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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第280話 アクシス家の集結

 轟音と爆煙の中から、ゆっくりと歩み出る影があった。

 黒髪を乱し、前髪で片目を隠すようにしている。肩には巨大な大砲を担ぎ、口元には倦怠そうな笑み。


「……ふあぁ。やっと退屈が終わりそうだな」


 あくび混じりに現れた男――ガンズ・アクシス。アクシス家の次男。


「ガンズ……!」


 ガイが低く名を呟く。

 ガンズは片目を細めてこちらを見渡し、僕に向かってニヤリと嗤った。


「ネロ。お前みたいなゴミに構うのは無駄だと思ってたが……その苦しむ顔が見られるなら、悪くないな」


 背筋を冷たいものが走る。嗜虐的なその笑みは、命を奪うことよりも“苦しませること”を楽しんでいるのが伝わってくる。


 幼い頃からガンズはそうだった。僕が水の紋章を授かる前から、大切にしていた物を見つけては壊し、愉快そうに笑っていた。

 思えば、幼少期に屋敷へ出入りしていたガイに手を出していたのもガンズだった。ガイの顔が険しいのは、その記憶が残っているからだろう。


「……やっと来たか」


 ギレイルが冷たく言い放つ。

 その声音には呆れと、どこか諦めに似た響きが混じっていた。


「さっさと片付けろ。これ以上、茶番を続ける時間はない」

「へいへい。親父は相変わらずせっかちだなぁ」


 ガンズが砲身を回し、いくつもの大砲を生み出す。砲台は空間にずらりと並び、咆哮を上げて火を噴いた。


「ちょっと……なんなのよ、あいつ」

「わかんねぇけど、とんでもないのは確かだぜ」


 不安そうな声を上げるマキアとザックス。直後、轟音とともに弾丸の雨が降り注ぐ。

 僕は杖を構えたけど、奪われた魔力は戻らず、まともな魔法が放てない。


「守護魔法・大盾召喚!」

「ケトル!」

「御意!」


 ガイが大盾を生み出し、ネイトの声に応じてケトルが飛び出す。

 砲弾は激しく盾を打ち据え、爆風で地面がめくれ上がった。


「ぐわッ!」


 ガイの大盾が砕け、彼の体ごと吹き飛んだ。


「ガイ!」

「くそ……情けねぇ……」


 悔しげに歯噛みするガイ。その顔からは疲労がにじみ出ていた。魔力も、もう限界が近いのだろう。


 爆音が鳴り響く。見るとケトルとウィン姉が降り注ぐ砲丸を切り裂いていた。凄まじい腕前だ――だけど、その物量は捌ききれず、残った砲丸が僕たちに向けて飛んでくる。


「これ以上、好き勝手なんてさせない! 出ろ――水魔法・水守ノ盾!」


 魔力を振り絞り、なんとか水の盾を展開。迫る砲丸をぎりぎりで受け止めた。


「ゴミが生意気なんだよ! お前らは、もっともっと苦しめ!」


 ガンズが笑いながら砲撃を繰り返す。僕たちは防戦一方で、じりじりと後退を余儀なくされた。


「ネロ! 踏ん張れ!」

「わ、わかってる!」


 必死に魔力をかき集めるけど、さっきの魔法ですら限界だった。体の奥はまだ空虚で、魔法が形にならない。


「おいおい、これで終わりか? つまらねぇな」


 ガンズが大砲を担ぎ直し、さらに巨大な砲台を生み出そうとした、その時――。


「はぁああぁあああぁあッ!」


 ガンズの頭上から雄叫び。そこにいたのはエクレアだった。鉄槌を片手にガンズへと振り下ろす。


「武芸・雷撃槌(らいげきつい)!」


 だがその瞬間、上空から紙片が舞い散り、瞬く間に紙の盾へと変わってエクレアの一撃を防いだ。


「な!」

「チッ……余計な真似を」


 驚くエクレアと、悪態をつくガンズ。彼の砲身はエクレアに向けられていた。

 もし紙の盾がなかったら――エクレアの鉄槌と砲撃、どちらが先に届いたのか。考えたくもない。


「アンダラか」


 ギレイルが呟く。見上げると、紙で出来た巨大な鳥の背に跨るアンダラ。その後ろには石像のように固められたスネアの姿もあった。


「フンッ。ご丁寧に石像まで連れてくるとはね」


 ウィン姉が不満そうに言う。紙の鳥は地に舞い降り、アンダラが優雅に降り立った。


「あなた。スネアを元に戻してちょうだい」


 凛とした声で告げるアンダラ。その横でスネアは、冷たい石像のまま横たわっている。


「……情けない。こんな醜態を晒すとは」


 ギレイルは吐き捨てるように言いながらも、地に手をついた。

 魔導錬金の陣が広がり、石の皮膚が崩れ落ちていく。


「う、ぐ……!」


 スネアの体が元に戻り、荒い息を吐きながら地面に倒れ込む。


「折角マシな石像にしてやったのに、余計なことを」


 ウィン姉が冷ややかに言い放つ。その視線には軽蔑すら込められていた。


 アンダラは眉を寄せたが、応えずにスネアの腕を取り、立ち上がらせようとする。


「……これで、アクシス家が揃ってきたか」


 胸の奥に重苦しい不安が広がる。家族が次々と集まっていく――この状況は、あまりに不利だ。


「エクレア、下がって! これ以上好きにはさせない!」


 声を張り上げたのはアイスだった。杖を片手に、鋭い眼差しで意識を集中させている。言われたエクレアも素直に後退した。


「アイス! 自分が何をしているかわかっているのか!」

「――わかってる。でも、アイはもう人形じゃない! 氷魔法・氷姫の包容!」


 アイスの声に呼応して、氷でできた巨大な女神像が現れる。両腕を広げ、揃ったアクシス家全員を包み込むように迫った。


「やれやれ……困った子だ」


 その時、聞き覚えのある声が空から響く。


 見上げると、燃え盛る炎の翼を広げた男が俯瞰していた。その存在感は圧倒的で、視線を浴びるだけで体が竦む。


「フレア・アクシス……!」


 アクシス家の長男。その姿が戦場に現れたことで、ついに――アクシス家が全員、揃ってしまった。

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