第263話 姉と妹
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エクレアたちがアンダラと刃を交えている最中──ウィンは父ギレイルと対峙していた。
庭園に吹き込む風が二人の外套を揺らし、剣尖が陽光をはね返す。
「素直に退くつもりはなさそうだな」
「愚問だな。姉として愛弟を助けるのは宿命。たとえ相手がお前であっても──だ」
父を真正面から睨み据えるウィンの瞳には、微塵の迷いもない。
「まったく、あんな塵のどこが良いのか理解に苦しむ。お前だけだぞ、あの塵をそこまで気にかけるのは」
「私以外、見る目のない者ばかりということだ」
ギレイルが失望にかすかな溜息を漏らす。
「優秀ゆえ目をかけてきたのだが、残念だな。──魔導錬金・三大練兵」
地面へ両掌を押し当てた瞬間、火、風、土の魔力が渦を巻き、三体の兵士がせり上がった。熔岩を纏った剣士、旋風が鎧を成す槍兵、巨岩の盾を掲げた衛士。三方同時に突進してくる。
「相変わらず節操のない錬成だ」
ウィンは吐き捨てるや、剣を反転させ一歩で間合いを詰めた。火の剣士の斬撃を躱しつつ風兵の槍先を足刀で弾き、岩盾の裂け目へ鋭く突きを通す。土兵が砕け散る衝撃で剣閃が走り、爆ぜた岩屑が宙に舞う。
「まだだ──魔導錬金・多連大砲!」
父の両脇に、砲身が蜂の巣のように連なった魔導大砲が生成される。轟音とともに放たれた砲弾が乱舞し、石壁を抉り、噴煙が真昼を曇らせた。
「派手だが私には当たらん!」
ウィンは足下に風を纏い、空隙を突く跳躍で弾幕を縫う。すれ違いざま放った斬閃が数発の砲弾を真っ二つに裂き、魔力の火花が夜空のように瞬いた。切り裂かれた砲弾が爆ぜる炎を背に、ウィンは一気に父へ肉薄する。
「魔導錬金・泥田坊!」
足下の芝が波打ち、巨躯の泥人形が現れた。
剣を一閃。巨人は刹那で散ったが、飛散した泥が広範に降り注ぎ、地面を泥濘へ変貌させる。膝まで埋まったブーツが、機動の要である風の加護を鈍らせた。
「残念だったな。それでは思うように動けまい」
「少しは考える頭があったようだ。しかし……屋敷が見る影もないぞ。後で使用人が泣く」
「我が家のメイドと執事は優秀だから問題ない。──さて、お仕置きの時間だ」
「お父様! その役目、ぜひ私にお任せを!」
高空から震える声。祇の翼を広げたスネアが旋回し、烈風を巻き起こして舞い降りる。
「見つけたわ、ウィンリィ! よくも私の髪を滅茶苦茶にしてくれたわね!」
乱れた緑髪を振り乱し、鬼女の如く歯噛みする妹。ギレイルの傍らに降り立つなり父へ訴えた。
「この女は私がしっかり躾けます! どうかお任せを!」
「──ふむ」
顎を撫でたギレイルはウィンへ視線を向け、愉悦に唇を吊り上げる。
「よかろう。たまには姉妹で語らうのも悪くあるまい。好きにするがいい。──魔導錬金・疾風馬」
渦風が蹄を形作り、淡青の駿馬が出現。ギレイルは颯爽と跨った。
「行かせるか!」
「あなたの相手は私だと言ってるでしょう!──蛇召喚魔法・毒千蛇!」
スネアが手を翳し叫んだ。地脈を裂いて噴き上がる黒煙の中から、無数の毒蛇が頭をもたげた。千を下らぬ牙が一斉に鎌首を振り、ウィンへ殺到する。
だがウィンの足首は深い泥へ囚われたまま。踏み切れず、剣の軌跡がわずかに鈍る。
襲い来る蛇群の嘶きが、まるで勝利を告げる軍鼓のように鳴り響いた――
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