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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第286話 素直になれない

 僕はガイたちに、旧アクア鉱山での出来事を説明した。

 あの時はガイが別行動でいなかったけれど、エクレアとフィア、セレナが一緒だったんだ。


「なるほどな。俺がクソ親父に会いに行ってる間に、そんなことがあったのかよ」


 ガイが腕を組み、苛立ちを隠さず眉間に皺を寄せる。

 怒りの矛先は僕ではなく――おそらく父親に向いているのだろう。


「つまり、貴様は“ケツアルカトル”が人化した姿というわけだな?」


 ウィン姉が鋭い目つきでケトルを見据えた。


「いや、ウィン! そんな“貴様”呼ばわりして大丈夫なの!?」


 マキアが焦って止めようとするけれど、ウィン姉は意に介さない。


「何を言う。この男のせいで愛弟が危険な目に遭ったのだ。貴様で上等だろう」

「ウィン姉、それはケトルのせいじゃないから」

「まったく……ネロは優しいな。そういうところが私は大好きなんだがな!」


 そう言って、ウィン姉が僕を抱きしめてくる。

 いや、だから近いってば!


「……全く、飛んだブラコンだな」


 ガイが呆れた声を出す。


「あはは……」

「スピィ~」


 エクレアは苦笑し、スイムはネイトに抱えられながら楽しそうに震えていた。

 その柔らかな空気の中で、ケトルが静かに頭を下げる。


「確かにそなたの言う通りだ。面目次第もない」


 低い声に、皆の視線が集まる。


「そんな、気にしないでください。ただ……あそこから出てきて良かったんですか?」


 エクレアが心配そうに尋ねると、ケトルは小さく頷いた。


「うむ。我が主がそう望まれたのだ」


 主――それがネイトのことなのは、すぐに察せられた。

 思い出す。旧アクア鉱山で、ケトルは「我らの存在は内密に」と言っていた。

 あの“我ら”の中に、ネイトも含まれていたのだろう。


「そもそも、その子どもは何者なんだよ?」


 ガイがネイトを顎で指す。


「……悪いが、それについてはまだ語るわけにはいかぬ」


 ケトルが視線を逸らした。


「あぁ? “まだ語れない”だと? 舐めてんのか?」


 ガイが詰め寄ると、ケトルは小さく息を吐いた。


「すまぬ。だが、いずれはわかる日も来るだろう」

「だったら今言えや!」

「ガイ、そんな喧嘩腰は良くないよ」


 僕が割って入ると、ガイが顔を寄せてくる。


「だぁ! お前は本当に甘ぇんだよ! 今の状況で、何も話さねぇ奴を信じろってのか!」


 あぁ……完全に聞く耳を持っていない。

 そんな中、エクレアが静かに口を開いた。


「あの、それで一緒にここまで来たのは、何か理由があるんですか?」


 その穏やかな声に、場の空気が少し和らぐ。ケトルが答えた。


「うむ。主がそれを望まれたのだ。それに、お主らには以前より世話になっていたからな」


 ケトルの視線が僕に向けられる。どうやらネイトが僕たちに会いたがっていたらしい。


「ネイトはどうして僕たちに?」

「ネイト、大人になりたいの! そのためにはネロの助けが必要なの!」


 スイムを抱きながら、ネイトがくるくると回って笑う。

 スイムも負けじと身体をぷるぷる震わせて応える。


 ……可愛いなぁ。けれど、“大人になる”ってどういう意味なんだろう?


「おい。大人になりたいってどういう意味だ?」


 ガイがケトルに問いかける。


「……すまぬが、それもまだ言えぬのだ」


 ケトルの声が小さくなる。


「はぁ!? それも言えねぇのかよ!」


 ガイが声を荒げる。ケトルは申し訳なさそうに視線を落とした。


「本当にすまぬ……だが、いずれはわかる時が来る」


 その姿を見ていると、怒る気にもなれない。

 きっと彼なりに守るべきものがあるのだろう。


「ガイ、そんなに無理に聞かなくてもいいよ。今はそっとしておこう?」


 僕がなだめると、ガイが顔を近づけてきて、イライラを隠さず唸る。


「だ・か・ら~お前は本当にお人好しだな!」


 その時、ウィン姉の声が割って入った。


「――貴様、さっきから“言えぬ”ばかり抜かしておるが……本当は知らないだけではないのか?」


 静まり返る空気の中、ケトルがピクリと肩を跳ねさせた。


「ギクッ……!」


 あまりにわかりやすい反応に、皆の目が丸くなる。


「えっと、本当に知らないんですか?」と僕が尋ねると、ケトルが目を泳がせた。


「む、むぅ……それについては“言えぬ”のだ」


 ウィン姉が腰に手を当て、呆れたようにため息をつく。


「だから知らないのだろう? 素直にそう言えば、こんなややこしい話にはならんのだ」


 ケトルは視線を泳がせながら口をもごもごと動かす。


「そ、それは……」


 ネイトが両手を腰に当ててため息まじりに言った。


「ケトルは素直じゃないの」


 その言葉に、スイムが「スピィ~」と同意するように鳴く。

 さらにエクレアが笑いながら言った。


「知らないのは恥ずかしいことじゃないですよ。正直に言ってくれた方が助かります」


 続けてアイスが、冷たい笑みを浮かべて杖を構えた。


「師匠がこう言っているのだ。さっさと白状しないと……凍すぞ!」


 ケトルがついに観念し、ガクンと膝をついた。

 両手を床につき、恥ずかしそうに顔を伏せる。


「す、すまなかった……知らないというのが、恥ずかしくてつい……」


 その告白に場が一瞬静まり返り、すぐにザックスが声を上げた。


「本当だったのかよ!」


 マキアが苦笑混じりに続ける。


「意味深なこと言っておいて、実は知らなかっただけなんてね」

「てめぇ、紛らわしいことしてんじゃねぇぞコラ!」


 そしてガイが吠えるように言い放った。


「ほ、本当に済まない……」


 ケトルは肩を落とし、申し訳なさそうに言った。

――結局、ケトルはネイトのことをよく知らなかった。でも、それならなおさら、どうして彼がネイトと一緒にいるのか。

 その理由が、余計に気になって仕方なかった。

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