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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第271話 水と氷、決着の時

 クールは「水の力を見せてみろ」と言った。

 それなら応えないと――きっと彼は、あの最大魔法を放つ。


「氷雪魔法――氷竜崩雪(ハイペルボリア)!」


 宣告と同時、雪原が割れる。氷河の背骨がうねり、白銀の鱗をまとった巨竜が咆哮。雪崩を巻き込み、蒼い尾流を引いて迫る。


「ネロ、逃げないと!」

「逃げちゃ駄目だ。立ち向かう!」


 杖を両手で構え、心臓の鼓動を魔力に変える。


「水魔法――水龍裂波(すいりゅうれっぱ)!」


 蒼紺の奔流が竜骨を形作り、尾を引く大波を纏って射出。

 氷竜と水龍、質量と水圧――二頭が激突した瞬間、衝撃波が雪原を虚空へ巻き上げた。


 氷鱗が砕け散り、水飛沫が霧化。白と蒼がせめぎ合い、地形そのものが唸りを上げる。


「くっ、俺の竜に拮抗だと……!」

「僕の想いを乗せた魔法だ。絶対に負けない!」

「スピィ!」


 僕の声にスイムの声が乗った。


 クールの魔法はやはり強力だ。僕の龍と一進一退の攻防を繰り広げている。


 杖に集中し更に魔力を込める。負けられない、負けない、僕はクールに勝って、ガイを助け出す。


 そんな僕の思いに呼応するように水龍がさらに圧を増し、氷竜の首に亀裂――蒼い顎が氷を食い破り、雪崩ごと呑み込んだ。


「ぐあぁああッ!」


 クールの悲鳴と共に残った雪崩を水龍が押し返し、蒼い奔流に呑み込む。クールの身体が弾かれ、雪面へ叩きつけられた。


「……勝て、た?」


 気力がぷつりと切れ、膝が雪へ沈む。


「ネロ!」

「スピィ!」


 アイスとスイムが駆け寄る。魔力は空に近い。視界が揺らいだ。


――しかし、雪煙の向こうでクールが立ち上がる。


「そんな……!」

「スピィ!」


 アイスとスイムが僕を庇うように前に出る。


「どけ」

「どけない! ネロにこれ以上手を出すなら、アイが!」

「スピィ!」


 クールの氷色の瞳が細められる――が、やわらかな息が漏れた。


「勘違いするな」


 アイスを押しやり、クールは僕の前に膝をつく。震える手で小瓶を取り出した。


「口を開けろ。それぐらいできるはずだ」


 言われるまま唇を開く。甘い液が一気に流れ込み、喉が焼けるように熱い。


「ゲホッ、ゲホッ!」


 肺が燃える感覚。だが数拍後――

 枯れかけた魔力の泉に水が注がれたように、力がじわりと満ちてきた。指先が温かさを取り戻し、視界の霞が晴れていく。


「効果はあったようだな。とっておきの魔法薬(エーテル)だ。感謝しろ」


 ふらりと尻をつくクールも、限界は近いらしい。


「ありがとう。でも、いいの?」

「俺ももう戦えん。……負けだ」


 細い笑みに、ようやく胸が緩む。


 アイスがクールに頭を下げ、スイムも跳ねて礼を伝える。

 クールは顔をそむけ指で鉄の扉を示した。


「探している男は、その先の地下牢にいる」

「ありがとうクール。あ、そうだ空き瓶もらっていい?」

「好きにしろ」


 受け取った瓶に魔力水を満たし、手渡す。


「お礼に受け取って。魔力が戻るよ」

「……本当に変わった奴だな」


 呟きながらも瓶を受け取るクール。


 僕は立ち上がり、回復した魔力が脈打つのを確かめる。

 体の奥に、再び水が巡り始めた。


「さあ行こう、ガイを助けに」

「スピィ!」


 肩のスイムが元気よく鳴く。背中で、兄妹の声。


「お兄様……」

「行け。お前が選んだ道だろう」

「うん。アイはもう迷わない!」


 仲間の足音が追いかけて来る。僕は雪を蹴り、新たな戦場へと駆け出した。

 ガイを救う――その想いが、胸に再び熱を灯す。

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