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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第285話 雨中の山小屋で

 雨が本格的に降り始めた頃、僕たちは森の中で見つけた山小屋に身を寄せていた。

 木造りの壁を叩く雨音が次第に激しさを増し、時折、稲光が小屋の中を一瞬だけ白く染める。直後、地の底から響くような雷鳴が続いた。


「……すげぇ降り方だな。小屋が見つかって本当に助かったぜ」

「うん。これはネイトのおかげだね」

「えっへん!」

「スピィ~♪」


 ネイトが胸を張って得意げに笑う。

 その足元では、スイムが楽しそうに床をぽよんぽよんと跳ねていた。


 山小屋には暖炉があり、マキアが持参していた火打石で火を灯してくれた。


「スイム、もう少し回復したら水を上げるからね」

「スピィ♪」


 僕の掌の中でスイムがぷるぷると震え、嬉しそうに返事をする。

 まだ小さな姿だけど、少しずつ元気を取り戻しているのがわかる。


「しかし、この雨はある意味ちょうど良かったのかもしれぬな」


 窓の外を見つめながら、ウィン姉が静かに呟いた。

 その横顔は炎の光に照らされ、どこか頼もしさを感じさせる。


「えっと、それはどうして?」


 エクレアが首を傾げて尋ねると、ウィン姉はわずかに口角を上げた。


「この雨で我々の足跡も匂いも消えるだろう。追跡は容易ではなくなる」

「なるほど! 流石は師匠!」


 アイスが感嘆の声を上げる。その目がまるで星のように輝いていた。

 確かに、これだけの雨なら、僕たちの痕跡もきれいに流してくれるだろう。


「けどよ、連中が気長に待ってくれるとは限らねぇよな。もしこの小屋まで追ってきたらどうする?」

「それなら大丈夫♪ 雨はネロの味方をしてくれるもん!」


 ネイトがにっこり笑って言い切った。その声には不思議な説得力があって、少しだけ胸の奥の不安が和らぐ。


「そう上手くいけばいいけどよ……」

「あんたは男のくせに心配性すぎ」

「いや、この状況で平然としてる姉ちゃんの方がすげぇよ……」


 マキアの軽口に、ザックスが肩を落としながらぼやいた。

 けれどその顔には、どこか笑みが浮かんでいる。少しずつ、皆の緊張が解けていくのがわかった。


「ネイト様がそう言っておられるのだ。ならば間違いなかろう」


 ケトルが低い声で静かに告げる。その落ち着いた口調が、小屋の中を包み込むように響いた。


 だが、その言葉を聞いたガイが訝しげに眉を寄せた。


「……ところで、お前らは一体何者なんだ? 何で俺等に近づいた」

「ガイ、そんな疑うような言い方はよくないよ。助けてくれたのに」

「はぁ。本当お前は甘いな、ネロ。助けられたとはいえ、素性の知れない連中を簡単に信じるな。今の状況を考えろ」


 確かに、ガイの言い分にも一理ある。

 アクシス家に追われている身として、見知らぬ者を警戒するのは当然だ。


 けれど――。


「某のことであれば、ネロ殿はわかっておられるはずだが」


 ケトルが落ち着いた声で言った。その言葉に僕は目を瞬かせた。


「え? 僕が……?」

「スピィ?」


 スイムも首(?)をかしげるように僕を見上げる。


「えっと、どこかでお会いしましたっけ?」

「むぅ……覚えておらぬか?」


 ケトルが不服そうに眉をひそめる。その様子を見て、ネイトが笑いながら口を開いた。


「ケトル、その姿だと気づかれないと思うよ?」

「……はっ! そうか!」


 ケトルは手を打ち、ようやく合点がいったようだった。


「これは失礼。某は――以前、ネロ殿に世話になったケツアルカトルであるぞ」

「ケツアルカトル……えぇえええぇッ!?」

「うそっ、あの時の!?」

「スピィィ!?」


 僕とエクレア、そしてスイムの叫びが重なった。

 まさかあの時の巨大な蛇が、今目の前に人の姿で立っているなんて――。


「なんだよケツアルカトルって……意味がわかんねぇぞ」


 ガイが困惑したように頭を掻く。

 無理もない。あの時、ガイはいなかったんだ。


 ウィン姉は眉を寄せ、アイスは表情をなくし、マキアとザックスはぽかんと口を開けている。

 僕たちは顔を見合わせ、互いに頷き合うと――あの時、僕たちがケツアルカトルと出会った日の出来事を、少しずつ語り始めた。


 外では、雨が変わらず大地を叩き続けていた。

 だがその音は、今ではどこか心地よく感じられた。

 再会の不思議な縁を祝福してくれているように――。

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