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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第272話 元勇者ガイを救出

 ネロたちがガイを助けに向かったのを確認し、クールは受け取った瓶の中身を飲み干した。


「これは――」


 瞳が大きく開く。手持ちの魔法薬(エーテル)と遜色ない――いや、それ以上の回復力が体内を巡った。


「クール様。ご無事でしたか」


 声の方へ振り向けば、スノウが歩み寄って来る。


「妹にしてやられたか。油断したか?」

「フフッ。クール様が思う以上に、アイス様は強くなられました。それだけです」

「そうか。お前が言うなら間違いあるまい」


 クールの口調はどこか晴れやかだ。


「しかし、あのネロという男――なぜ女装など?」

「変装でしょう。今となっては意味がありませんが」

「……そういうことか。ひと言ツッコんでやればよかったな」


 そうぼやきつつ、クールはネロとアイスが消えた扉を遠い目で見つめた。






◆◇◆


 僕とアイスは扉を抜け、地下へ続く階段を下りた。

 鼻を突くすえた匂い。湿った空気に混じる鉄錆と腐敗臭で、劣悪な衛生環境が一瞬でわかる。


 格子付きの牢がいくつも並び、ガイ以外にも囚われた人影があった。


「おい、女だぞ」

「へへっ、いい女じゃねぇか」

「なぁ、ちょっと慰めてくれよ」


 下卑た声。アイスの容姿を狙った視線に、背中がぞわぞわする。


「アイス、大丈夫?」

「問題ない。手を出したら――凍すッ!」


 睨みつけた瞬間、周囲の格子が薄氷で覆われる。


「ひ、ひぃ!」

「わ、わるかった! 勘弁してくれ!」


 囚人たちが震え声で懇願した。アイスの威圧は効果抜群だ。


「とにかくガイを探そう」

「スピィ!」


 周囲を見渡す僕の肩からスイムが跳び、ぴょんぴょんと奥へ進む。


「待って、スイム」

「スピ~」


 スイムはスライム特有の軟体を活かして最奥の牢へ潜り込んだ。


「な、お前はネロの? なんでここに?」

「スピィ!」

「ガイ!」


 鎖につながれたガイが、目を丸くする。


「無事でよかった」

「え? いや、まぁ……で、あんた誰?」


 戸惑うガイ。それにしても一体何を言ってるんだろう?


「君を助けに来た。ここを出よう」

「俺を助ける? バカ言うな。危険すぎる。さっさと戻れ」


 どこか妙に柔らかな口調……?


「危険は承知だ。君も一緒に――」

「無駄だ。ここは執念深い連中の巣だ。しかも、あんたみたいな可愛らしい子が首を突っ込む場所じゃねぇ」


 “可愛らしい子”――背中がぞわっとした。

 その時、アイスがぽつりと呟く。


「……そういえば、その格好」


 ハッ。そうかウィッグを外し忘れていた!


「あぁもう! 僕はネロだって!」


 ウィッグを脱ぎ捨てると、ガイは硬直。


「は? はぁああ!? ふざけんな! なんでそんな格好!」

「変装しないと潜り込めなかったんだ。さぁ出るよ!」

「う、うるせぇ! 俺は助けてくれなんて頼んでねぇ!」

「ここまで来て見捨てる選択肢はない!」

「スピィスピィ!」


 スイムも鳴いて説得。それでもガイはふてくされた様子。本当に仕方ないな。


「まずは格子を切る。水魔法・水剣!」


 老朽化した鉄格子はあっさり断ち切れた。ガイの動きを封じていた鎖と足枷も粉砕。


「ほら、肩を――」

「自分で歩ける!」


 ガイは意地を張って立ち上がる。無理はしていないようだ。


「それと、さっきの『可愛らしい』は忘れろよ」

「忘れたいよ!」


 僕とガイが同時に叫ぶと、アイスとスイムが呆れ顔でため息。


「とにかく急ごう」


 そう言って出口に向かうと――乾いた拍手が地下牢に響く。

 通路の奥、金髪の青年が不敵な笑みで立ちはだかる。


「騒がしいと思えば、とんだ闖入者だな」


 こいつはガイの代わりに勇者となった男、ギル・マイト。

 ギルの登場で重い空気が、さらに凍りついた――。

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