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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第292話 手配書

「……遂に来たか」


 ウォルトの街でギルドマスターを務めてきたサンダース・トールは、ギルド管理局の封書を机に置き、深く息を吐いた。


 封筒の封はすでに切られている。

 中に記されていたのは、短く、しかし重い文言だった。


『本通達が配達人により受領された日をもって、

サンダース・トールのギルドマスターの職を剥奪する』


 受領日時は配達人がその場で記録する。

 読んでいなかった、気づかなかった――そうした言い逃れは一切許されない形式だ。


「この部屋とも……今日でお別れか」


 自嘲気味に呟き、サンダースは執務机の背にもたれた。


 覚悟はしていた。

 黒の紋章使いが街に現れ、自身がその術中に落ち、敵味方の区別もなく暴れ回ったこと。

 ネロやエクレア、勇者パーティーの助けがなければ、さらに多くの犠牲が出ていたことも――。


 その時点で、サンダースは「解任」を覚悟していた。

 だが、届いたのはそれよりも重い処分だった。


「……やっぱり、甘くはねぇな」


 天井を仰ぎ、苦く呟く。


 解任であれば、別の街へ回される可能性は残る。

 実績は消えず、再起の道も閉ざされはしない。


 だが――剥奪は違う。

 それは「ギルドマスターとしてあるまじき行為をした」と公式に断罪される処分。

 一度下されれば、二度とギルドマスターに返り咲くことはない。

 積み上げた功績も、街を守ってきた年月も、すべてが白紙になる。


 残るのは――

 「ギルドマスターを剥奪された男」という不名誉だけだ。


「ちょ、困ります!」


 外から聞こえる慌てた声。

 続いて、別の男の苛立った声が重なる。


「何が困るのですか。今日からこの私がギルドマスターなのですよ」


 次の瞬間、ノックもなしに執務室の扉が開かれた。


「おやおや。まだいらっしゃったのですか」


 入ってきたのは、七三分けの黒髪にちょび髭を生やした男――。

 その口元には、勝ち誇ったような笑みが貼り付いている。


「クロム――お前が後任かよ」

「そのとおり。管理局から、とっくに貴方の地位剥奪は通達されているはずですが?」

「わかっている。今、身の回りの整理をしていたところだ」

「必要ありません」


 クロムは即座に言い切った。


「この部屋にある物はすべて、ギルドの資産です。私物の持ち出しは認められていませんから」

「……随分と乱暴だな」

「貴方こそ、ご自身の立場を理解しているのですか?」


 クロムは一歩踏み出し、見下すように続ける。


「貴方は剥奪されたのですよ? もう“元”ですらありません」


 サンダースは歯を食いしばった。


「粗暴な男がギルドマスターなど務めるから、こんな事になるのです。冒険者より盗賊の方が、よほどお似合いでしょう」


「クロムさん! それは言い過ぎです!」


 フルールが声を荒げるが、クロムは意にも介さない。


「さて、私がこの部屋に入ってから、もう一分が経ちました。そろそろ出て行っていただきたい」


 懐中時計を取り出し、わざとらしく告げる。


「――随分と偉くなったものだな、クロム」

「当然です。今日から、ここは私のギルドですから」

「ギルドは私物じゃねぇ」

「だからこそ、私が“正しく”管理するのです」


 クロムはフルールを一瞥し、鼻で笑った。


「礼儀も教育も、随分と乱れているようですしね」

「な……ッ!」


 だが、サンダースはもう言葉を重ねなかった。

 ここに留まる資格は、すでに失われている。


「……フルール。今まで苦労を掛けたな」

「ギルドマスター……!」

「元、です」


 クロムが割って入る。


「では早速仕事です。まずは――この手配書を貼ってもらいましょう」

「……手配書?」


 フルールの声が震えた。


 その直後――階段を上ってくる足音が響く。


「お久しぶりですね、サンダース」


 現れたのは王国騎士団。

 先頭にはグラムとバエルの姿があった。


「今、どんな気分ですか?」


 バエルが嗤う。


「ついさっき、職を剥奪されたところだ。それで満足か?」

「ははっ。情けない。やはり、こんな男にギルドマスターは無理だったんだ」

「言いたいことはそれだけか?」

「――残念ですが、違います」


 グラムが一歩前に出て、手配書を突きつけた。


「こちらをご覧ください」

「……エクレア・トール?」


 サンダースの声が、掠れた。


「その通りです。ネロ、元勇者ガイと共に――指名手配されたのです」


 バエルが愉快そうに続ける。


「当然、家族である貴方にも話を聞きます。砦で、じっくりと」


 こうしてサンダースは、事実上の拘束状態のまま、騎士団に連行されることとなった――。

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