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男装令嬢

 私はヴェルヘルムに問われるままレイティア様の事を話すと、何故かヴェルヘルムは真顔になって黙り込んでしまったのだ。

 そしてそれはヴェルヘルムの後ろに立っているノエルも同じであったのである。


「ヴェルヘルム?ノエル?どうかされたのですか?」

「いや・・・ちょっとその話を聞いて気になる事があってな」

「気になる事ですか?」


 一体何なのだろうと不思議そうな顔でヴェルヘルム達を見ていると、ヴェルヘルムは視線を私からレイティア様の方に移したのだ。


「レイティア嬢、少し確認するがその相手の男には会ったのか?」

「え、ええ・・・お父様からお話を伺いすぐに引き合わされましたので・・・」

「ではその相手の名前と顔の特徴を聞かせてもらおうか」

「お名前とお顔の特徴ですか?・・・ええっと確か、お名前はラッセル・メンディアと名乗られました。年齢は26歳とお聞きしてます。そしてお顔の特徴ですが・・・少し長めの茶色い髪とタレ目の青い瞳で整った顔立ちをされていました。ああそう言えば口元の右下に少し大きいほくろがありましたわ」


 レイティア様は思い出しながらヴェルヘルムの質問に答えたのである。


「そうか・・・ノエル」

「はい。おそらく陛下の考えている通りかと」

「・・・やはりそうか」


 よく分からないがヴェルヘルムとノエルが顔を見合わせ同時に頷き合った。

 そんな二人を私とレイティア様はキョトンとした顔で見ていたのである。


「・・・ヴェルヘルム?」

「セシリア、レイティア嬢すまないが急用が出来た。俺達はここで失礼させて頂く」

「え!?」


 突然ヴェルヘルムは椅子から立ち上がり私達にそう言うとそのままノエルを連れて部屋から出ていこうとしたので、私は驚きの声を上げながら慌てて振り返りヴェルヘルムを呼び止めたのだ。


「ちょっ、ヴェルヘルム!?レイティア様のお話を聞くだけ聞いて去っていかれるのですか!?」

「ああ。大体必要な情報は聞いたからな」

「必要な情報って・・・」

「セシリアよ、俺達はこれから少し忙しくなるから暫く俺の相手は不要だ。まあお前はレイティア嬢を助けるので忙しいだろうからそもそもそんな暇はないのだろうがな」

「それはそうですが・・・お話をお聞きするだけなんて・・・・・薄情ですね」

「ふっ・・・・・・まあ今回の事は他言しないから安心しろ。だが・・・危ない事だけはするなよ」


 ムスッとした顔の私を見てヴェルヘルムは含み笑いを溢し、そして今度こそノエルと共に部屋から出ていってしまったのである。


「セシリア様・・・」

「もうあんな人の事は放っておきますよ!それよりも今後の事を話し合いましょう!!」

「は、はい!」


 そうして私とレイティア様の二人で細かい打ち合わせをしたのだった。













 あれから数日が経ちとうとう計画を実行する日がやってきたのだ。

 ここはレイティア様の実家である侯爵邸。

 そしてその侯爵邸の中の一室で私は窓辺に立ち眼下に広がる光景を眺めていたのである。

 そこには綺麗に手入れがされている中庭があり、その中心に机や椅子が用意されその回りを侍女達が忙しそうに準備をしていたのだ。

 私はその様子をじっと黙って見ていると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきたので入室の許可を出した。

 するとその扉がゆっくりと開きそこから綺麗に着飾ったレイティア様が部屋に入ってきたのである。


「レイティア様、凄くお綺麗ですよ」


 そう私は素直な感想を述べレイティア様に微笑んだ。

 しかしそのレイティア様はと言うと何故か私を見たまま惚けた表情をしていたのである。

 それもほんのりと頬を赤らめていた。


「・・・レイティア様?どうかされましたか?」

「っ!!・・・・・最高ですわ!!!」

「え?」


 扉付近で立ち止まり固まっていたレイティア様は突然力強く言い放つと、一気に私の下まで駆け寄り私の両手を掴むとうっとりとした表情で私を見つめてきたのだ。


「やはりセシリア様のお母様のセンスは最高ですわ!」

「ちょっ、レイティア様落ち着いてください!」

「いいえ!落ち着いていられませんわ!だって・・・セシリア様のその男装姿を見てときめかない女性なんていませんもの!!」


 レイティア様はそう強く言うと同意を求めるように部屋の中にいた侍女達の方に振り返った。

 するとその侍女達はレイティア様に向かって何度も強く首を縦に振ったのである。


(いや、そこまで強く肯定してくれなくても・・・)


 私は皆の様子を見て苦笑いを浮かべていたのだった。

 ちなみに今の私の格好はレイティア様が言われた通り男性の格好をしているのだ。

 グレーを基調とした貴族の男性が着る服を着ているのだが、今回は前にやった男装よりも入念に着込んでいるのであった。

 まず胸の出っ張りを押さえる為、専用に作って貰ったベストを中に着込み端からは胸があるようには見えないようになっている。


(まあ、元々そこまで胸が大きくなかったから出来た事なのだけど・・・)


 そして次に私の長い銀髪を頭でまとめ、その上から隠すように同じような銀髪のウィッグを被って男性のような短い髪にした。

 さらに化粧の腕前が良い侍女に男性寄りの顔になるように化粧を施してもらったのだ。

 そうして完成した今の私の姿は黙っていれば美青年としか見えない姿になっていたのである。

 ちなみにこの私の姿全般を手掛けてくれたのは私のお母様なのだ。

 レイティア様と細かい打ち合わせを終えた後、すぐに実家に帰りお母様にレイティア様の事を話すと快く協力を申し出てくれた。

 そしてすぐさま私の男装に関する手配をしてくれたのである。


(お母様・・・凄くノリノリで私の男装を用意してくれたんだよね)


 その時の事を思い出し私は苦笑いを浮かべたのだった。


「はぁ~セシリア様、素敵すぎます・・・」

「レイティア様、今日は私・・・僕の事はセイランと呼んでくださいと言いましたよね?」

「あ、そうでしたわ!ごめんなさい・・・セイラン様」

「別にセイランと呼び捨てで構わないですよ?」

「いえ、さすがにそれは無理ですわ。ですがセイラン様はわたくしの事をレイティアと呼び捨てでお呼びください。さらに敬語で無い方が宜しいかと?」

「それは・・・」

「その方が恋人同士に見えると思うのですよ!」

「・・・分かりま・・・分かったよ、レイティア」

「っ!!」


 レイティア様に懇願された私は仕方がないと諦めレイティア様の要望通りに名前を呼ぶと、レイティア様は再び私を見つめたまま顔を赤らめ固まってしまったのである。


(・・・これはこれで大丈夫かな?)


 そんな心配が今のレイティア様を見て沸き起こっていたのだった。

 その後落ち着きを取り戻したレイティア様と共に先ほど見ていた中庭に向かうと、すでにダイハリア侯爵がそこで待っていたのである。

 そしてその傍らにはダイハリア侯爵と楽しそうに話をしている茶髪で口元の右下にほくろがある男性がいたのだ。


(・・・あれがラッセル・メンディアね。なるほど、ぱっと見は人当たりの良い好青年に見えるけど・・・私にはあの笑顔がどうも嘘くさく見えるよ)


 私はそう思いながらなんだかあの笑顔に騙された人が他にもいるような気がしてたまらなかったのだった。


「セイラン様・・・」

「大丈夫。レイティアの事は僕が必ず守るから」

「はい!ありがとうございます!」


 不安そうなレイティア様を安心させるように微笑み、そしてしっかりとレイティア様の腰に腕を回して体を密着させたのである。

 そうしてそのまま私達は見せ付けるようにしながらラッセルの前まで移動したのだ。

 するとそんな私達の姿を見てラッセルが険しい表情で私を睨み付けてきた。


「・・・レイティア様、この男は誰ですか?」

「ラッセル様、お伝えしておりませんでしたがこの方はわたくしの恋人であり婚約者ですわ」

「なっ!!」

「貴方がラッセルか・・・・お初にお目に掛かる。僕の名はセイラン・デミリオンと言う。一応爵位は公爵を賜っている。そしてレイティアと僕は何年も前から恋人同士の関係で漸く婚約したばかりなのだが、どうも貴方は僕のレイティアに言い寄っているようだね?」


 私は目を細め不機嫌そうな態度でラッセルを見たのだ。


「っ!ダ、ダイハリア候!一体どういう事ですか!!レイティア様には恋人はおろか婚約者もいまだにいないと私に嘆いていたではないですか!!」

「そ、それはその・・・私もつい最近娘から聞いたばかりでして・・・私も驚いているのです」


 ラッセルが目くじらを立てながら隣にいるダイハリア侯爵に詰め寄ると、ダイハリア侯爵はハンカチで額の汗を拭きながら辿々しく説明したのである。

 勿論ダイハリア侯爵には事前に今回の事は伝えてあり、不安そうではあったがなんとか協力を取り付けてあるのだ。

 だけど凄い剣幕でラッセルに詰め寄られ、ダイハリア侯爵は引きつった笑みを浮かべながらチラチラと私に視線を寄越してきた。


(・・・元はと言えば貴方のせいでしょうが!!もう少し頑張りなさいよ!!!)


 私は心の中でそう怒鳴りながらも仕方がないと小さくため息を吐き呆れた表情でラッセルに話し掛けたのだ。


「ラッセル・・・いい加減にしないか。一応その方は僕の義父になるのだからな。まあラッセルがレイティアに言い寄っている経緯は勿論聞いている。確か契約書があるんだったよな?」

「あ、ああそうですよ!この契約書がある限りレイティア様は私のモノです!!」


 ラッセルは勝ち誇った顔で懐から一枚の紙を取り出し私に見せ付けるように開いてきたのである。

 その紙をじっと見つめ確かにレイティア様から聞いた通りの内容が書かれていた。

 しかし下の方をよく見ると私が予想していた契約内容では無かったのだ。


(あら、違反したらダイハリア侯爵の全財産を譲り受けるとか書いてあるかと思っていたけど・・・金額が書かれているだけなんだね。まあ確かに凄い金額ではあるけど最悪私がコツコツ貯めていたお金で払えない事もないか。なんだ・・・この人思っていたよりも小者だね)


 想像の下をいっていた事で私は肩透かしを食らった気分になったが、それでもこんな男に簡単にお金を渡す気にはなれなかったのである。

 私はその契約書を見ながら鼻で笑うと、不安そうな顔で私の事を見ているレイティア様に微笑みかけ優しく胸に抱き寄せた。


「セ、セイラン様!?」

「ふっ、そんな紙切れ一枚で僕達の仲は引き裂けないよ。僕はこのレイティアを心から愛しているんだ。そしてレイティアを幸せに出来るのは僕だけだよ」


 そうして私はレイティア様の頭に軽くキスをしたのだ。


「っ!!・・・・・ああもうこのまま死んでもいいですわ」


 レイティア様はそう呟き恍惚の表情でうっとりと私を見つめ体を預けてきたのである。

 そんなレイティア様の様子を見てちょっとやり過ぎたかと内心困っていたがそれを表情には出さないようにした。


「と、言う訳だからラッセル諦めてくれないかな?」

「・・・・・諦めるわけないだろう!」

「へ~漸く素の表情が出たようだね。まあそう言うと思っていたよ。だけど・・・このまま手を引かないと僕は徹底的に貴方を潰しに掛かるけど良いのかな?僕が公爵家の人間だって事忘れていないよね?」

「ふ、ふん!そんな脅しに俺が屈するとでも思ったのか?契約書はこっちの手にあるんだ!どう考えても俺の方が有利なんだよ!!それよりもいつまでもくっついているんだ!離れろ!!」


 完全に粗野な態度になったラッセルは怒りの表情のままレイティア様を掴まえようと手を伸ばしてきたのだ。

 私はそんなラッセルからレイティア様を守ろうとレイティア様を抱きしめたままラッセルに背中を向けた。

 するとラッセルの手がそのまま私の髪を掴み後ろに引き倒そうとしてきたのである。

 しかしラッセルに掴まれていた私の髪・・・ウイッグがそのままずるりと私の頭から外れてしまったのだ。

 そしてその拍子にウイッグの中に隠していた私の髪が広がるように流れ出てしまったのである。

 私は慌ててその髪を押さえようとしたがもうすでに遅かったのだった。


「お、お前は・・・もしかして女か!?」

「ちっ!」

「くっ、ははははは!!これは面白い!侯爵令嬢が女に恋人の振りをさせていたのか?なるほど確かにダイハリア侯爵の言う通りレイティアには恋人はおろか婚約者もいないようだ。ふっ、残念だったな。俺を騙そうとしていたようだが形成は逆転だ。こんな醜聞をバラされれば侯爵家の名は落ちるだろう?」


 勝ち誇った顔で私達を見てくるラッセルに私は険しい表情で睨み返す事しか出来なかったのである。

 そして胸の中にいるレイティア様は目に涙を浮かべて体を震えさせ、ダイハリア侯爵は青い顔で固まっていたのだ。


「くく、もうお前は用無しだセイラン・・・ん?それは偽名か?まあどうでも良い。こっちには契約書があるんだ。レイティアをこちらに渡してもらおうか」

「くっ!」

「ふっ、茶番はそれぐらいにしてもらおうか」

「なっ!?誰だ!!」


 突然私達以外の声が聞こえラッセルが驚きながら声のした方に振り向くと、そこにはいつの間にいたのかヴェルヘルムがノエルを伴って不敵な笑みを浮かべて立っていたのであった。

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