第279話 頼りになる仲間との合流
「みんな……来てくれてありがとう」
エクレア、マキア、ザックス、そしてウィン姉。
ピンチの最中に駆けつけてくれた仲間たちの姿は、胸が熱くなるほど心強く感じられた。
けれど同時に、気になる点もある。
「ところで、その二人は……?」
視線を向けたのは、僕にとって見覚えのない人物たち。少なくとも、この場に乗り込んだ時にはいなかった顔ぶれだ。
「この二人はね、私たちが危なかった時に助けに入ってくれたんだ」
エクレアが説明しようとした、その時だった。
「ネロ!」
甲高い声とともに、女の子が勢いよく駆け寄ってきて僕に飛び込んできた。
「わわっ!?」
「スピィ!?」
思わずその小さな体を抱きとめる。肩の上のスイムも驚いたように跳ねて声をあげた。
「えっと……どうして僕の名前を?」
「知ってるもん! ネロは、私の救世主だよ!」
きゅ、救世主!?
突然すぎて、頭が追いつかない。
「いくら子どもとはいえ……愛弟に馴れ馴れしいぞ!」
横から鋭い声。ウィン姉が女の子を抱きかかえるようにして引き剥がした。
ジルベルトと戦っていたはずなのに、振り返ればそのジルベルトが呆けたようにこちらを見ていた。
――戦いを放り出してしまったんだな。
ウィン姉に抱えられた少女は、いやいやと手足をバタバタさせている。
「いやぁ! ネロと一緒がいい!」
「ネイト様、落ち着いてください」
低く落ち着いた声が飛ぶ。長い黒髪の男性が近づき、少女を諭すように言った。
彼女の名は――ネイト。
「ネロ殿、失礼いたしました」
黒髪の男性は、そう言って僕に深々と頭を下げた。
「この人はケトルという方でね。すごく腕が立つのよ」
エクレアが補足してくれる。
「そうなんだね」
「スピィ」
ケトルは短く頷くと、すぐに視線をギレイルへ向け、腰の剣に手をかけた。
それは一見すると片刃の直剣のようだが、鍔や鞘に独特な細工が施され、ただの剣ではないとすぐに分かった。
「おい! そいつら、本当に信用できるのかよ!」
ガイが歯を食いしばり、声を荒げる。相変わらず疑り深い。
「むぅ、ケトル……こいつ、本当に“守護者”になるの?」
ネイトが心配そうに尋ねる。
「紋章が出ている以上、間違いはないかと」
ケトルが淡々と返す。その言葉にガイの眉がつり上がった。
「あぁん? 何だ、文句あんのか!」
「ちょ、ガイ! 子ども相手に大人気ないよ!」
「スピィ……」
僕が慌てて制止する。スイムも呆れ顔でプルプル震えていた。
「やれやれ、この状況で呑気に……我々を舐めているのか!」
蟀谷に血管を浮かべたジルベルトが、四本の剣を構え直して向かってきた。
その刹那、ケトルが一歩前に出て、静かに剣を抜き放つ。
――速い!
「むっ、貴様……!」
ジルベルトの四本の剣が一斉に襲いかかる。しかしケトルの剣筋はまるで舞うように淀みなく、全てを正確に捌き切った。
甲高い金属音が連続して響き、互いの剣がぶつかり合う。
「ケトルの抜刀術は完璧なんだよ!」
ネイトが弾むような声で叫ぶ。その言葉に違わぬ技量。確かにこれなら、ギレイル相手でも十分に渡り合えるかもしれない――そう思った矢先だった。
空を切り裂く甲高い音。空中から、黒い球体が轟音とともに落ちてきた。
「……これは!」
嫌な予感が背筋を走る。
「危ない! みんな避けて!」
僕の声に反応し、仲間たちが一斉に跳び退く。
地面に衝突した瞬間、爆ぜるような衝撃が走り、石片と爆煙が周囲を覆った。
――砲弾。
こんな芸当ができるのは、一人しかいない。
「アクシス家次男……ガンズ・アクシス!」
爆煙の向こうに浮かぶ黒い影。その名を呟いた瞬間、胸の奥に冷たいものが広がった。




