第254話 アクシス家での戦い
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周囲にはナイフを手にしたメイドたちが迫ってくる。一方でウィン姉とギレイルは睨み合ったまま、互いの隙をうかがっていて動けないようだ。ともかく今はこのメイドたちを何とかしないと。
「水魔法・水守ノ壁!」
魔法を行使すると、床から吹き出した水が壁となり、僕たちを囲んだ。メイドたちは壁に向かってナイフを振るけれど、分厚い水の壁を断ち切ることはできない。
「なんだあれは? まさかあれが水の魔法とでも言うのか――」
ギレイルの声が耳に入る。僕の魔法に驚いているようだ。あの男の中では、いまだに僕の紋章の力は「単に水を流すだけ」で止まっているのだろう。
「魔法風剣・疾風の刃!」
ウィン姉がギレイルに攻撃を仕掛けたのが目に入った。ギレイルの注意が僕の魔法に向いた隙を突いたのだと思う。
ウィン姉が剣を振ると、複数の風の刃がギレイルへ飛んでいく。ウィン姉は剣の紋章と風の紋章を宿している、いわゆる複合属性だ。
「チッ、あんなゴミに気を取られるとはな。魔導錬金・土の大壁!」
ギレイルが声を上げ、両手を地面に叩きつけると、巨大な土壁が地面からせり上がり、ウィン姉の風刃を防いだ。壁は風を受け止めるとすぐに床へと戻っていく。
「ネロのことをいまだに格下と思っているようだが、私の愛弟は今でも成長し続けている。それを見抜けないとは、我が親ながら情けない」
「黙れ。この私が見誤るなどありえん。いや、あってはならんのだ。魔導錬金・火炎人形!」
再び両手を床に叩きつけるギレイル。炎をまとった人形――ゴーレムが複数体せり上がってくる。ギレイルは魔導の紋章と錬金の紋章を宿す複合属性持ち。ふつうの錬金魔法では扱えない“炎”を使った錬金が可能なのは、その特殊な組み合わせの賜物だ。
ゴーレムはごうごうと燃え盛りながら、こちらへ迫ってくる。さらに周囲のメイドたちも一斉にナイフを構え、攻撃の手を緩めない。
「チッ、早く行くんだ、ネロ!」
ウィン姉は火炎ゴーレムを切り裂きながら、僕たちにそう叫んだ。三体ほどを一瞬で斬り倒した剣筋はさすがだ。でも、倒しきれなかった分が二体残っているうえ、メイドたちは依然として攻め寄せてきている。
ウィン姉は「逃げろ!」と促してくれるけど、正直相手が多い。このままではメイドとゴーレムに押し潰されてしまうかもしれない。
「スピィ!」
そのとき、服の中に隠れていたスイムが飛び出し、ゴーレムに水をかけた。勢いをつけた水が炎を包み、一瞬だけ動きを鈍らせる。
「そうだ、ネロ! 水を使うの!」
エクレアの声が耳に届く。周囲を見渡すと、彼女もウィン姉やアイスと合流しながら頑張っているようだ。
「水魔法・放水!」
大きく息を吸い込んで魔力を集め、水を放出した。メイドたちや残ったゴーレムに一気に水を浴びせ、床をびしょ濡れにする。ただ、それだけで動きを止められる相手ではない。
「やはり所詮は水だな。濡らすぐらいしか能がない」
「それが大事なのよ! 皆、備えて!」
「水魔法・純水ノ庇護!」
「氷魔法・氷円柱――」
エクレアの声に合わせ、僕とアイスが魔法を行使する。アイスは床を一気に凍らせ、足元に円柱を作って跳び上がった。僕は純水を全身に纏い、雷の通り道から自身を守る結界を張る。
二人の準備が整ったのを見たエクレアが、さらに行動を起こした。
「武芸・雷撃槌!」
エクレアが大きく跳躍し、雷をまとった鉄槌を振り下ろす。周囲から見ると、いまいち意味がわからない場所を叩いているように見えたかもしれない。
しかし、そこには床一面に広がった“水”がある。水は雷を伝導し、メイドやゴーレムを一網打尽にする最強の媒介になった。水が増幅した電撃は激しい閃光となり、悲鳴を伴ってあたりに散っていく。
「ば、馬鹿な、こんな攻撃が……!」
「うわっ、きゃああっ!」
床の水を通して増幅された雷撃に、メイドたちは軒並み倒れ込み、炎のゴーレムはそのまま四散して消え去った。純水ノ庇護で身を守っている僕や飛びながら攻撃していたエクレアは影響を受けない。
「馬鹿な、何が起きたというのだ!」
「水と雷の相性は最高ってことさ!」
歯ぎしりするギレイルを横目に、僕は言い放った。ギレイルの瞳には、まさかこんな形でメイドやゴーレムが撃破されるとは――という戸惑いが浮かんでいるように見える。
「ムムムッ、弟よ! 相性なら私ともバッチリであろう!」
「そこ張り合うところ!?」
ウィン姉がなぜか悔しそうに叫んでいて、思わずツッコミたくなる。ただ、勝負はこれで終わりではない。
「フンッ。今は仕方ない。それより早く行け!」
「でも、ウィン姉!」
「目的を見失うな! 救うんだろう? 勇者ガイを!」
ウィン姉の言葉を聞いて、はっとする。そうだ、ここに来たのはガイを救うため。僕は思わず顔を上げ、仲間のほうを振り返った。
「わかったよ。でもウィン姉、気をつけて!」
「フッ、安心するがいい、愛弟よ。こう見えて、私は強い」
ウィン姉の頼もしさに甘え、僕はガイを探しに行くことを決めた。
「師匠! アイは残って側に……!」
「だめだ。アイス、お前はネロを助けろ。頼む」
ウィン姉を「師匠」と慕うアイスは、彼女を守るために残りたいようだが、ウィン姉からの強い要請に、結局は踵を返す。
「師匠の頼みなら絶対に守る。行こう!」
「うん。頼りにしてるよ、アイス!」
「急ごう!」
「スピィ!」
こうして、僕とエクレア、アイスにスイムを加えた四人はガイを捜すため、アクシス家の奥へと足を速める。水浸しの廊下を踏みしめる感触は、先の戦いの名残を示している。
逃げ道を塞ぐメイドたちはほとんど動けなくなり、ウィン姉に任せた。今こそ、ガイを見つけて処刑を食い止めなくては――
いよいよ本作のコミカライズ版単行本第1巻が本日発売されました!
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