第229話 その足でガラン工房へ
「ワンさんの元気な姿が見れて良かったです」
「フンッ。お前のおかげで忙しくなっちまったからな。ウカウカ老け込んでもいられんわい」
そういった後、職人の様子を見るワン。その目つきが険しくなり声を荒げる。
「おい! そこはそんな雑にやっていいとこじゃねぇ。もっと丁重に扱え!」
「す、すみません!」
ワンに注意され若い職人が謝っていた。う~ん厳しい。
「指導も大変そうですね」
エクレアが苦笑気味に言った。ワンが、ふぅ、と一つ息を吐き出す。
「まぁな。人は雇っただけじゃ意味がないからな。しっかり育て上げてやる責任がわしにもある」
そう言ってワンが鼻息をあらくする。流石だね仕事に対して真摯に向き合っているよ。でも楽しそうでもあるね。以前より充実していそうで何よりだよ。
「小僧ちょっと杖を見せてみろ」
「あ、はい」
ワンは杖の様子を見てくれるようだね。僕が杖を渡すとじっくりと確認しくれた。何だか少し緊張するね。
「ふむ――手入れは行き届いているようだな。小僧に使われてこの杖も随分と嬉しそうだ」
「あ、ありがとうございます!」
「スピィ~♪」
ワンに褒められて何だか嬉しくなってしまうよ。スイムの鳴き声もどことなく弾んでいるようだし。
その後、ワンが杖を磨き上げ僕に返してくれたよ。
「小僧の魔力にも十分に適応しているな。これなら暫くは大丈夫だろう。だが何かあったらすぐに持ってこいよ」
「はい! わかりました!」
ワンは僕の杖の事を気にかけてくれているようだった。それも何だか嬉しくなる。
「では僕たちはそろそろ行きますね」
「スピィ~」
僕がそう切り出すとスイムも肩の上でプルプルと震えていたよ。
「あぁ――坊主あまり抱え込むなよ」
最後にワンがそんな言葉を掛けてくれた。何か気持ちが見透かされたようなそんな気がしたよ。短い言葉ではあったけどワンが気にかけてくれているのがよくわかった。
「うん。ありがとうワンさん」
そして僕たちはワンの店を後にした。
「ワンさん元気そうで良かったね」
「うん。そうだね」
エクレアの言葉に僕は素直に頷くことが出来たよ。そして予定通り次はガラン工房に向かった。
「ふむ、あそこは鍛冶屋か」
ガラン工房を遠巻きに見ながらウィン姉が言った。ウィン姉も普段から装備に気を使っていそうだからね。鍛冶屋には興味があるのかも。
「うん。凄く腕が良くてエクレアもここで装備を改良して貰ったんだ」
「そうそう。生まれ変わったこの鉄槌も手に馴染んでとても使いやすいんだ。ガランさんには感謝だね」
そして僕たちがガラン工房の前まで行くと――
「あ、お前たち来てたのか」
店の前で掃除していた男が僕たちに気がついて声を上げた。彼は確か最初にここに来た時に紹介状がないといって立ち入るのを許してくれなかったんだよね。
後からエクレアから聞いたけど彼はノックという名前で、ワンの紹介状を持参した後もひと悶着合ったらしいね。
「あの、ガランさんはいますか?」
「……親方なら中にいるぜ。用があるなら好きに入ればいい」
エクレアに聞かれたノックがそう答え入口を指さしたよ。以前と比べると大分態度が軟化しているようだね。やっぱりエクレアとの事が関係しているのかもね。
そして僕たちがガラン工房のドアを開けて入ろうとしたのだけど。
「そういえばレイルというのもまた来てたぜ。雰囲気が随分と変わっていて驚いたけどな」
ノックがレイルについて教えてくれた。やっぱりガラン工房にも来ていたんだね。それもレイルなりに思うことがあってのことかもしれないよ――




