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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第277話 守護者

 ギレイルの魔法が、ガイの大盾によって阻まれた。

 それが彼の左手に浮かび上がった新たな紋章――【守護者の紋章】の力であるのは間違いなかった。


「馬鹿な……なぜ貴様の手に紋章が現れる!」


 ギレイルの顔が怒りと動揺に歪む。


「俺にもわからねぇさ。ただひとつ言えるのは……天はまだ俺を見放してなかったってことだ!」


 ガイは鮮血に濡れた肩を押さえながらも、力強く言い放った。


「さぁ返すぜ!――【守護者の反撃】!」


 叫びと同時に、大盾に吸い込まれていた炎の矢が逆流し、今度はギレイルへと放たれる。

 それは防いだ時よりもさらに熱を増し、炎は荒れ狂う竜のように唸り、矢は鋭さを増して一直線に走った。


「小癪な!」


 ギレイルは地面に両手を叩きつける。すると赤熱した壁がせり上がり、すぐに黒鉄のような硬質へと変貌し、ガイの反撃を受け止める。

 轟音と閃光が迸り、黒鉄の壁は大きくひび割れながらも、なんとかその攻撃を食い止めた。


「セリーヌ!」

「お任せを――」


 ギレイルの呼び声に応じ、セリーヌが軽やかに前へ踏み出す。

 眼帯を外した左目がギラリと光り、魔喰の邪眼がガイを捉える。


「私の魔眼を受けなさい!」


「――させない!」


 アイスの声が空気を震わせ、同時に放たれた氷の矢がセリーヌの左目に命中した。

 氷の魔力が奔流のように広がり、セリーヌの邪眼が瞬時に凍りつく。


「くっ……! 旦那様が私のために授けてくださった左目を……よくも!」


 怒りに我を忘れたセリーヌが、手にした魔導銃をアイスに向ける。


「死ねぇ!」


 銃口が火花を散らし、連射された魔弾が無防備なアイスへと殺到した。


「アイス!」

「しま――っ!」


 魔力が尽きかけている僕には防御の魔法を張る余力がなかった。僕の喉が悲鳴のような声を漏らした、その時。


「スピィ!」


 スイムが弾むように飛び出し、瞬時に膨張した。前に僕を守ってくれた時と同じように、その小さな体を盾にして、放たれた魔弾すべてを受け止めたのだ。


「スイム!」


 弾ける衝撃波。スイムの体が一気に縮み、僕の手の中に落ちてきた。慌てて抱きとめる。


「大丈夫か、怪我は!?」

「スピィ……」


 力なく震えながらも、スイムはプルプルと小さく応えてくれた。弾力のある体のおかげで命に別状はなさそうだが、膨張した反動で通常よりもさらに小さくなってしまっていた。


「お前……アイの友達によくも!」


 アイスが怒りに震え、杖を振り上げる。


「――【氷魔法・逆上氷柱】!」


 叫びとともに、セリーヌの足元から鋭い氷柱が次々と突き上がる。

 だが、セリーヌは察知したように軽やかに跳躍し、氷の森を避けて空中へ舞い上がった。


「逃がすか!」


 空中から狙いを定め、銃口をこちらに向けて再び引き金を引く。


「守護魔法・大盾召喚!」


 すかさずガイが前へ出て、巨大な盾を顕現させる。轟音と共に弾丸が弾かれ、火花が散った。


「ガイ! 助かった!」

「あぁ……これ以上、あいつらの好きにはさせねぇ……」


 応えたガイの表情には確かな決意が宿っていたが、同時に疲労の色も濃い。


「セリーヌ! 何をしている!」


 ギレイルの怒号が響き渡る。


「そんな無様な姿を見せるためにその目を与えたのではないぞ!」

「――申し訳ありません、旦那様……」


 セリーヌは悔しげに唇を噛み、銃を構え直した。


「落ち着いてください、旦那様」


 その時、ジルベルトが眼鏡を押し上げ、静かな声で言った。冷徹な視線が僕たちを射抜く。


「こちらの優勢に変わりはありません」

「優勢、ね……」


 ガイが息を荒げながらも、唇を歪めて笑った。


「俺には新しい紋章が宿ったんだ。黙ってやられてやる気はねぇ!」

「なるほど。しかし突如手に入れた力で調子に乗れるほど、現実は甘くない」


 ジルベルトの声音は冷え切っていた。


「覚えたばかりの武芸や魔法の消耗が激しいように、手に入れたばかりの紋章で得た力もまた制御が難しい。――貴様の様子を見ればわかる。疲労で足もふらついている。果たして、後何度その魔法を使えるかな?」

「……くそが……」


 ガイが悔しげに唇を噛みしめる。ジルベルトの言葉が図星だったのだ。

 彼の表情には確かに、さきほどまでの活力が薄れ、消耗が色濃く刻まれていた。


「セリーヌ、行くぞ。今度は私と同時に」

「……はい」


 再び、二人が同調して迫ってくる。


「クソ! ネロ、お前らはやっぱり逃げろ! それくらいの時間は稼いでやる!」

「なっ、まだそんなことを言って……!」

「させると思ったか!」


 僕たちのやり取りを遮るように、ジルベルトの四本の剣が煌めき、セリーヌの銃口が火花を散らす。


 僕も必死に魔法をと試みるが、奪われた魔力は戻らず、杖は震えるばかり――。


 このままじゃ……!


「愛弟のピンチに駆けつけない姉がいるか? 答えは――否だ!」


 その時、風を切るような声とともに、疾風が戦場を駆け抜けた。

 頼もしい影が僕たちの前に舞い降りる。


「ウィン姉……!」


 僕の目に映ったのは、頼りがいのある姉の姿だった――

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