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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第291話 フレアが戻った理由

いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!

 ギル、クール、スノウらが執務室を下がっていくと、広々とした室内にはギレイルとフレアの二人だけが残された。

 外では雨が残響のように屋根を叩き、静寂に薄い緊張を滲ませている。


「ところでフレア。管理局の仕事もあるからな。今回は戻らぬと踏んでいたのだが……よく戻ってこられたものだ」


 ギレイルは椅子にもたれず、背筋を伸ばしたままフレアをまっすぐ見据えた。

 その瞳は、息子の帰還を喜ぶそれではなく、理由を探るための冷たい光だ。


「――少々イレギュラーな事態が起きまして」


 フレアは肩に落ちた前髪を指先で払いつつ、淡々と答えた。


「イレギュラーか。あの塵に聞いていた話と関係があるのか?」


 ギレイルの声が一段低く落ちる。

 フレアのまぶたが、わずかにピクリと動いた。


(聞こえていたか……)


 だが、その気配を悟らせぬよう、フレアは淡々と表情を整えた。


「ええ。いずれ父様の耳にも入ることですので、お伝えします。――管理局で尋問中だったフィアが連れ去られました」


 書類に目を落としていたギレイルの眉が、ビクリと跳ね上がった。


「連れ去られた? 一体誰にだ」

「不明です。しかし、ただ者ではありません。局員十三名を殺害してフィアを攫いました。潜んでいた痕跡もまるで残さずに」


 フレアの声は淡々としていたが、そこに漂う温度はどこか異様だった。


「管理局の局員を十三名か。あそこに務める以上、一定以上の腕はある。その者たちがまとめて殺られたと?」

「はい。冒険者ランクで言えば最低でもB。何名かはSランク相当の力を持っていました。それが――全滅です」

「……お前は、その犯人を見たのか?」


 ギレイルの問いに、フレアは一瞬だけ言葉を止めた。

 そのわずかな間を敏感に察知し、ギレイルの眼光が鋭さを増す。


「――いえ。私が戻った時には既に逃走した後でした。今は管理局が全力で行方を追い特定を急いでいます」

「なるほど。それでネロが関わっている可能性を考えて戻ってきた……というわけか」

「その通りです。管理局からの指示でもありました。ただ――さきほどの反応を見る限り、関与の線は薄そうですが」


 ギレイルは、机の上に指をトントンと叩きながら思案する。

 その音が、部屋の沈黙に重く響いた。


「……管理局には“関与の可能性が高い”と伝えておけ」

「ほう。それはあいつらを追わせるため、ですか?」

「そうだ。管理局も噛ませれば、奴らの逃げ場はない。手配網が広がれば、動きも封じられる」


「賢明な判断ですね。それに、あいつらは間違いなくフィアを探す。そこを仕留めれば良いだけの話」

「ならば尚更、お前にはしっかり働いてもらわねばならん。これ以上の失態はアクシス家の沽券に関わる。わかっているな?」


 ギレイルの眼光に、フレアは微笑を浮かべた。


「ええ、父様。このフレア・アクシスにお任せを」

「……頼んだぞ」

「御意」


 フレアは恭しく頭を下げ、そのまま執務室から出ようと歩を進めた――が。


「フレア。ところでお前は、フィアを連れ去った相手を本当に見ていないのだな?」


 ギレイルの静かな問いかけに、フレアの足が一瞬止まる。


(……勘が鋭い)


 わずかに息を止め、フレアは振り返らずに返した。


「――はい。残念ながら」


 その声には、微かに熱が含まれていた。


 扉を閉めると、フレアは廊下で小さく鼻で笑った。


「全く……疑り深い男だ」


 階段の窓から轟音と共に稲光が差し込み、フレアの赤髪を淡く照らす。

 彼はふと目を伏せ――脳裏に“あの光景”を呼び起こす。





◆◇◆


 部屋中に、肉の焦げた匂いが満ちていた。

 倒れ伏す局員たちは炭になり、床には黒い影だけが残る。


 そして、その中央に――


 炎をまとった女が立っていた。


 赤い髪、灼熱を帯びた肌。

 唇には無邪気にも見える笑み。


『ほう。この姿を見て美しいと称するとはな。中々見どころがあるぞ』


 炎の鳥が舞い、その熱気で空気すら揺らめく。

 その女――イフリアは、気絶したフィアをひょいと抱え上げると、愉悦に満ちた眼差しをフレアへ投げた。


『良かろう。貴様は生かしておいてやる――フレア。その名も覚えておくとしよう』


 その言葉を残し、炎を翼に変えて飛び去った。


 フレアはただ立ち尽くしていた。


(こんな気持ちは初めてだ……)


◇◇◇


 胸に手を当て、フレアはほくそ笑む。


 フィアもネロも、もはやどうでも良い。

 心を奪ったのは――灼熱の女、イフリア。


(あの女に……もう一度会いたい)


 その欲望だけが、フレアの歩みを前へと駆り立てていた。

本日よりコミックノヴァにて本作のコミカライズ版第11話が公開されております!


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