第261話 雷対紙
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「随分と生意気な口が聞けたものね」
アンダラが細めた瞳でエクレアを射抜いた。つい先ほどまでネロを罵倒していた険しい顔は消え、冷徹な狩人の表情へ切り替わっている。
「生意気なんて思わないわ。ただ事実を述べただけ」
「それが生意気なのよ。――お仕置きが必要ね」
アンダラが指先を跳ね上げると、突風が走り、色とりどりの紙片が渦を巻いて舞い上がった。
「私の紙風魔法、思い知りなさい。山折り!」
凄まじい早さで紙片が折れ線を刻む。空中で折り重なるたび、紙片は刃のような硬質音を立てて形を変えていく。
「谷折り!」
アンダラの二声目とともに折り目が反転し、整然と収束。瞬時に幾百の小さな風車へ変貌した。
「紙風魔法・紙折風車」
風に噛んだ風車がギュルギュルと不気味な音を立てながら回転を加速する。
「切り刻みなさい!」
一斉に解き放たれた風車がエクレアへ殺到。回転した刃が空気を裂くたび、ひどく嫌な風鳴りが耳に突き刺さった。
「エクレアっ!」
マキアの悲鳴に似た声。しかしエクレアは冷静だった。迫る風車の軌跡を読み、最小限の体捌きで刃を躱す。すれ違いざま、雷を纏った鉄槌を叩きつける。
――崩れない!?
風車は紙とは思えぬ強度で槌撃を受け流し、むしろ衝撃を糧にさらに速度を上げた。
「紙だから脆いと思った? 甘いわね。風と折り紙が重なれば鋼より頑丈よ」
アンダラが口元に指を添え、得意気に笑う。エクレアの額に焦りが滲んだ。
「エクレア、敵は“紙”じゃない!」
マキアが叫ぶ。──そうだ。狙うべきは本体。
「武芸・電光石火!」
雷光が迸り、エクレアは床をえぐる音とともに消えた。残像を置き去りにして一直線にアンダラへ。
「これで決めるっ!」
「紙風魔法・折壁陣」
空間が折り重なったかのように多層の紙壁が瞬時に出現。雷速の突進を受け止め、内側に溜め込んだ風圧が膨張――
「くっ!」
真横へ弾き飛ばされるエクレア。その先にはまだ紙折風車が旋回していた。咄嗟に体を捻るが、紙刃が肌を裂き、血飛沫を散らす。
「ぐはっ!」
床を転がり、鉄槌で無理やり身を支える。防具の隙間から赤い雫が滴り落ちた。
「多少はやるかと思ったけれど、気のせいだったようね」
余裕の笑みを崩さぬアンダラに、エクレアは荒い息を吐きながら顔を上げる。
「確かに強いわ、認める。でもまだ私にはやれることがある!」
「その目つき、気に入らないわね。でもね……私、一つ発見したの」
アンダラが両手を広げる。紙片が折り重なって甲冑へ、兜へ、槍へ。風が吹き込み、紙とは思えない重量感を生む。
「紙風魔法・紙装甲」
鎧兜を身に纏ったアンダラが槍を突き出す。柄が蛇のように伸び、切っ先の風が旋回して刃を研ぐ。
エクレアは一歩踏み込み、鉄槌を握る手に雷を集中させる。雷光が轟き、空気が焦げた匂いを放つ。
「武芸・雷神槌!」
生命力を燃やす切り札。鉄槌が落ちた瞬間、雷鳴が空気を揺るがせ、白い閃光がアンダラを包み込んだ。
マキアが息を呑む。だが閃光が消えると、そこに立っていたのは紙装甲で無傷のアンダラだった。
「やっぱり思ったとおりね。私の紙には雷が通らない。これであなたに勝ち目はないわ」
「そ……そんな……」
エクレアの瞳に動揺が広がる。風車はなおも背後で回り続け、風はアンダラの槍にうなり声を与えていた――。
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