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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第287話 フィアが気になる

「話は大体わかったけどよぉ。結局そのネイトって子とはどういう関係なんだ?」


 僕が胸の奥で感じていた疑問を、ザックスが代わりに口にしてくれた。


「うむ。ネイト様は某の主であるからな」


 ケトルが背筋を伸ばしながら答える。その声音にはどこか誇りが滲んでいる。


「主……って、もしかしてどこかの姫様とか?」


 マキアが首を傾げると、ネイトが勢いよく首を横に振った。


「違うよ! ネイトはね、水なの!」


『――は?』


 ケトル以外の全員の声が見事に揃った。


「スピィ?」


 スイムまでが小首を傾げる。……いや、ネイトが水ってどういうこと?


「……アイには何を言ってるのか、まったくわからない」

「俺にもわかんねぇぞ。どういう意味だよそれ」


 ガイとアイスが同時に突っ込む。


「それはまだ言えぬのだ」


 ケトルが神妙な顔で言うと、即座にウィン姉の雷が落ちた。


「だからそれはもういいと言ってるだろう! わかってることを言え!」


 ビシッと指を突きつけられ、ケトルの肩がビクッと震える。


「う、うむ。では……某はあの湖に封じられていたネイト様を守っていた。それが主であることも理解している」

「封じられていた? ってことは、ネイトは何かの封印が解けて出てこられたってこと?」


 僕が問うと、ケトルはゆっくりと頷いた。


「そうであるな。それもネロたちがアペプを倒してくれたおかげだ。改めて感謝しよう」


 そう言ってケトルが頭を下げた。

 ――そうか。あの怪物が封印の要因でもあったんだ。


 思い返す。あの時、ケトルは「もう少し休息が必要だ」と言っていた。

 もしかするとあれは、ケトル自身のことではなく、ネイトの“覚醒”のことだったのかもしれない。


「でも封印されてたなんて……どうして?」


 エクレアが首を傾げると、ケトルは淡々と答えた。


「我が主だからであるな」

「答えになってねぇぞ」


 すかさずガイが突っ込む。


「すまぬな。それはまだ――いや、実は某もよく覚えておらぬのだ」


 途中で“言えぬ”と言いそうになったのだろう。

 ウィン姉の睨みに気づいて、慌てて言い直すケトルの姿に、思わず笑ってしまう。


「覚えてない? どういうこと?」


 僕の問いに、ケトルは少し言い淀み、やがて静かに答えた。


「恐らく……あのアペプの影響だと思う。記憶がところどころ曖昧なのだ」


 そうだったのか。

 もしあのまま放置していたら、ケトルもネイトのことも、何もかも忘れてしまっていたかもしれない。

 本当に、あの時倒しておいてよかった。


「ネイトは何か覚えてる?」


 僕が尋ねると、ネイトは指を唇に当てて考えるような仕草をした。


「ネイトはね! まだ行くところがあるの! それが必要なの!」

「行くところ? どこ?」


 マキアが尋ねると、ネイトは困ったように唇を噛んだ。


「うぅ……それがわからないの。ごめんなさい」


 しゅんとした表情に、皆の表情も和らぐ。


「記憶がないと、どうしようもないな」


 ガイが頭を掻きながら呟く。


「で、でもね!」


 ネイトがぱっと顔を上げ、声を張り上げた。


「近づいたら思い出せそうな気がするの!」


 その目には強い光が宿っていた。


「だから、ネロたちと一緒にいたいの。ダメ?」


 縋るように僕を見上げるネイト。

 その純粋な瞳を見た瞬間、何も言えるはずがなかった。


「もちろん大丈夫だよ。一緒にいよう。もちろんケトルもね」


 僕が笑うと、ネイトがぱぁっと笑顔を輝かせた。


「やった! ネロ大好きなの!」

「忝ない!」

「スピィ♪」


 ネイトが勢いよく僕に抱きつき、ケトルが頭を下げる。

 スイムも嬉しそうに跳ね、場の空気がふっと明るくなった。


「ネロが決めたのなら文句はないが……いい加減離れんか!」


 ウィン姉が呆れたようにネイトを抱き上げる。


「えぇ~」


 ネイトが不満そうに頬を膨らませ、ウィン姉の胸元でもぞもぞと動いた。


「ガイも納得した?」


 僕が尋ねると、ガイは深くため息をついた。


「わかったのは、お前が相変わらずのあまちゃんってことだけだ。……ったく、しょうがねぇな」


 口では文句を言いながらも、ガイの表情にはどこか安堵が浮かんでいた。

 これでとりあえず、ケトルとネイトのことは片付いたようだ。


 ネイトの「行くところ」も気になるが――今、僕にはもっと大事な問題がある。


「それでみんな。これからのことなんだけど……僕はフィアのことが気になるんだ」


 その名を出した瞬間、ガイとエクレアの表情が引き締まる。

 フレアは、僕にフィアの居場所を問いただしていた。

 それはつまり――冒険者管理局から、フィアがいなくなったということ。


 脱走なのか、それとも……別の理由なのか。

 確かめる必要がある。


「私もネロと同じ気持ちだよ」


 エクレアが頷きながら言った。


「だから、一度ウォルトに戻った方がいいと思う。パパなら何か知ってるかもしれないし」


 そうだ。エクレアの父親はギルドマスターだ。

 情報の網はきっと僕たちよりずっと広いはずだ。


「それなら、一旦(ウォルト)に戻ろうと思うけど……みんなは大丈夫かな?」


 僕が確認すると、次々と声が上がる。


「スピィ♪」

「もちろん愛弟の判断を受け入れるのが姉の務め!」

「師匠が行くならアイも一緒!」

「とりあえず町に戻れるなら、私も安心だね」

「あぁ、町に戻れねぇとどうしようもねぇしな」

「ネロと一緒がいいの♪」

「某は主の判断に従うまで」


 それぞれの返事が小屋に響き、心の中にじんわりと温かいものが広がる。

 ――みんな、本当に頼もしい。


「よし。じゃあ、雨が止んだら出発しよう」


 窓の外を見やる。

 まだ雨音は強いけれど、なんとなく朝には止みそうな気がする。


 だから僕たちは、交代で仮眠を取りながら朝まで休むことにしたんだ――。

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