028 満足こそ敵
「子供の頃は楽しければそれでいいと思っていた。だが、大人になると楽観的思考だけでは限界だと分かるようになった」
「だぶさん。今宵のあんたは酒が進んで普段より少し饒舌になっているね」
「そうだな」
いつものように居酒屋で酒を飲むだぶさんは、常連客のおじいさんと一緒に話しをしていた。60歳半ばの白髪を生やしたどこにでもいそうな人かもしれないが、心を共有し合える特別な存在なのは間違いない。価値観が似ている人と出会えて幸運だ。
「それで、楽観的思考がどうしたの?」
お互いに若干頬を紅潮させて言葉を交じらわせている。 この店のおでんがまた美味しいのだ。
「学生時代は全てが面白かった。生きているだけで圧倒的な快感を感じていた」
「それは分かる。ワシだって大学の時は女の尻ばかり追いかけていたからな」
「ある意味ではその考え方に近い。学生時代の狂ったような性欲も失った気がする」
思春期の男子は獣と一緒だ。中には例外もいるが。
「あーやっぱり若さは大切なのか。歳を取ると動く気にすらならない」
「若さというより……社会を肌で体験すると身体の動きが鈍くなる」
「そうだな。昔より可能性が減った気がする」
子供の頃は試行錯誤しようとする意志はあったが、大人になると堕落いてある程度の形で満足してしまう。そこでだぶさんは満足感こそがプロ野球の敵だと判断していた。




