第276話 足手まといは御免だ
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ジルベルトとセリーヌが姿を現したことで、場の空気は一気に張り詰めた。
ギレイルは深く息を吐き、冷酷な笑みを浮かべる。
「ふむ……これでこちらは三人。数も力も、もはやお前たちに勝ち目はない」
その言葉を合図に、背後の風を纏ったゴーレムが唸り声をあげる。
「ネロ、来るぞ!」
「わかってる!」
僕は杖を握り直し、水魔法を放とうとした――その瞬間。
「……ッ!?」
全身に重苦しい感覚が走り、体の芯から魔力が抜け落ちていく。
「な、なんだ……力が……!?」
「兄様!」
「スピィ!?」
視線を向けると、眼帯を外したセリーヌの左目が妖しく輝き、紅玉のような光を放っていた。
「その苦悶の表情……美しいわ。私の“魔喰の邪眼”の視線から逃れられる者はいない」
セリーヌが冷ややかに告げる。あの瞳で僕の魔力を奪ったのか――膝が震え、杖を支える手から力が抜けていった。
「今だ、ジルベルト!」
ギレイルの命に応じ、執事長が一歩前に進み出る。
その両腕に加え、袖口から金属の腕が音を立てて展開された。聞いたことがある。アクシス家の執事長は魔導義手を加えた四本の腕で仕事をこなすと――それを戦闘にも活かしてくるのか。
「四本……!?」
「その通り。凡庸な剣の紋章しか持たぬ男が、工夫と執念で辿り着いた姿よ」
ギレイルが愉快そうに笑う。ジルベルトは四本の腕にそれぞれ剣を握らせ、無駄のない動きで一斉に構えを取った。
「くるぞ!」
アイスが前に飛び出し氷壁を展開、ガイも拳を握りしめた。しかし――。
「はああッ!」
四本の剣が同時に襲いかかってくる。二本は上段から、もう二本は左右から薙ぎ払う。常人なら到底追えない四方向からの斬撃。
「くっ……!」
ガイの体に切り傷が刻まれ、アイスの氷壁が次々と砕ける。ジルベルトの攻撃は無駄がなく、圧倒的だった。
「この程度か。少々拍子抜けであるな」
冷淡に呟きながらも、さらに攻めを強めるジルベルト。
「くっ、水魔法・水守ノ盾!」
僕は残った魔力を振り絞って盾を展開。ジルベルトの剣を防いだ。
「馬鹿野郎! 無理してんじゃねぇ!」
「馬鹿はどっちだよ。剣も持たないで何してるのさ――」
「やはり貴方は先に片付けておくべきですね」
僕が声を上げた直後、セリーヌの銃口から光が迸る。魔力を凝縮した魔弾が一直線に僕へ向かって飛来する。
「ネロッ!」
咄嗟にガイが飛び込み、僕を庇った。炸裂した魔弾が彼の肩を抉り、鮮血が飛び散る。
「ガイ!」
「大丈夫だ……こんなの、大したことねぇ」
痛みに顔を歪めながらも、ガイは立ち上がる。その眼差しは鋭く、揺らぎがなかった。
「いいかネロ、アイス……俺に構わず逃げろ」
「何言ってるんだ! そんなことできるわけない!」
「そうだ。アイはまだ戦える!」
「スピィ!」
必死に叫ぶ僕たちを、ガイは唇の端を吊り上げて見返した。
「……助けに来てもらったってのに、ここで足手まといになるくらいなら――死んだ方がマシだ。俺は“足手まといは御免だ”!」
「やれやれ。とんだ茶番だな」
ギレイルの嘲笑うような声が耳に届いた。思わず目を向けるけど――
「――魔導錬金、土弩。風と炎を合わせ、木っ端微塵にしてやろう!」
土で形成された巨大な弩が軋みを上げ、灼熱の矢を放つ。風と炎が渦巻き、轟音とともに僕たちへ迫る。
「ここは……俺が守るッ!」
ガイが前に躍り出た。無茶だ! そう思った次の瞬間、彼の左手に淡い光が走る。
「ガイ……紋章が!?」
僕の叫びに応じるように、ガイの左手の甲に新たな紋章が浮かび上がった。それは黒く奪われた紋章とは対極に、温かで揺るぎない輝きを放っている。
「……これは――【守護者の紋章】……!」
光が陣を描き、巨大な盾が現れる。
「守護魔法――【大盾召喚】ッ!」
轟炎の一撃が直撃する。しかしガイは一歩も退かず、大盾でそれを受け止めた。衝撃と爆炎が辺りを揺るがす中、彼は揺るぎなき姿勢で立ち続ける。
――ガイは、新たな力を手に入れたんだ。
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