第251話 変わらない母と妹
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「やっと来たわね。待ちくたびれたわよ。由緒あるアクシス家からの依頼なのですからしっかり仕事しなさいな」
「えぇお母様。さぁ早速取り掛かって貰えるかしら? 偽勇者の処刑の立ち会いが近づいているのですからね。私たちを今よりももっと美しくして頂戴。もし失敗したら、どうなるかわかるわよね?」
二人の第一声がこれだった。一応は僕の母であるアンダラと妹であるスネアがそこにいて、相変わらず傲慢さの感じられる物言いをしていた。
二人は僕にチラッと目を向けた後、すぐにマキアに視線が移った。今の僕は女装中だから、きっと彼女たちにはばれるはずがない。というか、ばれるわけにはいかないのだけど――それでも久しぶりに目にする母と妹は、昔と少しも変わらない姿でそこにいて、内心げんなりする。
アンダラは優雅な衣装に身を包み、どこか上から目線を感じさせる態度で立っていた。まるでこの世の誰よりも自分が偉いと言わんばかりの、あの高慢な雰囲気は相変わらずだ。
灰色の髪には丁寧な手入れが行き届いているらしく、軽く波打つ長い髪を撫で下ろす仕草すら堂に入っている。薄化粧が上品さを演出しているけれど、昔から彼女の態度や眼差しにはどこか冷ややかな空気がまとわりついていた。
――こうしてあらためて見ると、確かに母親らしい優しさの欠片も感じられない。それは子どもの頃の僕が見ていた光景と全く同じだった。
一方のスネアは、少し大人びたドレスを着ている。緑地の生地に赤のレースをあしらった意匠が、彼女の尖った性格を象徴しているようだ。顔立ちだけは華やかになったが、睨むような視線で周囲を見下すクセは相変わらず。
口角をほんのわずかに曲げ、まるで「この屋敷の客人ごときが私の前にひれ伏すのが当然」とでも言いたげな表情をしている。
かつて妹だった彼女の姿を見て、懐かしさよりも“ああ、やっぱりスネアだ”という諦めのような感情がこみ上げる。変わらない性根に、内心でため息しか出てこない。
「さぁ、すぐに取り掛かって頂戴」
「はい。それでは二手に分かれてすぐに取り掛かりますね」
ニコリと微笑み、マキアが丁重な姿勢で答えた。さすがプロだね。目的がどうあれ仕事とあればそれに徹する。だからこそ僕たちもしっかり取り繕う必要がある。
表面上は微笑みを浮かべて、アンダラとスネアに失礼のないよう頭を下げる。胸の奥にわずかな苛立ちを抱えながら、僕は思う。
やはりアクシス家というのはそう簡単に変わるわけがない。母も妹も、あの頃のままの高慢と見下しを纏っている。僕が――ここを出ていったあの日から、この屋敷の空気はまるで時間が止まっているみたいだ。
――何かと内心で不快感を覚えながらも、ここで目的を果たさないわけにはいかない。ガイを救うための潜入だ。
このまま素性を知られずに、ガイを救う手がかりを見つけられればいいんだけど。女装姿のままゆっくりと礼をとり、彼女たちを刺激しないよう、僕は静かに息をついた。
「貴方――何か不快ね」
「え? わ、私が、でしょうか?」
ふと、スネアがそんなことを言ってきた。何か疑わしそうな目を向けてきている。これは、まさかバレた!?
「はいはい、お前は私が直に相手してやろう」
「は? ちょ、この私に向かって失礼よ!」
「いいから来い」
「アイもこっちを手伝う」
一瞬ヒヤッとした僕だったけど、ウィン姉とアイスがスネアを引っ張っていってしまった。凄く強引だったけどね……。
「ちょ、あの男は一体何してるの! 私の娘にあの態度は何!」
「まぁまぁ。彼、ウィズはあれでも腕は確かなので」
怒り出すアンダラをマキアがどうどうと宥めていた。その後は三対三でわかれることになったので、ザックスはウィン姉とアイスの方に向かったね。
つまり、アンダラにはマキアと僕とエクレアがつくことになった。それにしてもまさか僕が手伝いとは言え、アンダラにメイクを施すことになるなんてね――
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