第243話 ギルの人生
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「ハハッ、あいつ。ザマァないな」
部屋に戻ったギルは今日の事を思い出し、一人ほくそ笑んでいた。現在ギルはグランと共にアクシス家の屋敷で逗留していた。
与えられた部屋は一人で過ごすには十分すぎるほどの広さがあり、様々な調度品も並んでいる。設置されたベッドもフカフカである。
これまでの暮らしとはまるで違う扱いにギルは高揚していた。
ギルはグランの妾の子としてこの世に生を受けた。
しかし当時のグランは妾の子であるギルに関心を持たず、最低限の金だけを渡してその後の関わりを絶っていた。
その為に、幼少の頃のギルは父親の顔も知らず母親と二人で暮らしていた。生活は決して楽ではなく一日一食など当たり前であり、与えられる食事もパン一欠片なんてことがザラにあった。
母親は体を売ることで生計を立てており、男が取っ替え引っ替えやってきては消えていく。そんな男たちに暴力を振るわれることもギルにとって当たり前であった。
ギルにとってはつらい日々だったが、その頃の母はまだギルに優しかった。それがギルにとって救いだった。母は時折、ギルの父親について語ることがあった。その際にギルは自分には一人兄がいることを知った。
母は言っていた。先に生まれた兄がいたからギルも自分も不必要とされたのだと。その事を思い出しては母親は悔しそうに表情を歪ませていた。
ギルが成長するにつれ優しかった母親の様子も変わっていった。
『見てるだけであいつを思い出す』
と罵り手を上げるようになっていた。だが時折思い出したようにギルを抱きしめ、ごめんね、と繰り返した。この頃には母親の情緒は不安定なものになっていた。
ギルの母親は決して良い母とは言えなかっただろう。そんなギルの生活に変化が表れたのは彼が十二歳になった時だった。
その日の朝、ギルは自分の左手に黒い紋章が浮かび上がっていることに気がついた。貧乏だったギルは学校にもまともに通えなかったが、暮らしていた町人の話から、十二歳になった時には紋章が浮かぶことがあると察していた。
紋章を授かると特別な力が手に入ることも理解しており、それが自分の左手に浮かび上がったのだ。ギルはこれで糞みたいだった自分の人生も多少はマシな物に変わるかもしれないと考えた。
その日の朝、ギルは母親に伝えた。自分の手に紋章が浮かんだと。喜々として話して聞かせた。だが母親の反応は冷たかった。何故なら母親には紋章が視えていなかったから――
そう、幾らギルが訴えても母親は信じなかった。何より母によると、紋章を得るには儀式が必要であり、それがなければ資質があったとしても紋章が浮かび上がることはないというのだ。
当然ギルはそんな話を聞いても納得はいかなかった。何せ自分の手には間違いなく紋章が刻まれている。夢でもなければ幻覚でもない。間違いなくそこにあるのだ。
ギルは何とか母に信じてもらえないかと色々と考えた。足りない頭で必死に考えた。だが結局ギルの願いが叶うことはなかった。
何故なら母は死んだからだ。それは唐突な出来事だった。いつものように生活の為に母は男のもとに向かったが、そこで死体として発見されたのだ――
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