第234話 アクシス領への帰郷
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マキアが言っていた通り変装を終えた僕たちはそのまま町を出て馬車でアクシス領に向うことになったんだ。
「なんで俺が御者なんだよ」
「文句言わないの。あんたの数少ない特技の一つなんだから」
御者台にのって手綱を握っているのはザックスだった。どうやら馬車の扱いに長けているようだね。ウィン姉も馬に乗ることは出来るのだけど馬車を扱う事はしたことがないようなのでザックスの助けはありがたかったよ。
「たく、数少ないは余計だっつうの」
愚痴るように呟くザックス。ちょっと気の毒に思えてきた。
「あの、ザックスさん僕らのために本当にありがとうございます」
「別にあんたらの為にやってるわけじゃないさ。成り行きでこうなっただけだが、まぁ乗りかかった船だからな」
ザックスがぶっきらぼうに答えた。彼も最初はアクシス家の問題に関わるのは避けたかったようなんだけどね。だけどこうやって付き合ってくれるのだからいい人だよね。
それからは特に何事もなく馬車は進んだ。途中で野宿を挟み魔物と戦うこともあったけど特に強敵と当たることもなく馬車は進み――
「見えてきたぞ。門を超えたらアクシス領だ」
ザックスが教えてくれた。馬車を開けて確認してみたら確かに街道沿いに記憶にある門が見えてきた。砦も隣接されていて門番が二人立っていた。
「止まれ!」
門番の声が上がり馬車が動きを止めた。扉が強めに叩かれる。
「中にいる者は皆出てくるように」
その声でマキアが頷き僕たちもそれに倣って頷き返した。門番がいるのはわかっていたので上手く乗り切るために口裏は合わせてある。
「これはこれはご苦労様」
そう言ってマキアが先ず外に出て僕たちは後に続いた。
「現在アクシス領は大事な行事を控えていて領内の立ち入りに制限を掛けている。特別な要件でもなければ引き返してもらっているが」
「それは勿論知っていますがこちらも依頼を受けていましてね。こちらをどうぞ」
マキアが何か書面を門番に手渡していたよ。門番は渡された書面に目を通している。
「な、これは――わかった。この内容であれば仕方ないな。だが念の為に御者と馬車の中を改めさせてもらうぞ。お前は全員をチェックするんだ」
「わかりました」
そう言ってマキアと話していた門番が御者役のザックスと馬を確認した。ザックスが緊張しているのがよくわかる。その後で馬車の中を確認するのかもしれない。
「どれどれ」
一方で残った門番が皆を品定めするよふに眺め始めた。こっちは随分と若い門番だね。
「こ、これは!」
門番はエクレアの前に立ち止まって戦いていた。視線は胸に、て何に驚いているんだよ!
「あ、あの何かありましたか?」
「夢と希望だな!」
「は、はぁ……」
何故か鼻血を垂らしながら門番が答えた。大丈夫かなこの人。そしていよいよ若い門番が僕の前に立ちジッと僕の顔を見てきた。
す、すごく緊張する。大丈夫だろうか――ウィン姉もこの門番を凄い形相で睨んでいるし。
「むぅ! お前!」
「は、はい!」
マズい! 男だとバレたのでは? やっぱりこの変装には無理が!
「超かわうぃいいいねぇえええ! モロタイプ! 名前何ていうの?」
「へ?」
鼻息荒く質問されてしまったよ! いやいや! タイプって嘘でしょう!
「な、名前はネータです」
この名前は事前に決めてあったものだ。流石に本当の名前を明かすわけにはいかないからね。
「ネータかいい名前だね。どう? よかったら今度お茶でも!」
「え、遠慮しておきます」
「スピィ……」
「うん?」
しまった! 今呆れたようなスイムの声がしてしまったよ! スイムには今僕の胸の代わりをしてもらっているわけだしピンチかも!
「うん! 今君の心の声が聞こえたさ! 光栄だってね!」
「えぇえええぇええ!」
全然そんなこと思ってないよ! スイムもそんなこと言ってないだろうし思い込み激しすぎだよこの門番!
「あぁネータこれはきっと運命の出会い」
「貴様、いい加減にしておけよ」
「ヒィイィィィィィイイイイイ!」
ウィン姉の抜いた剣が門番の喉元に突きつけられた。若い門番が情けない声を上げて尻もちをついていたよ。
「全く何をしてるんだ貴様は」
「は、班長! この男が剣を!」
ウィン姉を指さして門番が叫んだ。どうやらウィン姉は男性だと認識されたようだね。
「悪いね。ウィズは気性が荒くて。だけどうちとしても大事なスタッフを軽く見られるのは愉快ではないからね」
マキアが言い返すと班長と呼ばれた門番が振り返り頭を下げた。
「悪かった。こいつもまだまだ未熟なようだな。しっかり教育をしておく」
班長が謝罪してくれた。若い門番の頭にも手を乗せて頭を下げさせていたよ。
「わかってくれたならそれでいいですよ。こっちも事を荒立てるつもりはないので」
「そう言ってもらえると助かる。馬車については問題ない。このまま抜けてくれて構わないぞ」
「ありがとう。それじゃあ」
こうして僕たちは無事に門を抜けてアクシス領に入ることが出来た。僕からしたら久々の帰郷だ。もっとも全然嬉しくないけどね――
一二三書房の漫画レーベル『コミックノヴァ』にて本作のコミカライズ版が連載中です。
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