第255話 それぞれの役割
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「ネロ。マキアさんたちのことが気になるから、私は様子を見てこようと思うんだ」
走っている途中でエクレアが僕たちにそう提案してきた。確かに、僕たちの正体がバレた以上、マキアとザックスが狙われる可能性は高い。しかもそうなると相手はあのアンダラとスネア。近くには戦闘メイドも控えているはずだ。どう考えても無事では済まないだろう。
「でも、エクレア一人じゃ危険だよ」
「大丈夫! ネロはガイくんのことがあるし、それに私がいちばん速く助けに行けると思うからね。だから、アイスちゃん。ネロのことよろしくね」
「……わかった」
どうやらエクレアの意志は固いらしい。エクレアは仲間思いだから、ここまで協力してくれたマキアとザックスのことを放っておけないのだろう。
「わかった。でも無茶はしないでね。あの二人は性格は最悪だけど、実力は本物だから」
「うん。肝に銘じておくよ。それじゃあ――武芸・電光石火!」
エクレアが雷を纏うと、あっという間に駆け抜けるように走り去っていった。あの速度なら、確かにすぐにでもマキアとザックスの下へ向かえるだろう。
「……こうなったら絶対にガイを見つけないと」
「スピィ!」
「……急ぐ」
アイスが短く言葉を返し、僕たちは再び駆け出した。問題は、ガイがどこに囚われているかだ。
「この屋敷でガイが捕らえられているとしたら……」
僕は思考を巡らせる。罪人として捕らえられているという形であれば、アクシス家にある地下の独房以外に考えられない。
「多分、こっちだと思う」
僕は記憶を頼りに地下独房へと繋がる道を探すことにした。独房に用があった経験はないから、曖昧な場所しか覚えていないけれど、今はそれでも進むしかない。
「来たな、ゴミが」
「やれやれ、我々が出ることになるとはな」
ガイを救うため、屋敷の奥へ突き進む僕たちの前に、二人の執事が立ちはだかった。一人はサングラスをかけ、すらりと上背のある男。もう一人は金髪の大柄な男で、黒スーツがパンパンになるほど筋骨隆々だ。
「悪いが、ここから先は進行不可だ」
サングラスの男がそう言いながら腰からレイピアを抜く。
「俺たち相手に三十秒でも持ちこたえたら褒めてやるよ」
金髪の男が筋肉を膨張させると、スーツの背中が弾け飛んだ。二人の右手には紋章が見える。どちらも武系紋章の使い手だろう。
さらに、サングラスの男の袖の隙間からは宝石の嵌まった腕輪がちらりと見えた。スキルジュエルだろうか。その存在が少し気にかかる。
そして、こちらに向かってきたのはサングラスの男だった。
「水の紋章など、秒で始末してくれる」
「できるものならやってみなよ! 水魔法・水槍!」
腰から杖を抜き放ち、水の槍を様子見程度に飛ばしてみる。サングラスの執事は身体の軸をさっと傾け、攻撃を難なく避けた。動きが速い。この執事、なかなかの実力者だ。
「俺の相手はこっちか。こんなちびっこい女じゃ、あっさりひねり潰せちまうぜ」
「……黙れ。凍すぞ」
背後から聞こえてきたのはアイスと巨漢執事の声だ。アイスは冷徹な口調で応じているが、彼女の実力なら大丈夫だろう。今は僕のほうに集中するべきだ。
「武芸・瞬連突」
「水魔法・水守ノ盾!」
サングラスの執事が高速の連続突きを繰り出す。水の盾で防ごうと思ったが、速さに捌ききれず、何発かはローブを掠めた。
それでも――幸い、傷はない。Cランク試験前に仕立ててもらった頑丈なローブのおかげだ。センツには感謝しきれない。
「スピィ!」
「ムッ! ぐわっ!」
すると、僕の肩に乗っていたスイムが執事に向けて水を噴射した。同時に水が燃え上がり、相手の黒スーツに燃え移る。スイムの“燃える水”による攻撃だ。
「チッ!」
執事は燃え上がるスーツを瞬時に脱ぎ捨てる。その判断も早い。やはりアクシス家で雇われているだけあり、只者ではないようだ――。
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