第242話 勇者の弟は真の勇者?
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「この度は、私に弁明の機会を与えてくれたアクシス侯爵に感謝致します。おかげで真の勇者であるギルの存在を伝えることも出来ました」
言ってグランが深々と頭を下げた。するとギレイルが隣に立ち、グランの肩をたたき同情するように言った。
「グラン、正直に話してくれてありがとう。私も最初は、よもや勇者ガイが罪人になるなど夢にも思っていなかった。ましてやガイが殺害したのは私の屋敷で長く務めてくれた執事だ。ハイルトンは仕事熱心な男だった。その生命を奪った事は到底許せることではないが、そなたも苦労したのだな」
ギレイルは一見すると寛大な態度を取っているように見える。だけどその目に宿る光からは野心しか感じられなかった。ハイルトンの死について本気で悲しんでいるようにはとても思えなかった。
「――勇者ガイが偽物だったことについて、ここに集まった民も思うところがあるだろう。勿論勇者を語ったガイには極刑が相応しいが、敢えて私は言おう! このグランも被害者であったと! そしてそれはここにいるギルにしても同じ! 偽物の兄に振り回され日陰者として暮らす他なかったのだ。だが、これからは違う! 私はここに宣言しよう、今後はここにいるギルを真の勇者と認め、惜しみないサポートを約束すると!」
ギレイルが聴衆に向けて声高々に言い放った。最初は聞いていた人々からも戸惑いが感じられたが――
「流石はアクシス侯爵様だ! 寛大かつ慈悲深い!」
「ガイは偽者だったけど、これからギルが勇者として活躍してくれるに決まってるわ!」
「あぁ、俺たちは新しい勇者を歓迎するぜ!」
「勇者ギルとアクシス侯爵様バンザーイ!」
そんな声と共に拍手が起きると吊られるように拍手が広がっていき、あっという間に歓声の渦に包まれたんだ。
「とんだ茶番だな」
この光景を見ていたウィン姉が呆れたように言った。僕もそう思う。きっと最初に声を発したのはギレイルの仕込みだ。あの男はそういうことを平気で行う。
「それと比べてガイはどうだ! 何が勇者だ! 偽物のクセに恥知らずめ!」
「石を投げてやれ!」
「この犯罪者!」
「偽物はとっとと処刑されなさい!」
すると歓声から一転してガイに対する誹謗が広がり、石を投げつける者まで現れ始めた。ガイ、こんなの許せない!
思わず飛び出しそうになった僕だったけど、誰かが僕に覆いかぶさった。ウィン姉だった。
「ウィン姉どうして!」
「気持ちはわかる。だが今はまだ駄目だ弟よ。それに奴の視線がこっちに向いている」
それを言われてハッとなった。ウィン姉がギレイルの目に僕が映らないようにしてくれているんだ。凄く悔しい――今すぐ飛び出してガイを助け出したいけど、ここで熱くなってしまったらここまで潜入した事が無駄になってしまう。
「これ以上は危険ね。ネロは皆に同調できないだろうし、隙を見て離れましょう」
「うぅ、スッキリしないけどここは仕方ないんだよね」
「――出来るだけ早く離れたほうがいい。兄さんに気づかれるかもしれないから……」
アイスが言った。声がどことなく弱々しくも感じた。クールという兄の事を恐れているのだろうか?
アイスがそこまで心配になるクールの腕はやはりかなりのものなんだろうな。
「今がチャンスだぜ。こっちだ」
周囲を警戒しながらザックスが僕たちを促した。そして僕たちは何とか聴衆に溶け込むようにしながらそっとその場を離れたんだ――
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