執事ローミッドとお買い物-7
昔語りをしていた今までとは違い、ローミッドの顔には確かに厳しさが浮かんでいる。
「殿下や陛下ほどではありませんが、私もそれなりに敵を作る立場です。私を狙った悪意ある攻撃が、殿下や私の大切な方々を傷つけるようなことがあってはいけません。万一に備えて、守りの術は多く持っていたほうがよいのです」
口調は幼子に話しかけるように穏やかだ。それなのに、そこに込められている紛れもない『覚悟』は悠樹を圧倒した。今まで住んでいた世界には存在しなかった強い思い。それを感じ取って、悠樹は言葉を失う。
黙り込んでしまった悠樹を前に、ローミッドはふと、その視線を和らげた。
「私の武器は、私の大切な方を守るためにある。ですから、あなたをお守りするために使うことに躊躇はありませんよ」
「……え?」
口端に笑みを浮かべ、ローミッドは悠樹と視線を合わせた。彼女の目の前で、深い青色の瞳が輝く。
「あのような男があなたに近づくなど、到底許せない。と、いうことです」
囁くようにこぼれ落ちた言葉に目を見開く。
危険から遠ざけたかった、とも取れる言葉。だがそこには独占欲じみた想いが滲んでいる。底の見えない深い色の瞳と、同じく底の見えない心を垣間見せて、ローミッドはじっと悠樹を見つめている。
目を逸らすことも出来ずに見入ったまま、悠樹の頬に朱が上った。
やがて、ローミッドが小さな笑いをもらして瞳を伏せると、次に視線を合わせたときには、普段の執事としての表情に戻っていた。
「今回はこんな形になってしまいましたが、また外出される時にはお声をかけてください」
「え、あ、でも……」
「お一人では危険ですから、警護の者を用意します。ですが……私をご指名していただけるのであれば、喜んでお伴いたしましょう」
そう言って、ローミッドはふわりとその顔に笑みを浮かべた。
*****
それからしばらくして、街の一角に新しい施設が作られた。
事業の拡大などで労働者の補充を望む雇用主と、街に昔から住んでいる者や移り住んできた者の中で職に困っている者の仲介の場として作られたそこは『コンニチワーク』と呼ばれ、後にセルナディアの国策として各地に普及していくこととなる。
その建設現場で以前ひったくり事件を起こした男が働いていたのだが、その事実を知るのはごく一部の人間だけだった。
仕事があれば、収入があれば、犯罪は根絶できるなんて思っていませんが。
少しでも減ってくれればいいなぁと、そんな希望だけは持っていたいです。




