第278話 集結
「遅れて済まなかったな――愛弟よ」
頼もしい声が響く。
僕の前に立ち、颯爽と剣を構えるウィン姉の姿。その背を見て、胸の奥から自然と安堵の息が漏れた。
「ううん……無事で良かったよ、ウィン姉」
「ちょっと待て。今、弟って言ったか? ウィン……まさか――ウィンリィ・アクシスか!」
その名を聞いた瞬間、ガイの表情が険しさを増した。鋭い眼光をウィン姉に突きつけ、声を荒らげる。
「そうだが?」
「どういうつもりだ! アクシス家の人間が――ネロに近づいて何を企んでやがる!」
あ、そうか……。
ガイはウィン姉が僕を助けてくれていたことを知らない。だから、他のアクシス家と同じく僕を敵視していると思い込んでいるんだ!
「違うんだ、ガイ!」
慌てて声を上げる僕。しかし――。
「お前、アイの師匠に向かってその口の利き方は何だ! 凍すぞ!」
アイスが横から割って入り、杖を構えた。
「は? なんでお前が切れてんだよ!」
あぁ――これじゃ余計にややこしくなる!
「とにかく油断するなネロ! こいつ、何か魂胆があって近づいてるかもしれねぇ!」
「ち、違うんだよガイ。ウィン姉は本当に――」
「またそんな甘いことを……だからお前はお人好しなんだ! ったく――へ?」
僕の言葉を遮り、まくしたてるガイ。その首筋に、いつの間にかウィン姉の剣が突きつけられていた。
「……私の愛する弟に、その口の利き方。どうやら死にたいらしいな」
「な、なんだこの殺気……やっぱりやべぇ奴じゃねぇか!」
「いやいや落ち着いて、二人共! ウィン姉もアイスも、助けに来てくれたんだから!」
「スピィ……」
僕は必死に制止する。肩の上でスイムが呆れたようにプルプル震えていた。
「ガイのことを教えてくれたのも、ウィン姉なんだ」
「……そうだったのか。疑って悪かったな」
「ふむ。一応は愛弟を心配してのことだろうから、許そう。だが弟はやらん!」
「いや、貰うつもりもねぇよ!」
「命拾いしたな。師匠に感謝しろ!」
「お前は何でそんなに偉そうなんだよ……」
アイスとウィン姉の両方に翻弄されるガイ。やっぱり根はいいやつなんだ。
「くだらないやり取りはそこまでにしていただきたい。――ウィンリィ様、貴女ほどの方がなぜそのような塵どもと行動を共にしているのです?」
冷徹な声でジルベルトが問いかけてきた。だが、その言葉を聞いた瞬間――。
「弟を愚弄するのは許さん!」
ウィン姉が閃光のように踏み込み、剣を振り下ろす。
ジルベルトは四本の剣を構え、一振りで受け止め、残る三本で切り返す。
火花が散り、金属音が耳をつんざいた。二人の剣戟は目にも止まらぬ速さで繰り広げられ、その場の空気を震わせる。
「セリーヌ! お前は残りを仕留めろ!」
「承知しました」
セリーヌが銃を構えた瞬間、アイスが杖を振り上げる。
「させない――【氷魔法・氷輪演舞】!」
氷の輪が幾重にも生まれ、鋭い刃となって迫る。だがセリーヌの銃口が閃光を放ち、放たれた弾丸が氷輪を次々と粉砕していく。
「私の銃を舐めるな」
銃口がすぐさま僕たちに向けられた。咄嗟にガイが前に飛び出す。
「――【守護魔法・大盾召喚】!」
巨大な盾が目の前に現れ、銃弾をはじき返す。血で濡れた肩を押さえながらも、ガイの声は力強かった。
ガイ……限界が近いはずなのに……それでも僕を守ろうとして……!
胸の奥が締め付けられるように痛む。僕の魔力はまだ戻らない――このままじゃ!
「……なんだ? 攻撃が来ない?」
盾越しにガイが疑問を漏らす。
「上だ!」
アイスの鋭い声。反射的に僕も視線を上げる。
そこには高く跳躍し、銃を構えるセリーヌの姿。
「上からなら防げまい……これで終わりだ!」
「どりゃぁあああぁああッ!」
万事休すかと思った瞬間、気合の入った声が轟き、巨大な鉄槌が飛来。セリーヌの体を直撃した。
「ガハッ!」
呻き声とともにセリーヌが地面に叩きつけられる。
落下してきた鉄槌を受け止めたのは――。
「エクレア!」
「ははっ、間一髪だったかな?」
頬を掻きながら笑うエクレア。それにマキアとザックスの姿もあった。さらにもう二人――見慣れない子どもと、無骨な雰囲気の男性の姿。
「全く……次から次へと厄介事ばかりだな」
ザックスが苦笑を浮かべる。
「あんたも今さら文句ばかり言わない!」
マキアが小突くように返す。
仲間たちが次々と集い始めるこの場に、心強さと同時に新たな波乱の予感が胸をよぎった。




