第245話 拾われたギル
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「多勢に無勢って奴か――」
牢屋の中でギルはポツリと呟いていた。母親を殺した男を見つけ殺害したギルだったが、すぐに足がつき騎士たちに囲まれボコボコにされて捕らえられることとなった。
殺害動機についてギルは母親を殺した相手だから殺したと伝えた。だが母親をなくしたギルには身よりもなく、このまま行けばタダの殺人犯として裁きを受けることになる――そんなときだった。
「お前がギルか」
一人の男がギルの面会にやってきた。ギルはうっすらとその顔に覚えがあった。
「あんた誰だ?」
「……私はお前の父のグラン・マイトだ」
グランの話を聞き一瞬だけギルの目が見開かれた。同時に何故覚えがあった気がしたのか理解した。ギルは父親なんて顔も覚えていないと思っていたが記憶の断片に僅かにこびりついていたのだ。
「俺の父親だと? これまで一度も顔を出さなかったくせに今更なんだ?」
ギルは嫌悪感を隠そうともせず言い放った。グランは表情を変えず口を開く。
「風の噂でお前が事件を起こしたと聞いてな。顔を見に来た」
「フンッ、俺は見たくなんてなかったがな」
「そうか――」
グランはギルの反応に探りを入れているようであった。その視線がギルの右手の甲に向けられる。
「その紋章は?」
「あん? 俺の紋章だよ」
「それはおかしいな。色々と話しを聞いたがお前にはつい最近まで紋章は浮かんでなかったというじゃないか。だが捕まった時には紋章があった。相手を殺したのもその紋章の力らしいな」
「――朝起きたら出来てたんだよ」
「見え透いた嘘を付くな。紋章は儀式を行わなければ授かることは出来ない。だが、お前が儀式を行ったという事実はないはずだ」
グランの指摘にギルが渋い顔を見せた。同時にやはりそうか、と納得した。儀式の事は知っていたがギルの知識は道端などで盗み聞きした上で得た知識でしかなかった。
ここでグランにハッキリ言われたことでそれが事実だと知ることが出来たのは大きいだろう。もっともいつの間にか紋章を授かっていたことに嘘はないのだが。
「お前はその紋章をどうやって手に入れた?」
「フンッ。奪ってやったんだよ。この紋章の力でな」
ギルが左手の甲を見せながら得意げに語った。自分と母を捨てた男に見せつけてやりたかったという気持ちもあったが、確認したかったというのもある。
「――何を言っている? そっちの手には紋章なんて刻まれてないだろう」
グランの反応を見てやっぱりか、とギルは髪を掻き毟る。
「やっぱり視えねぇんだな。お袋と一緒だ俺以外には気づきもしねぇ」
「自分以外、だと? まさか! その紋章は黒いのか!」
両目をカッ! と見開きグランがギルに詰め寄った。
「――あんた、紋章が視えてないんじゃなかったのかよ」
「やはりそうか。お前には黒い紋章が宿った。そうなのだな?」
「あぁそうさ。折角だからあんたの力も奪ってやろうか!」
牢屋越しに叫ぶギル。それを見たグランの表情が変わった。
「そうだったんだな――済まなかったギル。これまで苦労を掛けたな」
「は?」
突然の謝罪にギルは戸惑った。一体何を企んでいる? と疑いもしたが、グランはギルを迎えに行けなかった理由をもっともらしく話して聞かせた。その上で、これからは自分の子どもとして面倒を見るとも――
その直後、ギルは牢屋から出された。ギルがどれだけ言っても聞く耳をもってくれなかったがグランの口添えにより正当防衛が認められたのだ。
「あんた一体どういうつもりだ?」
「せめてもの罪滅ぼしだ。さぁ一緒に来るんだ。お前は今日から私と暮らすのだからな」
そう言って連れて行かれたのがグランの屋敷にある地下室だった。グランは言った。黒の紋章がある以上、すぐに外で暮らすのは難しいと。だから自分が準備している間は地下にいてくれと。それからガイの処刑が決まるまでの間、ギルは地下で人の目から隠れるように過ごし続けることとなったのだった――
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