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70.魔法教室


流石にあの場所でそのままで立ち話をするのも憚られたため、私たちは一度解散し、荷物を置いてから私の部屋に集まることとなった。

エラが呼びに行ったマイラと、私に用のあるらしいソフィアの兄ことバイロンまでもが、何故かなあなあの流れでこの集まりに合流し、

五人も入ったせいで妙に手狭に見える部屋の中で、お互い久しぶりと挨拶を交わしながら話し合いは始まった。



「それで、あの人だかりは一体?全員教会関係者っぽい服装だったけど、ここの人じゃないわよね」


教会前で見た人だかり。正面扉前に集まっていた軽く三桁は居そうだったそれは、正直異様と言う他なかった。

王都中央協会の全員を集めればあのくらいの人数は居るはずだけど、それが一つ所に集まっているのはちょっと見たことがない。

何よりざっと見ただけでも知らない顔しか居なかったので、修道服こそ着ていたけどあの人たちは中央協会の所属じゃないだろう。

それらが集まるとしたら大規模な行事か、説法か、あるいはもっと別の。


適当な予想をたてながら思考を弄んでいると、エラが手元に用意された水で口を湿らせてから、ゆっくりと口を開いた。


「一から説明するとちょっと長くなるんだけど、フィリスはさ、前にあたしらに魔法を教えてくれたよね。覚えてる?」


勿論覚えていた私は、首を縦に振る。あれは、私にとっても良い機会だった。

あれのおかげで、上流層以外は魔法を学ぶ機会が不足しているのを肌で感じることが出来た。

ここ数年で魔法具は生活に密接に関わるようになってきたんだから、このままではいけないし、将来的に改善出来ればとも思っている。


「あれが結構好評でさ、他の教会とかにも話が行ってたんだよ。……王都の中どころか地方の教会にまで」


話の雲行きが怪しくなってきた。

エラは変に額に汗を浮かべているし、マイラはしきりに私から目を逸らしている。


「それでさ、今日フィリスが帰ってくるって話をあたしがはな……誰かから伝わっちゃったみたいでね?

それがどこでどう捻じ曲がったのか、今日また魔法を教える教室があるよって風に話が広がって、こうなってる……」


エラが視線を落としたまま私と目を合わせようとしない。絶対、話してしまったその誰かはエラだ。若干自白しかけていたし。

とは言えこれでエラを批難するのもお門違いだろう。私は気分を切り替えるために大きく息を吐いてから、パンと一拍手を鳴らした。


「そうなっちゃったものは仕方ないわ。問題はどうするか、ね。地方からも来てもらってるのにそのまま返すというのも忍びないし、どこか大きい部屋を借りられるといいんだけど」


「それなんだがな」


今まで沈黙を保っていたバイロンが、眉を顰め不機嫌そうに口を開いた。


「借りることは出来んだろう。それどころか、教会のことを警戒した方がいいぞ」


「どういうことですか?」


「お前の影響力を上は重く見ているということだ。シスターたちの心を掴み、有力貴族との繋がりもある。ガウス派を後ろ盾に総主教派にとって替わろうとしている、などとな。

そんなことは無いと俺も再三言ったのだが、全く持って身内の恥だ」


バイロンはフンと鼻を鳴らすと、わざとらしく足を組み直した。

余程上の言い分が腹に据えているのだろう。

全身で遺憾の意を示す彼に、ソフィアがおずおずと声をかける。


「お兄さま、それは言って良かったのですか?派閥内のお話でしょう」


「お前も随分と気の回るようになったな。が、気遣いは不要だ。そもそも今回の出来事自体、派閥が余計なことをしたせいだからな」


てっきりエラのうっかりから始まったことかと思っていたけど、どうやら違ったらしい。

私が心の中でこっそりエラに謝罪していると、当のエラも原因が他にもあると解ってあからさまに安堵の表情を浮かべていた。

その顔も、バイロンの無情な一言で砕け散ったが。


「勘違いさせて悪いが、発端はある意味お前だぞ。上はそれを利用したんだ。元々また教室を開くんじゃないかという噂があったところを、わざわざ日付を今日に指定して人を集めたんだ」


「何のためにでしょうか」


「失敗させたいんだよ。失敗させてお前やガウス様への求心力を削ぐことが目的らしい。その後、派閥内で同様のことをやって支持を集める辺りまでが計画だろうな。

全く、内輪で権力闘争をやるだけならまだしも、こんなにも多くの人に負担をかけてまでやることではない。おかしいと思わなかったか?王都内の別の教会からだけならまだしも、地方からも集まってくるなんて。

移動だって馬鹿にならないのにだ。わざわざ教会幹部の名前で地方に馬車まで手配したそうだぞ」


確かに地方からわざわざ来るなんて、熱心が過ぎるとは思っていたけどそういう裏があったなら納得だ。

この手の足の引っ張り合いは、私も貴族社会で嫌というほど知っている。こちらの知る頃には全部終わっていました、なんてことになっていないだけ手ぬるいくらいだ。


「どうします?教会の力は借りられそうにありませんけど」


不安げに瞳を揺らすソフィアを安心させるように、彼女の頭の上にポンと手を置いた。


「せっかく上がお膳立てしてくれたのだもの。魔法教室、成功させちゃいましょう。これで放り出しちゃったらわざわざ来てくれている方々に申し訳ないしね。

それに私はともかく、お世話になってるガウス翁の名まで貶めさせるのも後味が悪いわ」


第一、この手の手段を取る相手には、下手に出るよりも手を出してもいいことは無いと思わせた方が良い。一旦下手に出てしまえば、脅威が無くなったと相手が思うまで苛烈な攻撃が続くからだ。

もっと言うなら派閥間の調整などがあるので、どの程度やればいいのかをガウス翁と直接話せればいいのだけど、翁の多忙を考えれば帰って来て即日面会は出来ないだろう。

それでも総主教の思惑通りに行くよりはまだマシだろうと、私は後の調整をガウス翁へとぶん投げた。


「成功させると言っても、どうするんだ?上層部は協力しないどころか、妨害してくるはずだぞ」


「教会内が敵だらけなら、教会外でやります。幸い、伝手はあるので」


ニヤリと挑戦的に笑うと、ソフィアはそれだけで理解したようだった。

早速その伝手のある”貴族”に話を、そう思った時。

丁度、廊下から足取り軽やかな爆走音が聞こえて来た。

何度言ってもちっとも直そうとしないこの走り方、何度も頭を抱えさせられたこれを、聞き間違えはしない。

騒々しい音を伴って部屋の扉を開け放つと、金色の髪を揺らしながら部屋に入ってきた人物は言い放った。


「遊びに来たよ!」


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