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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第281話 燃え盛る長兄

 氷の女神像が両腕を広げ、アクシス家の者たちを包み込もうと迫ったその瞬間――姿を見せたのはアクシス家の長男、フレア・アクシスだった。


「灼熱魔法・煉獄迦楼羅!」


 轟く咆哮と共に炎の鳥が生まれ、氷姫へと突撃する。

 燃え盛る炎が氷を舐め、女神像は悲鳴を上げるように砕け散った。


「美しい氷だ……だが、脆い」


 燃えるような赤髪を翻し、空から舞い降りる男。

 右手には火系の紋章の中でも希少な【灼熱の紋章】、左手には魔法の効果を劇的に高める【増幅の紋章】。二つの紋章を宿すその存在は、ただ立っているだけで戦場を支配するような圧を放っていた。


「フレア……お前まで来るなんて!」


 僕は息を呑む。視線を向けられただけで、心臓が焼かれるような錯覚に陥った。


「久しいな、ゴミ。貴様がまだ生きていたとはな」


 フレアはゆっくりと地へ降り立ち、炎を纏う眼光を僕に突きつける。


「……丁度いい。貴様、フィアについて何か知っているなら教えろ」


 右手に宿した炎を握りつぶしながら、妙な問いを投げかけてきた。


「え……フィア?」

「スピィ?」


 僕とスイムは同時に声を上げ、顔を見合わせる。


「隠すな。知っていることをすべて吐け。燃やされたくなければな」


 燃え盛る炎を背に放たれる言葉。淡々としていながらも脅迫に近い声音は、心の奥まで突き刺さる。


「フィアなら……冒険者管理局に捕らわれているはずだろ? どうしてそんなことを……」


 困惑して問い返す僕。フレアはその反応を見て、鼻で笑った。


「……なるほど。やはり何も知らぬか」


 それ以上は語らず、顔を背ける。


「ちょっと待って! それって、フィアに何かあったってことなの!?」


 エクレアが叫ぶ。彼女とフィアは意気投合し、深い友情を育んでいた。だからこそ、心配で仕方ないのだろう。


 勿論、それは僕も一緒だ。勇者パーティーで共に過ごしたガイの視線も鋭さを帯びている。


「教えろ! フィアに何があった!」


 ガイが声を荒げる。しかしフレアは興味なさげに一瞥をくれるだけ。


「知らぬなら、ゴミに用はない」


 右手を掲げた瞬間、空気が熱で軋む。不味い――!


「灼熱魔法・烈火灼連弾!」


 無数の灼熱弾が生み出され、雨のように降り注ぐ。狙いは僕たちだけじゃない。アイスにも直撃の軌道。

 さっき氷魔法を放ったせいで魔力を消耗したのか――いや、それだけじゃない。アイスはフレアへの恐怖に足を縫い止められていた。


「――っ!」


 僕は杖を構える。だが魔力はまだ空虚、防ぐ術はない。


 その時――。


 ドォン、と凄まじい音を立てて氷雪の壁が立ち上がり、烈火の雨を弾いた。

 冷気が肌を刺し、炎と氷がぶつかり合って蒸気が巻き上がる。


「……まさか……兄様……?」


 アイスがか細く呟いた。しかし姿は見えず、ただ氷の壁だけがそこにあった。


 けれど僕にもわかる。きっと、どこかで彼女を見守っていたのだ。


「チッ、茶番が長ぇんだよ!」


 ガンズが毒づき、大砲を担ぎ直す。砲口がこちらを狙い、戦場の圧はさらに高まっていく。


 ギレイルは錬金魔法で次々とゴーレムを生み出し、ジルベルトとセリーヌもいつ動き出すかわからない。


 流石にこれ以上ここで戦い続けるのは得策じゃない。ガイを助ける目的は果たしたんだ。長居は禁物だ――


 それに、フィアのこともある。フレアの言葉が脳裏を焼き、確信に変わりつつあった。何かが起きている、と。


 魔力は……多少は戻ってきている。これなら――!


「水魔法・水濃霧!」


 残った魔力をかき集め、杖を振る。濃密な霧が瞬時に立ちこめ、視界を覆い隠した。


「霧だと!? 何故突然……!」

「くそっ、狙いが定められねぇ!」

「逃げるよ、皆!」

「スピィ!」

「チッ、仕方ねぇか!」

「愛弟が決めたことだ。急げ!」

「ケトル、お願い!」

「御意!」


 怒声と砲撃音が響く中、僕たちは霧の帳の中へと駆け出した――。

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