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ピクニック

ブックマーク2000件のお礼で書いたお話です。

 ラビの率いるロンジャー盗賊団から救出されて約1ヶ月程が過ぎた。

 しかしいまだに私が拐われた事を引きずってか、何故か皆表情が固いのだ。

 そんな皆の様子を見て私はある事を計画したのである。


「・・・ピクニック、ですか?」

「ええ。最近気候も良いですし近くの湖でピクニックを致しませんか?」


 私の様子を見に部屋にきて寛いでいたカイゼルに、私はピクニックを提案してみた。

 するとカイゼルはその私の提案を聞いて複雑そうな顔をしたのである。


「私としては凄く嬉しいお誘いなのですが・・・」


 そう言いながら私の左手をじっと見てきたのだ。

 そこにはうっすらとだがまだ傷痕が残っていたのである。

 私はその視線の意味に気が付き苦笑いを浮かべながら、その左手をカイゼルに見せそして何度も指を閉じたり開いたりして全く問題ない事をアピールしたのだ。


「大丈夫ですから。それにお医者様も言われていましたが、この傷痕もそのうち綺麗に消えるそうですよ」


 そう言ってにっこりと微笑んでみせた。


「・・・分かりました。セシリアがそこまで言われるのであれば行きましょう。それに・・・もし何かありましたら今度こそ私がセシリアを守ります!」


 カイゼルは私の左手をそっと握り真剣な表情で誓ってきたのである。

 実はあの私が拐われていた時にカイゼルは、ビクトルと一緒に助けにこようとしてくれていたらしいのだ。

 しかしビクトルに一緒に行くと邪魔だと一喝され、渋々引き下がった事がどうもいまだに気にしているようなのである。


(別に私としては助けにきてくれようとした事だけで十分なんだけどな・・・)


 そう思い一応本人にもその気持ちは伝えたのだが、全く納得してくれなかったのだ。


「ありがとうございます。では他の皆さんにもお話してきますね」

「・・・え?私と二人で行かれるのではないのですか?」

「え?最初から皆さんと行くつもりでいたのですけど?駄目ですか?」

「いえ、駄目と言うわけではないのですが・・・」

「では問題ないですね。それでは私今から皆さんを誘いに行ってきます。またカイゼルには後日詳しい日取りをご連絡しますね」


 私はにっこりとそう告げると善は急げと言わんばかりに部屋から出ていったのである。

 そして私は一人ずつピクニックのお誘いをし皆から了承を得る事が出来たのだ。

 しかしその時何故か皆私と二人で行きたかったと残念そうな顔で言ってきたのである。

 正直私としては皆で行った方が絶対楽しいと思うのにとその皆の反応が不思議で堪らなかったのだった。

 そうして穏やかな気候の絶好のピクニック日和に私達は馬車に乗って出掛け目的の湖までやってきたのだ。


「良い眺めですね~!」


 私は馬車から降り陽の光で輝く湖を見つめて感嘆の声を上げた。


「本当にそうですね」


 そんな私の隣にニーナが立ち嬉しそうに微笑みながら同じ湖を見ていたのである。

 私はそのニーナを見て心の中で応援した。


(ニーナ、この機会に誰でも良いから仲を深めるんだよ!)


 実はこのピクニックを企画した理由の一つにニーナと攻略対象者達との仲を進展させる目的もあったのだ。

 もうゲームの期間が始まってだいぶ経つのに全く誰とも進展している様子もないこの現状に、私は段々心配になってきたのである。

 なので何か切っ掛けにでもなればと思い今回の事を企画したのだ。


「さあ皆様、ランチの準備はこちらで致しますので準備が整うまで少しの間ご自由になさっていてください」


 そうダリアは馬車から降りた私達に向かって笑顔で言ってきたので、私達はその言葉に甘えて全員で湖の畔まで移動したのである。













「セシリア、ここに綺麗な花が咲いていますよ。一緒に見ましょう」

「それよりもセシリアあの木陰で俺と一緒にこの持ってきた本で読書しないか?」

「そんなのつまらないよ!セシリア姉様、僕と一緒にあの湖で遊ぼう?」

「いやセシリア、私と一緒にここら辺を散策しよう」

「姫!馬を借りてきますので良ければ私とご一緒に乗馬でもいかがですか?」

「いいえセシリア様!男性方は放っておいてわたくしとあちらで花の冠を作りませんか?」

「・・・セシリア様、良ければ私とあそこで日向ぼっこをしながらお話致しませんか?」


 そう口々に皆が言いそして一斉に私を誘いにきたので、その皆の様子に私は戸惑ってしまったのだ。


「え?いや、どうして私なのですか?ここはニーナを誘う所だと思うのですが?」


 私は困惑しながら皆にそう言うと、今度は何故か皆の方が不思議そうな顔で私の事を見てきたのである。


「セシリア・・・私達はセシリアと過ごしたいと思い貴女を誘っているのですよ?それなのに何故そこでニーナなのですか?」


 カイゼルが不思議そうな顔で私に問い掛けてくると、ニーナを含めて他の皆も同意するように頷いていた。


「そ、それは・・・」


 するとその時、丁度良いタイミングでダリアが私達に声を掛けてきたのだ。


「皆様!ランチの準備が整いましたのでどうぞこちらまでお越しください」

「あら、準備出来たみたいですよ?さあさあ行きましょう!」


 私は話を逸らすように愛想笑いを浮かべながら慌てて言い、率先してダリアが待っている場所に向かった。


「あ、セシリア!・・・仕方がないですね。では私達も行きましょうか」


 後ろからカイゼルの呆れたような声が聞こえたが、私は敢えて振り向く事はしなかったのである。

 そうしてダリアの下に戻った私達はダリアが用意してくれた大きな敷布の上に靴を脱いでそれぞれ座り、真ん中に置かれた大きなランチボックスの蓋をダリアが開けてくれたのだ。


「・・・うわ~!美味しそうですね!!」


 私はそう感嘆の声を上げながらそのランチボックスの中身をキラキラした目で見つめていた。

 何故ならその中身はぎっしりと綺麗に詰め込まれたサンドイッチが入っていたのである。

 そしてそのサンドイッチの具は様々な種類があり、色鮮やかでとても食欲をそそる見た目だったのだ。


「こちらニーナ様がご用意してくださった物になります」

「え!?あの美味しそうなサンドイッチをニーナが作ってくださったの!?」

「は、はい・・・皆様のお口に合うかどうか分かりませんが、せっかくのお誘いでしたしお礼も兼ねて作らさせて頂きました」


 私の問い掛けに恥じらいながらも答えてくれたニーナの様子がとても可愛くて思わず身悶えしそうになった。


(相変わらずニーナは女子力高い!私が男だったら絶対お嫁さんにしたいと思うよ!!これは他の攻略対象者達の心にも響いたんじゃ!!)


 そう思いちらりと男性陣を伺い見たのだが・・・その男性陣は誰一人心惹かれている様子が無かったのである。


(あれ?何でこんなニーナを見て頬を染めたり愛しそうな眼差しでニーナの事を見たりとかしないの?)


 予想外の反応をしている男性陣を見て私は困惑していたのだ。

 そんな中ダリアは次々とランチボックスの蓋を開け中に入っている料理の説明をしていた。

 そして最後のランチボックスの蓋を開けた時、回りがざわつきだしたのである。


(一体どうし・・・・・なっ!?あ、あれは!!!)


 私は最後のランチボックスの中身を見て驚愕の表情で固まってしまった。

 何故ならそこには見た目不格好なおにぎりと揚げすぎな唐揚げと所々焦げている玉子焼きが入っていたのだ。


(な、な、何であれがここにあるの!!!!!)


 心の中で大絶叫をし問い掛けるような眼差しをダリアに向けた。

 するとダリアは私の視線を受けにっこりと微笑んだのである。


「こちらはセシリア様がお作りになられた物になります」


 その瞬間全員から驚きの声が上がり一斉に私の方を見てきたのだ。

 そしてカイゼルが恐る恐る私に問い掛けてきた。


「こ、これをセシリアが作ったのですか?」

「・・・・・ええ。・・・ダリアどうして持ってきたのですか?これは失敗作ですから帰ってから一人で食べますと伝えましたよね?」

「勝手を致しまして申し訳ございません。しかし・・・セシリア様が今日を楽しみにされ、皆様に食べて頂きたいと朝早くお作りになられた物を置いてくる事など私には到底出来なかったのです。むしろ皆様に是非とも食べて頂きたいと思ってお持ち致しました」

「ダリア・・・さすがにここまで見た目が悪くなった物を皆さんに食べて頂くわけには・・・」

「これ美味しいよ!」

「え?」


 突然のレオン王子の言葉に私は驚いてレオン王子の方を見ると、レオン王子は私の唐揚げを食べながらにこにこと笑っていたのである。


「この玉子焼きも私好みの味付けで好きだな」


 次にアルフェルド皇子の声が聞こえそちらを見ると、フォークに刺した玉子焼きを食べながら微笑んでいた。


「確かに見た目はあれだけど・・・俺はこう言うの好きだがな」


 そう言いながらシスランが不格好なおにぎりを頬張っていたのだ。


「姫、ご安心してください。私が作った物より数倍素晴らしい物です!私など何故か作る物全て炭になってしまいますので!!」


 私の作った物を食べながら感動したように言ってくるビクトルに、私は心の中で(何故!?)とツッコミを入れていたのである。


「私はセシリアが作られた物でしたらどんな物でも美味しく食べられる自信がありますよ。出来れば今度は私の為だけに作って欲しいですね」


 カイゼルはにっこりと微笑みながら玉子焼きを口に運んでいた。


「むしろお料理がお出来になるなんて凄いですわ!わたくしなど作ろうと思った事もありませんもの・・・」


 少し落ち込み気味のレイティア様だったが私の作ったおかずを次々と口に運んでいたのだ。


「セシリア様、どれもとても美味しいですよ。もし良ければ今度ご一緒にお料理致しませんか?」


 そう言ってニーナが私に笑顔を向けながら誘ってくれたのである。


「ふふセシリア様、お持ちして良かったですね」

「ダリア・・・・・ありがとうございます」


 私はダリアにお礼を言い笑顔で私の料理を食べてくれている皆を見て、本当に今日ピクニックに皆と来て良かったと心から思ったのだった。

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