそう。


「なんとか角を元に戻す方法を考えないとな」

「んっ……別に良いんですよ? こうしてたまに手当てをしてくれるならそれで」

「んー、これくらいならいつでもするけど。でも、やっぱり治してあげたいな。俺の責任として」

「ふふ……んっ、それじゃ、あっ、まってま……んんっ」

「悩ましげな声を上げるのをよしてくれないか」

「ふふ、なにか困ることがあるんですか?」


 やめなされ。頭をぐりぐり動かすのはやめなされ。何をとは言わないがそれを刺激するのは危険だからやめなされ。


「折角彼女達が気を遣ってくれたんですから、ね?」

「いやいや、俺にはシルフィやアイラ達がね?」

「今更一人や二人や三人や四人や五人くらい増えても誰も気にしませんよ。シルフィ達には話をつけてありますし。それに、前向きに検討するって言ってくれましたよね?」

「いやいやいやいや、確かに言ったけどももう少しゆっくりだね?」

「もう、十分に待ちましたよ、私は」


 俺を見上げるメルティの瞳が金色の輝きを帯び始める。アカン。


「ふふ、何も知らないコースケさんはずっと私に気を遣ってくれていましたよね。非力な内政官として、決して戦いに巻き込まれないように」

「ち、違ったんです……?」

「いいえ? 私は非力な内政官ですよ。これまでも、これからもね」


 ガシッ、と物凄い強い力で腕を掴まれる。


「嘘だ! 非力な内政官なんて絶対ウソだ! それきっと世を忍ぶ仮の姿――あっあっあっ、だめだめだめいけません! うわぁ!? 革鎧が紙屑のように!? ちょ、落ち着いて! 落ちつ――」


 興奮した羊は危険。こーすけおぼえた。


 ☆★☆


「すみません、興奮しすぎました……」

「うん、いいんだよ……たまにはこういうこともあるさ」


 メルティが散々破り散らかした俺の革鎧やら服の残骸やらを見ながらしょんぼりとしている。

 俺はと言うと、インベントリに入れてあった真新しい服に着替えました。文字通り全部破られたからね。色々と溜め込んだ分とか角を切ったストレスとか単独潜入のストレスとかそういうのが爆発したのだろう。

 色々と済ませて落ち着いたメルティは激しい自己嫌悪に陥ったのか、グズグズと泣きべそをかいてしょんぼりしている。こういうメルティは新鮮だ。いつもニコニコとして余裕を崩さない女性、ってイメージだったし。


「俺の前では完璧でなくてもいいから」

「はぃ……」


 ぐずるメルティの頭をそっと抱き、背中をポンポンと叩いてあやしてやる。まるで小さな女の子でも相手にしているような感じだ。もしかしたら角を失って心の均衡が崩れてしまっているのかもしれない。切るのも相当痛かったようだし、角持ちの亜人にとっては心の拠り所と言うか、自信の在り処みたいなもののようだからな。角のない俺には想像しかできないけど。

 そうやってあやしているうちにメルティは俺に抱きついたままスヤスヤと穏やかな寝息を立てて眠ってしまった。もしかしたら聖王国軍の占領地域に入ってからロクに睡眠も取れていなかったのかもしれない。


「……激しかったわねー」

「まさに野獣だったのです」

「コースケだいじょうぶー?」

「どこから湧いてきた、君達」


 部屋のあちこちから声がしたかと思うと、部屋の隅やら天井やら床の隙間やらからスライム娘達が湧き出してきた。正に字の如く。


「勢い余ってコースケを傷つけちゃうかもしれなかったから」

「必要な措置だったのです」

「ちからかげんまちがうと、みんちー?」

「やだこわい」


 確かに革鎧を紙屑のように引きちぎる握力と膂力を振るわれたら色々ともげそうではある。今更ながらヒュンッてなった。どことは言わないけど。


「それで、材料は持ってきてくれたのか?」

「抜かり無いのですよ」


 部屋の入口からスライム娘達の分体が沼鉄鉱を次々に運び込んでくる。俺を監視しながらしっかりと採鉱作業はしていてくれたらしい。この沼鉄鉱は少々臭うのが玉に瑕だよな。さっさとインベントリに収納してしまうことにする。


「ベス、魔力燃料をくれないか?」

「いいわよ」


 この部屋はさして広くはないので、ソファからでもギリギリ鍛冶施設の操作ができる。俺はメルティを起こさないように気をつけながら沼鉄鉱の精錬作業を開始した。銅がある程度抽出できたら少量のミスリルと混ぜてミスリル銅合金に精製し、それを材料として据え置き型ゴーレム通信機の筐体を作っていく。


・据え置き型ゴーレム通信機(筐体)――素材:ミスリル銅合金×2 鉄×20 銅×15 銀×5 金×2 機械部品×18


 筐体じゃないものにはこれに加えて通信用ゴーレムコア(中)が必要になる。まぁ、かなりコストは重めだと思う。軽減スキルもついてこれだし。端数は切り捨てなのかね? 今となっては元の数値がわからないから検証もできないんだよな。

 機械部品がネックなんだよなぁ。改良型作業台になっていくらか改善したけど、それでもやっぱり作るのに結構な時間がかかるし。鍛冶職人のみなさんも機械部品、というかネジ作りには苦労していらした。

 俺の作った改良型作業台についている旋盤を見て雷に打たれたような顔をしていたなぁ。足踏み動力の旋盤があるかどうかで細かい部品の製作にかかる時間が段違いだものな。俺のクラフト能力には関係ないけどね!

 そんな感じでメルティを起こさないように静かに作業を進め、外では日が暮れる頃になって予備の筐体が完成した。丁度その頃にメルティも目を覚まし、眠る前の自分の行動を思い出して悶絶していた。具体的には頭を抱えてソファの上で暫く丸くなっていた。


「……色々とご迷惑をおかけいたしまして」

「全然迷惑じゃないから大丈夫。寧ろ、メルティはもっともっと俺に甘えていいと思う。疲れるだろう、完璧を演じ続けるのは」

「……そういうのはズルいと思います」

「メルティとシルフィが俺に甘えて、俺はアイラやハーピィさん達に甘えさせてもらう」

「あら? 私達にも甘えていいのよ?」

「ですよ?」

「だよー?」

「君達に甘えると堕落しそうだからなぁ……」 


 スライム娘達は俺を甘やかすのがどれだけ嬉しいのかわからないが、彼女達に身を任せていると俺は何もする必要もなくこの上ない安楽を得られてしまうんだよな。なんというか、本当に何もしなくていい。自分で歩く必要すらないどころか呼吸すら任せられそうな勢いなんだよ。あれはヤバいで。


「何事も程々に、ですね」

「そうだな。でもメルティはもっと甘えよう。さしあたっては今日の夕食は俺の作れるものならなんでも好きなだけ出そうじゃないか」

「本当ですか? じゃあ、甘いものを」

「晩御飯だよ?」

「甘いものを」

「はい」


 なんでも好きなものをと言った手前、約束を破る訳にはいかない。俺は持てる限りの甘いものを全種類放出していくことにした。これにはスライム娘達も大興奮だ。

 一方、俺はそれを眺めながら一人でハンバーガーを食べた。甘いもので腹を満たすのは無理な人なんだよ、俺。

角つきの好戦的な羊やジッサイツヨイ_(:3」∠)_

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[一言] メルティが可愛い。
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