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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第274話 黒い紋章持ちのギル

「これではっきりしたよ。やっぱり偽物はお前の方だったんだ」


 杖を突きつけ、ギルに言い放つ。黒い紋章を持っている以上、ガイの紋章を奪ったという話も事実に違いない。


「チッ……面倒だな。こうなったら片付けるか」


 口調が変わった? いや――むしろ、これがこいつの素の姿なのかもしれない。


「【勇魔法・大地剣】!」


 ギルが叫び、地面へと剣を突き立てる。直後、僕の足元から鋭い土属性の剣が突き上がってきた。


 反射的に飛び退いたおかげで、間一髪で回避できた。


「チッ、運のいいやつだ」

「運だと? 今のがそう見えるなら、テメェはネロには勝てねぇよ」

「……何だと?」

「【水魔法・水鉄砲】!」


 ガイの挑発に眉をひそめたギルへ、杖から無数の水弾を撃ち放つ。弾丸のような水が次々と命中し、ギルはうめき声を上げて膝をついた。


「今だ! 【水魔法・水ノ鉄槌】!」

「スピィ!」


 水で形作った巨大な槌をギルめがけて振り下ろす。肩のスイムも「いけぇ!」と言わんばかりに声をあげた。


「【剛腕】!」


 ギルが咆哮し、頭上で両腕を交差させて受け止める。


「これを……受け止めるだって!?」

「くっ……この力を使っても、この衝撃かよ。お前の魔法……何なんだ!?」


 僕が驚いたのと同じく、ギルも水魔法の威力に動揺している。


「ネロ! お前、何加減してやがる!」

「え?」


 ガイが歯を剥き出しにして怒鳴る。今の魔法に不満があるらしい。


「アイもそう思う。明らかに威力が低い。もしかして兄様との戦いの影響?」

 

 アイスが心配そうに眉を寄せた。確かに影響は少し残っているけど、もらった薬のおかげで魔力はある程度回復している。


 ただ、この場所を考えると――。


「お前……まさか、この牢にいる連中に配慮してるのか?」

「……その」

「やっぱりそうか。相変わらず甘ちゃんだな」


 ガイが呆れたように額を押さえる。ここは地下牢だ。強力な魔法を放てば周囲や構造に被害が及ぶかもしれない。それが気になってしまう。


「加減……それでこの威力だと?」


 一方のギルは、その事実に戦慄していた。だけど、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


「おもしれぇ。だったらその紋章、俺にくれよ」


 左手の黒い紋章が、妖しく光を増す。胸騒ぎがする。


「気をつけろネロ。あいつ、紋章を切り替えてくる」


 ガイの声にハッとする。そういえば先ほど“剛腕”と口にしていたけど、ガイの紋章にはそんな力はなかった。つまり紋章を切り替えたということだ。


「【武芸・勇心撃】!」


 今度はガイの得意としていた技だ――ギルが加速し、一直線に突っ込んでくる。勇気を力に変える一撃。その身体能力は跳ね上がり、あっという間に距離を詰めてきた。


「甘いよ! ガイに比べたら全然だ!」


 けれど、僕はガイの技を間近で見てきた。ギルの魔法も技も、ガイが使っていたのと比べたら中途半端なのがよくわかる。


「近づければ関係ねぇんだよ!」


 突進をかわした直後、ギルの左手が伸び、僕の手を掴む。


「しまった!」

「チッ、逆かよ」


 掴まれたのは右手だった。水の紋章は左手にあるため、ギルは舌打ちしたのだろう。


 だけど僕にとってはこちらの方がまずい。ギルには視えていないようだけど、この右手には――賢者の紋章がある。


「は、放せ!」

「……ん? その反応……まさか、こっちにも何かあるな?」


 しまった、動揺が顔に出た。逆に怪しまれてしまった。


「だったら先にこっちを奪ってやる! 寄越せ、その紋章を!」


 黒い紋章が一気に輝きを増す。奪われたら……不味い!


「な、ぐ……ぐわぁあああぁあ! 頭が……頭がぁあああぁあッ!」


 次の瞬間、ギルが悲鳴を上げて崩れ落ちた。黒い紋章の光は消え、彼は頭を押さえたまま苦痛に喘ぎ続ける。


「おい、何が起きてる?」

「わからない。でも今がチャンスだ!」

「確かに、ここを出るなら今しかない」

「スピィ!」


 悲鳴を上げるギルを置き去りにして、その場を離れる。右手の紋章を確認したけど――無事だ。どうやら、ギルでもこの紋章は奪えないらしい。本当に助かった。


 僕たちは地下牢を抜け、外に出る。


「兄様、ありがとう!」

「……いい顔をするようになったな」


 外で待っていたクールにアイスがお礼を言い、僕も手を振る。ガイは不思議そうな顔をした。


「なんでそんなに親しげなんだ?」

「彼は悪い人じゃなかったからだよ」

「スピィ♪」


 後は仲間と合流して脱出するだけ――そう思った矢先。


「……結局、この私自らゴミを片付ける羽目になるとはな」


 行く手を遮ったのは、ギレイル。まさか、このタイミングで……。

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