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#01 B級美少女と気軽にエッチ

 うちの学校には、S級美少女と呼ばれる有名な生徒たちがいる。

 ある者は成績トップの優等生お嬢様。ある者はスポーツ万能のアスリート女子。そして、またある者は大人気の現役アイドルだったりもする。彼女たちS級美少女は、天から選ばれた雲の上の存在だ。


 これは、吾妻(あずま)虎太郎(こたろう)がひょんなことからS級美少女たちと仲良くなる話……ではない。

 周りから嫉妬されたり、身分の違いに苦しんだり、絵に描いたような『青春の悩み』に直面するのは疲れるから――。



「ねぇ吾妻……あたしとエッチしてみない?」

「は?」


 ある放課後のこと。

 俺の部屋でだらだらしていた女子生徒、稲荷(いなり)祈里(いのり)はいきなり突拍子のないことを言ってきた。

 脈絡がない発言すぎて、俺はまじまじと稲荷を見つめてしまう。


「どうした、頭でも打ったか? 病院に連れて行ってやろうか?」

「本気で心配されてるっ!? ち、違うから! あたしの話を聞いてよぉ~!」

「そんなこと言われてもな……」


 稲荷に縋りつかれ、俺も戸惑ってしまう。こんな稲荷は見たことがなかったからだ。

 ふにぃっと柔らかい感触が肘だか腕だかに当たりかけたところで、俺は大人しく話を聞いてやることにした。決して気まずかったからとかじゃない。……ホントダヨ?


「あたし、気付いたんだ。あたしに告白してくる男子はね、みんな本当は文ちゃんと付き合いたいって思ってるの。だけど可能性がないからあたしに告ってきてるんだよ!」

「そんなことはないんじゃないか? 稲荷だって人気だし……」

「でも文ちゃんには劣るもん! っていうか、現役アイドルに勝てるわけないじゃん!」

「……まぁ、それはそう」


 文ちゃん――伏見(ふしみ)(ふみ)は現役アイドルだ。高校在学中は学業を怠りたくないとかで仕事をセーブしているようだが、今も一か月に一度はテレビで見るし、楽曲がTikTikとかで流れてくることもある。

 そんなS級美少女が高校で特別仲良くしているのが稲荷だ。誰とでも仲良くなるアイドル気質にシンパシーを感じ合ったのだろう。一年生の頃から同じクラスだった二人はセット扱いされるようになった。


 が、その関係にも問題はあるらしい。


「今日はけっこーイケメンな先輩に告白されたから、流石に訊いちゃったもん。『どうして文ちゃんじゃなくてあたしなんですか?』って」

「訊いちゃったのかよ」


 それはどう考えても藪蛇だろ。

 と思っていると、稲荷はビールジョッキを呷るような勢いでペットボトルを飲み干した。ぺこぺこってポカリのだったボトルが凹む。


「言われたからね。『稲荷さんは可愛い上に付き合えて、先に進むのにも時間が掛からなそうだから』って」

「あぁ……」藪蛇どころの騒ぎじゃなかった。

「『うまい! 安い! 速い!』――ってあたしはどこぞの牛丼か!?」

「牛丼て」


 俺は思わず噴き出した。

「ごめんごめん」とすぐに謝るけど、これは稲荷の言葉選びがズルいと思う。


 実際問題、稲荷は可愛い。チャームポイントは、栗毛色のポニーテールだろうか。この距離からで肌荒れは確認できないし、目鼻立ちも整っていると言っていい。背丈はそこそこだがスタイルはよく、男子の妄想を見事に反映している。

 見た目だけの話じゃない。稲荷は男女誰にでも優しく、いわゆる陰キャ側の生徒とも程よい距離感で関わることのできる圧倒的コミュニケーション強者だ。


 ――でも、S級美少女の伏見ほどは可愛くないし、人気者でもない。クラスで二番目くらいの美少女なのだ。


 今日稲荷に告ったらしい先輩の言い分は酷い。だけど、気持ちは分からないでもない。アイドルの伏見と付き合うのは夢物語だけど、稲荷となら付き合えそうな気がする。

 ……まあ、告白する以上はそんな打算が悟られないようにするべきだと思うが。


「あたしだって自覚してるよ? 自分がB級美少女だ、って」

「B級美少女? B級グルメみたいなことか」

「そ~ゆうこと! あたしは可愛いけど、めっちゃ可愛いわけじゃないでしょ? だからB級かな~って」

「なるほど」

「すんなり納得されるのも複雑だけどね~!?」

「いや、俺が否定したらうざがるじゃん……」


 稲荷が『そんなことないよ』って慰めの言葉を待っているように見えたなら、俺も社交辞令くらいは口にする。

 だけど、そういう面倒臭いやり取りを稲荷は求めていない。

「まぁね~」と案の定彼女は笑った。


「B級美少女だとは分かってるし、別にいいの。B級でも美少女だもん」

「自己肯定感パないな」

「ふぅ~ん? 吾妻はあたしのこと、可愛くないって思うんだ~?」

「……そんなことないよ」

「ふふっ、よくできました!」

「ちっ」


 しまったばかりの言葉を取り出して言うと、稲荷はぱちぱちと小さく拍手をしながら笑う。その顔が可愛いのがズルかった。このっ、B級美少女め……!

 これみよがしに舌打ちを打ってから、「で?」と話の続きを促す。


「B級美少女だってことは受け入れられても、『すぐヤれる女』扱いされるのは超ショックなの! これでも彼氏いない歴=年齢のド処女なのに!」

「ド処女て」


 俺はまた噴き出した。

 だけど、今度は謝らない。今のは絶対に稲荷の言葉選びが悪かった。

 こほんと咳払いをし、話を切り返す。


「で? それがどうしてさっきの痴女発言に繋がるんだ?」

「痴女じゃないし! 処女だし!」

「あーはいはい、そうだな」

「めっちゃテキトーに流すし! あたしは真剣なのにぃ~!」


 むぅ、と頬を膨らませる稲荷。だが、真剣なら更に意味が分からなかった。

 俺と稲荷が放課後に集まるようになってから、一つだけお互いが快適に暮らすためのルールを決めた。――異性としてアウトなことはNG、と。


 楽だからと裸になったり、面白いからとからかいすぎたり、そういうデリカシーのない行為はしない。ルールっていうかマナーのような約束だ。

 だが、今の稲荷の言動は、どう考えてもそのルールに反している。

 俺が視線で説明を促すと、稲荷は顔を赤くしながら話し始めた。


「逆に興味が出てきたんだよね~。どんなことするんだろう、って」

「…………」

「で、色々調べてたら……一回、経験してみたいな~って思っちゃって。……ほら! 経験したうえで『あたしは簡単にヤらせる女じゃない!』って言えたほうがスッキリするじゃん?」

「そうか……?」


 あんまり関係ない気がする。俺が首を傾げていると、稲荷は素直に開き直った。


「しょうがないじゃん! あたし、お年頃だもん! 調べたら普通に興味が出ちゃっただけだけど、悪いっ!?」

「い、いや、悪いとは言ってないけど……」

「でしょ? 気になるからって、あたしを『すぐヤれる女』とか思ってる男子とは絶対にシたくないんだもん。そしたら後は吾妻に頼むしかないじゃん?」

「普通に彼氏ができたときのお楽しみってことにすればいいだろ」

「高校生の間は絶対彼氏なんか作れないもん! 大学生まで処女のままだったら悪い先輩に食べられちゃって終わりじゃん! あたしは吾妻がいいの!」

「お、おう……」


 なんというか、壮絶だった。

 稲荷は意外とクレイジーなやつなのかもしれない。知り合って一年ほど経つが、意外な一面を知った気分だ。


 でも稲荷の言うことも分からなくはない。

 伏見が傍にいる限り、稲荷は伏見の下位互換として扱われてしまうだろう。そんな状況で相思相愛になれる彼氏を見つけるのは難しい。

『大学生まで処女のままだったら……』っていうのはいきすぎた偏見だけど、高校生の間に経験しておきたいって気持ちは理解できる。


 で、俺にお鉢が回ってきた――と。


「どう?」と稲荷が訊いてくる。「あたしとエッチするの、イヤ?」

「……稲荷がいいなら、俺はエッチしたい」


 隠してもしょうがないから、素直に答えた。

 稲荷は可愛い。確かに伏見と比べると劣るかもしれないけど、むしろそれくらいのほうがちょうどいい。

 簡単にヤれそうだから――ではなくて。

 可愛すぎる相手とそういう関係になれたとしても、居た堪れない気持ちになるだけだと思うから。


 だがその前に、言っておかないといけないことがある。

 黙ったままでいいか、とも一瞬考えた。

 だけど、稲荷は恥ずかしい事情を話してくれたのだ。こちらが隠し事をするのはアンフェアだろう。


「でも、俺は初めてじゃないからな」

「……え?」

「一応、経験はある。豊富ってほどじゃないけど」

「うっそ!? えっ、マジで言ってる? 誰とシたの!? っていうか、彼女いたんだ!?」


 稲荷が前のめりになって訊いてくる。

 ショックを受けている感じではなく、本気でびっくりしているようだった。

「いいや……」と続けて答える。


「彼女とかはいない」彼女とかってなんだ。

「じゃあ……元カノ?」

「いや、そうでもなくて。説明しにくいんだけど……要するに友達だな」


 俺も女性経験は稲荷とほとんど同じ。彼女いない歴=年齢だ。

 でも、仲のいい女友達はいる。


「それってつまり……セフレ?」

「…………友達だ」

「うっわ~誤魔化そうとしてる! めっちゃ目を逸らしてるし!」

「うぐっ……」

「へぇ~、ふぅ~ん、ほ~ん? 吾妻って意外とヤることをヤってる悪い男子だったんだぁ~?」

「ち、違うからな?」


 からかうような口調で言われ、俺は慌てて言い返した。

「違うってなにが?」と稲荷が尋ねる。

 確かにそうだ。俺に経験があるのは事実だろう。そして、高校生で経験があるやつはそこまで多くはない。


「稲荷との関係の話だ」答えはすんなり出た。

「関係?」

「そういうことが目的だったわけじゃない。俺が稲荷と一緒にいるのは楽だからだ。そこは勘違いしないでくれ」

「ぷっ」


 俺が言うと、稲荷は可笑しそうに噴き出した。

 けらけらとお腹を抱えて笑う稲荷。


「あ~、可笑しい! そこを疑ってるわけないじゃん。今まで何度もチャンスがあったはずなのに、全然手を出してこなかったし!」

「そ、そうか……?」

「あっ、こういうときは『この……意気地なし』とか言うべきだったり!?」

「やかましい!」


 わざわざ気を遣ったのが馬鹿みたいだ。

 稲荷につられて、俺もくつくつと笑う。

 ひとしきり笑い合った後で、稲荷が「じゃあ」と仕切り直すように口を開いた。


「……今からシちゃう?」


 一瞬『稲荷がいいなら』と言いかけて、違うな、と思った。

 女の子の意思は大事だけど、決断を何もかも任せきりにするのは責任放棄でしかない。こういうときくらいは、しっかり男を見せたい。


「リビングじゃあれだし、寝室で」

「う、うん……初めてだからお手柔らかに」

「分かってる」


 稲荷の手を取って寝室に向かう。彼女をベッドに寝かせると、俺は首筋に口付けをした。稲荷の口から甘い声が漏れる。

 キスはしないでおこう。そういうのは特別な相手に残しておくべきだ。


「優しいのに、めっちゃ雰囲気がエッチじゃん。吾妻のそ~ゆうところ、初めて見るかも」

「キモいか?」

「ううん、むしろ可愛いまである」

「可愛いって言われるのは複雑だなぁ」


 口が達者な稲荷を黙らせるように、ちゅっ、と耳たぶを食む。

 急な刺激に感じた稲荷がびくびくっと体を痙攣させた。俺がマウントを取りながらニッと笑うと、「うぎゅ~~~!」と悔しそうに悶える。


 そして――俺たちはありふれた放課後に一線を越えた。

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