病ん・・・
「セシリア様!」
「セシリア姉様!」
ニーナとレオン王子はそう嬉しそうに私の名前を呼ぶと揃って駆け足で私の所までやってきた。
「お帰りなさいませセシリア様!」
「ただいまニーナ」
私はそう言ってにっこりと微笑みつつまだ抱きついているレイティア様をやんわりと引き剥がしたのだ。
その時レイティア様がとても残念そうな顔をしていたようだけど敢えて気が付かない振りをしたのである。
「セシリア様・・・お聞きしたお話ではアルフェルド皇子のお国に行かれていたとか?」
「え、ええそうなのですよ!」
「・・・一体何をされに?それもアルフェルド皇子とご一緒に行かれたとか・・・」
「え?あ~か、観光をしに行っていたのです!」
「観光、ですか・・・でもお一人で誰にも告げず行かれるなんて危ないですよ!」
「そ、そうですよね・・・これからは気を付けます!」
ニーナの真剣な表情に私は何度も頷いて肯定を表したのだった。
するとさっきからずっと黙っていたレオン王子が一歩私に近付き、にっこりと小悪魔的な笑顔を私に向けてきたのである。
「レオン王子?」
「ねえセシリア姉様・・・本当に観光だったの?」
「え?」
「もしかしたら本当は・・・拐われていたって事無いよね?」
「っ!!レ、レオン王子!な、何を言い出すのです!!」
「ほ、本当ですかセシリア様!?・・・アルフェルド皇子!何て事をされたのです!!」
「ええ!?セシリア様を拐ったですって!?何て羨ま・・・いえ、酷い事をされたのですか!!」
レオン王子の言葉にニーナとレイティア様が一斉にアルフェルド皇子の方を向いて目を吊り上げたのだ。
そんな二人に睨まれたアルフェルド皇子は困った表情でちらりと私の方に視線を向けてきたのである。
(うう、その視線って・・・やっぱり私に何とかしろって事だよね?でもそもそもの原因は・・・ああもう!!分かりました!何とかしますよ!!)
私はそう小さくため息を吐くと苦笑いを浮かべながらニーナとレイティア様の肩に手を置いた。
「違いますからお二方共落ち着いてください。そもそも私が拐われていたらこんな穏やかな状態にはなっていませんよね?それも張本人だと思われるアルフェルド皇子が捕まらず私達と一緒にいるのもおかしいと思いませんか?」
「確かに・・・」
「そう言われればそうですわね」
「まあ確かに私が黙って行ってしまった事であらぬ誤解が発生してしまったのは事実ですね。そしてそのせいでカイゼルやビクトルさらにはシスランまで心配させてしまい、わざわざモルバラド帝国まで私を迎えに来てくださる事態になってしまった事は本当に申し訳ないと思っているんです」
そう申し訳なさそうな顔でちらりとカイゼル達の方を見ると、カイゼル達はお互い視線を向けてから苦笑いを浮かべたのである。いや一人シスランは呆れた表情であった。
「ニーナ、レイティア嬢、セシリアの言われた事は本当ですよ。私達がモルバラド帝国に迎えに行きました所、セシリアは楽しそうに観光されていましたから」
カイゼルはそう言って私の言葉に合わせてくれたのだ。
「・・・まあ相変わらず人の気は知らずに馬鹿な面でいたがな」
「ちょっ、シスラン!馬鹿な面って・・・ちょっと酷くないですか!」
「馬鹿な面は馬鹿な面だ・・・俺の気持ちを知ってもその態度だからな」
「うっ!」
シスランが仏頂面で言い捨てるとその言葉に私は何も言い返せなくなってしまった。
「セシリア様、あれはどう言った意味でしょう?」
「べ、別に意味は無いですよ意味は!気になさらないでください!!」
ニーナの不思議そうな顔での質問に私は空笑いを溢しながら何とか誤魔化したのである。
「まあ・・・セシリア姉様がそう言うのであればそう言う事にしてあげますよ・・・今回はね」
レオン王子がそう言って一瞬アルフェルド皇子に鋭い視線を向けたがすぐにいつもの笑顔に変わったのだ。
(・・・もしかしたらレオン王子は知っているのかも)
私はそう思いながらもこれ以上話がややこしくならないようにもう何も言わない事にしたのであった。
そうしてその後私は各方面に心配掛けた事を謝罪しに回り、何とか大事にならず元の平穏な日常が戻ってきたのである。
城に戻ってから数日が経ったある朝。
私は眠い目を擦りながらベッドから身を起こすと大きく背伸びをして目を覚ました。
「う~ん!清々しい朝だ~!!」
カーテンの隙間から射し込む朝日を感じながら私はもう一度背伸びをしたのだ。
するとその時ナイトテーブルの上に置かれた白い封筒が目に入ったのである。
「あれ?寝る時はあんなの無かったと思ったけど・・・」
私はそう不思議に思いながらもその封筒を手に取り中に入っている手紙を取り出した。
『セシリア姉様へ
今日僕の趣味部屋を見に来て欲しいんだ。
だけどこの部屋は他の人には内緒にしてるから、セシリア姉様には僕の部屋に来る時誰にも見付からないようにして一人で来てね。待ってるから!
PS.この手紙は誰にも読まれないように捨ててね。
レオン・ロン・ベイゼルム』
そんな内容の手紙を読み私は、前からレオン王子に完成した趣味部屋を見に来てと言われていた事を思い出したのだ。
(ああそう言えばそうだった。すっかりアルフェルド皇子に拐われてしまった事件で忘れていたよ。でも誰にも見付からず一人でか・・・なら朝食の後にこっそりと抜け出して行ってみるかな)
そうして指示通り手紙を誰にも見付からないように捨てると、すぐに身支度を整え朝食を取りダリア達がそれぞれ自分の仕事をしに部屋から出ていくのを待った。
そして全員が出ていったったのを見計らってそっと部屋から抜け出したのである。
途中何度か人に出会いそうになったが、その度にすぐ柱の影に隠れたり物陰に隠れたりしてレオン王子の部屋に向かったのだ。
(ふふ、これなんだか楽しくなってきた)
私はそう思いながらも楽しそうにこそこそと隠れながら進み漸くレオン王子の部屋に辿り着いたのだった。
「セシリア姉様いらっしゃい!」
レオン王子は私の訪問にとても嬉しそうにしながら部屋の中に迎え入れてくれたのだ。
私はレオン王子に促され部屋の中に入るとそこには侍女が一人も居ない事に気が付いたのである。
「あら?レオン王子一人だけなんですか?」
「うん。今日は1日一人で過ごしたいからって言って出ていってもらってるんだ」
「そ、そうなのですか・・・」
さすがにレオン王子付きの侍女は部屋にいるものだと思っていた私は、レオン王子と二人っきりのこの状況になんだかニーナに悪い気がして落ち着かなかったのだ。
「それよりもセシリア姉様、ここまで来るのに誰にも見付からなかった?」
「ええまあ、ちゃんと注意して来たから大丈夫ですよ」
「それは良かった!」
そう言ってレオン王子は喜ぶと私の手を掴んできて隣の部屋に連れていかれたのだが、そこはレオン王子の寝室であった。
さすがにその部屋を見て私はぎょっとし思わず身を固くしてしまったのである。
その時そんな私を見てレオン王子が口角を上げて笑ったのだ。
「ふふ、やっと意識してもらえた・・・」
「え?レオン王子何か言われましたか?」
「ううん、何でも無い。さあこっちこっち!こっちから繋がっているんだよ!!」
「あ、レオン王子そんなに引っ張らないで下さい!」
再びいつもの笑顔に戻るとレオン王子は大きなベッドの横を通り抜けてさらに奥に進んだのである。
そしてインテリアで掛けられていたと思っていた壁のカーテンを掴むとそっと開けたのだ。
するとそこには一枚の木の扉が隠されていたのであった。
「・・・もしかしてそこが入口ですか?」
「うんそうだよ!」
そうレオン王子は大きく頷くと懐から銀色の鍵を取り出しその木の扉の鍵穴に差し込んだのである。
カチャリと小さな音が鳴りそしてレオン王子はゆっくりとその扉を開いたのだ。
「セシリア姉様、足元に気を付けてね」
「は、はい」
レオン王子はベッドの近くに用意してあったランプを手に取るとそれに明かりをつけ、そのランプで足元を照らしながら私の手を優しく掴んで地下へと降りる階段を慎重に二人で降りたのだった。
そうしてしばらく階段を降り続け漸く下まで到着すると、レオン王子は慣れた手付きで明かりをどんどんつけていったのである。
「・・・うわぁ~!!綺麗・・・」
私はそう感嘆のため息を溢しながら目の前に広がる光景をうっとりと見つめた。
何故ならそこにはランプの淡い光に照らされて輝く多くの鉱石が部屋の中に美しく配置されていたのだ。
「どお?気に入ってくれた?」
「ええ凄く素敵です・・・」
「ちゃんとセシリア姉様のアドバイス通りにあそこにベッドを置いたんだよ」
「あら本当ですね!・・・うん、やっぱりこの位置でしたら回りの鉱石をじっくり眺められますね」
「そうなんだ~!それにそこの奥にはお風呂とかの水回りも完備してるからこの部屋だけで充分生活出来るんだよ!」
「へ~良いですね。私もこんな部屋欲しいです・・・」
私は本心からの気持ちを言いながらうっとりと眺めていると、そんな私の下にレオン王子か近付いてきて小悪魔的な笑顔を私に向けてきたのである。
「ねえねえセシリア姉様、こんな所で立ってなくてももっと近くで見ても良いんだよ」
「そうですね・・・せっかくだし近くで見せてもらいますね」
レオン王子の言葉に頷くと私は中に進み飾られている鉱石を見る事にした。
しかしその時、ふと私は脳裏に何か引っ掛かりを覚えたのだ。
(・・・あれ?なんだかこの光景・・・前にも見た事があったような・・・・・そう、前と言うか前世で・・・・・・・あ!そうだこの部屋って確か、レオン王子のヤンデレエンディングの時にだけ出たスチルの背景画像と全く同じだ!!ん?それじゃもしかしてニーナはレオン王子のヤンデレエンディングに向かっちゃってるって事!?それはさすがに・・・)
私はゲーム画面で見たレオン王子のヤンデレエンディングを思い出しニーナの事が心配になったのである。
何故ならそのヤンデレエンディングはニーナをこの部屋で監禁してしまうからだ。
(・・・いくらニーナの恋を応援するつもりでいるとは言え、ヤンデレエンディングに向かっているのをこのまま黙って見ているのは・・・駄目だ!!よし!まずはそれとなくレオン王子を説得・・・)
そう思い立ったその時、突然後ろの方でガシャンと大きな金属の音が聞こえてきたのである。
「え?」
私はその音に驚き後ろを振り返るとそこには何故か鉄格子が現れていたのだ。
そしてその鉄格子を挟んでレオン王子が小悪魔的な笑顔を浮かべながら立っていたのである。
「レ、レオン王子?」
私は困惑しながらもその鉄格子に近付き両手で鉄格子を掴むと動かせるか試してみた。
しかしガタガタと鳴るだけでその鉄格子は全くびくともしなかったのだ。
「ちょっレオン王子!これは一体何の冗談ですか?お願いです、ここを開けてください!!」
そう私は鉄格子越しに立っているレオン王子に訴えたが、何故かじっと私を見つめてくるばかりで何も答えてくれなかったのである。
「レオン王子!!!」
「漸く手に入れた・・・僕のモノだ」
「っ!!」
レオン王子の表情が突然変貌し狂気に満ちた顔でニヤリと笑ったのだ。
そんなレオン王子を見て私はゾクリと寒気が走り思わず息を飲んだのであった。




