第230話 レイルの足取り
ノックの話を胸に留めつつ僕たちはガラン工房の中に入った。工房内では職人たちが忙しなく動き回っている。そんな職人たちの中心に立っているのが親方であるガランだ。
「お久しぶりでガランさん」
「おお、嬢ちゃんか。あれからどうだ装備品の調子は?」
エクレアに気付いたガランが聞いていた。視線はエクレアの持つ鉄槌に向けられている。
「はい。おかげさまで凄く役立ってます!」
笑顔で答えるエクレア。武器を改良してもらったことにとても感謝してるようだよ。
「それは良かった。だが……昇格試験は大変なことになったみたいだな」
気難しい顔でガランが言った。ワンの耳にも入っていたし結構知れ渡っているようだよね。
「ガランさんも知っていたのですね」
「あぁ。元々噂にもなってたが先週あたりにあのレイルって男が謝罪に来てな。詳しいことはその時に聞いたのさ」
ガランの口からレイルの名前が出た。ノックも言っていたけどガランとも直接話したということだね。
「あの、ということはロイドのことも?」
「――あぁ聞いたさ。そのことが理由で前に一緒に来ていた嬢ちゃんのパーティーのリーダーが捕まってしまったんだろう。大丈夫なのか?」
僕の問いかけにガランは答えてくれた。前にというとフィアとセレナの事だろう。特にセレナはガラン工房への関心が強くてここに来たがっていたからね。
「大丈夫とは言えませんが――僕がなんとかしてみせます」
僕が答えるとガランがジッと僕の目を見てきた。
「……いい目だ。流石そこの嬢ちゃんとパーティーを組んでいるだけあるな。ま、頑張れよ。それとあの嬢ちゃんにも宜しく言っておいてくれ」
「は、はい!」
あの嬢ちゃんというのはセレナのことを言ってるんだと思う。ただ今は教会に連れ戻されたと聞くしすぐには話は出来ない。でも再会したら必ず伝えないとね。
「スピッ! スピィ~~!」
「はは。そうだなお前さんもしっかり手助けしてやんな」
「スピィ~♪」
僕の肩の上ではスイムもガランに声を上げて訴えていた。きっとスイムも頑張るといいたかったのかもね。ガランに理解してもらえて嬉しそうだよ。
「店主よ。ここの職人の仕事ぶりは素晴らしいな。ドワーフの職人に勝るとも劣らないぞ」
ウィン姉がガラン工房の作業を見ながら褒めていた。ウィン姉がここまでハッキリ褒めるということはガラン工房の職人の腕はそれだけ確かなんだと思うよ。
「ほう。あんたドワーフにあったことがあるのかい?」
するとガランがウィン姉の話に反応し問い返していた。ドワーフは酒と鍛冶を何より愛する種族だ。その特徴からか暮らしているのも良質な鉱石が採れる鉱山の近くが多いんだよね。
ただドワーフはエルフのように寿命が長いけど人間ほど数は多くない。その上気難しいからドワーフと親しくなるのも結構大変だと聞くね。
「多くはないがドワーフの中にも冒険者をやってるのもいる。ダンジョンで採れる鉱石目当てでな。その関係で何度か一緒に仕事したことがあるのだ」
「ほう。大したもんだ。ドワーフは頑固で他種族とも交流したがらない奴が多いんだがな」
ウィン姉の言葉にガランが驚いたように言った。
「確かに最初は随分と舐めた態度を取ってきたが酒呑みで勝負したら次の日から随分と態度が軟化してな」
「えっとそれってどっちが勝ったの?」
「勿論私だ!」
「とんでもねぇな……」
エクレアの質問にウィン姉が答えるとガランの顔が引きつっていたよ。ドワーフは酒を呑む量もとんでもないって聞くからね……。
「流石師匠! アイ尊敬します!」
アイスはウィン姉の話を聞いて目を輝かせていたよ。でもそこは憧れだけにして真似ないほうがいいかなとは思うよ。
「ところでガランさん、レイルは何か言っていませんでしたか?」
ふとエクレアがそんなことをガランに尋ねた。レイルがここまで来たのに何か理由があるのかもと思ったのかもしれないよ。
「そうだな――その時レイルは一本の斧を持ってきた。長柄の斧でな。随分と古い品のようだったが質は悪くなかったんだ。レイルは使えそうなら手入れしてくれと依頼してきたんだ」
そういうことなんだね。レイルの本来の目的は武器の手入れだったのかも。
「ただ一つ気になったことがあってな。手入れは問題なく終わり引き渡したんだが、扱っている内に気づいたんだがあの斧はおそらく魔装だ」
魔装――特殊な力を秘めた装備品の事だね。ダンジョンで稀に手に入ることがあるらしい。
「恐らくとはハッキリしない物言いだな」
ガランの話にウィン姉も興味をもったようだね。でも確かに、それだと断言は出来ないってことだもんね。
「まぁな。魔装と思ったのはあくまで経験と勘からだ。理由は魔装に見られる力は今は感じられなかったからだ。だから断言は出来ない」
「ふむ。今は、か。だとしたら魔装としての力が封印されている可能性もあるということか」
「かもな。だがそうなると俺は門外漢だからな。だから断言はしない」
そうガランは答えたよ。
「――ただそれを俺に見せた時のレイルの表情から何か決意めいた物も感じた。冒険者である以上抱えるもんの一つや二つあると思うがなんともそれが気になったところだな」
「レイルが……」
エクレアが難しい顔を見せて呟いた。確かに少し気になるところではあるかもしれないよ――




