25 謎解きは夜食の前に(2)
畑中が、再び首を傾げた。
「あら、歴史を遡るのでしたら、一番最初は平清盛だと聞きましたわ」
風太は笑って頷いた。
「さすがにコンシェルジュ、よくご存知ですね。ただ、清盛が埋め立てたのはもう少し東の方ですし、時代もうんと前です。三成の場合は、秀吉がこの地を平定した際、将来に備えて湾口の整備を任されたのがきっかけです。遠浅なので、むしろ埋め立てた方が良いと考えたのでしょう。秀吉も、いずれこの地を三成に与えようと思っていたようですし」
話の進展について行けず、広崎が「ちょっとちょっと」と割り込んだ。
「どうしたのさ、急に日本史の話になっちゃって。河童の話じゃないの?」
風太は苦笑した。
「ごめんね。これから繋がって来るからさ。ええと、どこまで話したっけ。ああ、そうか。ところが、何か事情があったらしく、この地は三成ではなく、小早川隆景に与えられました。しかも、隆景は、随分東寄りのところに城を築いています。まるで、西側には、何か遠慮しなきゃいけないものがあるみたいにね」
広崎が「あれ?」と言った。
「小早川って、なんか聞き覚えがあるなあ」
畑中が笑って「それはたぶん、隆景の養子の秀秋よ。関ヶ原で有名だから」と広崎に教えたが、言ってしまってから何かに気づいたらしく、ハッとした顔になった。
風太がニヤリと笑った。
「そうなんです。隆景の後を継いでこの地の領主になったのが、秀吉の甥の秀秋です。ところが、秀吉のご機嫌を損ねてこの地を取り上げられ、直轄地にされてしまいます。その直轄地の管理役がまた三成なんです。その後、家康の口添えで、再び秀秋がこの地に戻ります。まるで、シーソーゲームみたいでしょう。両者には、この地を巡る確執があったのは、間違いないと思います。そして、この小早川秀秋こそ、関ヶ原で西軍を裏切り、三成を滅ぼした人物です」
広崎が「えーっ」と驚きの声を上げた。
「それが、河童の呪いってこと?」
だが、風太は首を振った。
「いや、ぼくにもそこまではわからない。しかし、秀秋が、絶対有利と言われた西軍を何故ギリギリのところで裏切ったのか、未だに謎だ。しかも、関ヶ原の後、領地を変えられ、二年後に亡くなっている。まるで、もう用は済んだ、という感じだね」
広崎は体をブルッと震わせた。
「河童の力って、そんなに強いの?」
「いや、今より勢いがあったとしても、とても河童だけの力とは思えない。まあ、少なくとも三成は秀吉の懐刀だったから、それ以外にも何か魔界と関わりを持っていたかもしれないね」
畑中が「どういうことですの?」と尋ねた。
風太は、またアルカイックスマイルを浮かべた。
「考えてみてください。信長や家康のような大名の子ではない、一介の庶民にすぎない秀吉が、どうやって天下を取ったと思いますか?」
広崎が溜め息を吐きながら「なんか、スケールのでっかい話になっちゃって、ついて行けないや」とこぼしたので、風太が笑って「ごめんね」と謝った。
「まあ、そういう訳で、今回の件に河童が絡んでいるらしいと予測を立てた。しかも、一筋縄では行かない相手らしい。下手なことをすれば、取り返しがつかない。そういう理由もあって、ほむら丸だけじゃなく、同じ水妖のみずち姫も呼んだ方がいいと思ったんだよ」
「なるほどなあ」と感心した広崎の腹が「グーッ」と鳴った。
畑中が、ホッとしたように笑った。
「あらあら、あなたたち、お腹が空いてるんじゃないの?」
風太も苦笑してお腹を押さえた。
「そういえば、夕方、サンドウィッチを摘まんだだけでした」
「よければ、わたくしが夜食を奢りますわ。伯父の言い方のお詫びと、事件を解決していただいたお礼と、そして、これを忘れちゃいけないと思ってました、なごみ会の理事長として来月のファミリー感謝祭の余興の激励を兼ねて、ね。もちろん、広崎くんも一緒に」
「ありがとうございます。それでは、せっかくなのでお言葉に甘えます。やはり、豚骨ラーメンですか?」
「いいえ、この時間に豚骨じゃ、胃に凭れるわ。わたくしのお薦めは、うどんよ」
「へえ、どんなうどんですか?」
「美味しいんだけど、驚くなかれ、全然コシがないのよ」
そう言うと、畑中は声を上げて笑った。




