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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第269話 アイスの求めた強さ

いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!

(アイの目指した強さ(・・)――)


 スノウの問いかけに揺らいだ心を、アイスはひと息で静めた。

 そして思い起こす。あの夜、胸に焼きついた背中と、涙の味を――。





◆◇◆


『アイス。お前の魔法はもう不要だ。これからは俺の力だけでブリザール家を支えていく』


 十二歳で氷の紋章を授かった直後。努力を続けてきたアイスに向けられたのは、兄クールの刃のような言葉だった。


『お兄様……。アイは、もう不要――?』

『そうだ。――家を出ろ。それが身のためだ』


 背を向ける兄が遠かった。氷魔法の腕が劣ることは痛いほど分かっていた。それでも追いつきたくて、毎晩指が切れるまで魔力を磨いた。


 なのに、認められることはなかった。悔しさと悲しみで凍えたアイスに、そっと手を差し伸べたのがスノウだった。


『クール様は――』

『アイが弱いからよ! でも……強くなりたい。スノウ、力を教えて! お兄様の側にいる貴女なら分かるはず!』


 涙の奥で燃える瞳を見て、スノウは頷いた。


――氷魔法だけでは届かなくても、別の刃を手にすれば追いつけるかもしれない。

 それがスノウの持つ脚技(スケート・ブレード)だった。





◆◇◆


(そう。お兄様に追いつくため――)


 アイスは拳を握り、目の前の師へ覚悟を示した。

 スノウも微笑まず、鋭い氷刃の靴底で氷面をキックする。


「振り切れたようね。ならば本気で来なさい」

「見せるわ、私の“閃き”――氷魔法・氷の軌条(アイスレール)!」


 右手を振り下ろすや、氷のレールが雷光のように伸びる。

 アイスは刃付きブーツを生成――


「氷魔法・氷場演滑(ひょうじょうえんか)!」


 レール上でスパークを撒き散らし、加速の限界を超えていく。氷面に残る白線は、蒼い彗星の尾。


「なら私も――アクセル!」


 スノウが前踏切一回半の跳躍。空中で腰を絞り、着氷と同時に氷面を“一本足キャメル”で抉った。エッジから吹き飛ぶ氷華が風花となる。


 距離が縮む。

 交差の刹那――


「氷魔法・氷翼天使(アイスエンジェル)!」


 アイスの背に六枚の氷翼が展開。翼面を叩きつけ、さらなる推進力を得た。足払いの円弧が青白く光る。


「負けられない――シットスピン・【豪嵐刃舞脚】!」


 スノウは腰を沈め、シットスピン姿勢のまま超高速回転。ブーツの氷刃が竜巻を呼び、切子の嵐が舞い上がる。

 二つの流線が衝突――蹴りと蹴り、翼と竜巻がぶつかり、凍気の爆音が轟いた。


 光と風の渦が刹那に膨張し、次いで弾ける。

 竜巻の中心で氷翼が砕け、二人は反動で放物線を描いて地へ叩きつけられた。


「くッ……アイは、負けられ、ない……!」


 アイスが雪を掴み起き上がろうとする。そこへ、ヒールが氷面を刻む足音。

 振り返れば、スノウが凛として歩み寄っていた。


「そんな……届かなかったの?」

「いいえ――見事だったわ」


 最後の一歩で力尽き、スノウはアイスの隣に倒れ込む。


「ス、スノウ!」


 アイスは慌てて抱き起こすが、スノウは弱く首を振る。


「敵相手に、そんな顔を……」

「違う! スノウは敵じゃない! アイがここまで来られたのは……貴女のおかげ!」


 ぽろりと落ちた涙を、スノウは指先でそっと拭った。


「大丈夫。私はまだ立てるわ。だから――」


 右手が伸び、アイスの髪をひとなで。


「伝えておきたいことがある」

「アイに?」

「ええ。貴女は勘違いしている。クール様が貴女を突き放したのは、力を認めていなかったからじゃない。あの人、不器用で――大事なものほど手放そうとする。巻き込みたくなかったのよ」

「お兄様が……私を?」


 瞳が揺れ、すぐに燃えた。

 スノウは微笑む。


「分かったら行きなさい。私は大丈夫――クール様の所へ」


 アイスは涙を拭い、立ち上がる。脚が氷を踏み割り、ネロとクールの衝突が轟く白煙へ向かって走り出した。

本日コミックノヴァにて本作のコミカライズ版最新の第8話が公開されました!

コミック第1巻も好評発売中!どうぞよろしくお願い致します!

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