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2.空白の三年間。





「結局、あの朝食を作ったのは誰なんだよ!」

「自分で作ったって言ってるだろ?」

「嘘だっ!! 生活力皆無の律人に、あんな食事が作れるわけない!!」

「…………」



 今朝のごたごたがあってから、通学路にて。

 想像通り、海晴は先ほどの食事について追及してきた。何をそんなに必死になっているのか分からないが、適当に誤魔化す。

 どこか失礼極まりない発言をされた気もしたが、事実に相違ないので否定もできなかった。そうでなければ、毎食カップ麺ということはないのだから。



「本当のこと教えろよー! アタシと律人の仲だろー!?」

「あー、もう……朝からダル絡みすんなって……」



 しかし幼馴染みは、その先にある事柄に興味があるらしい。

 こちらに全体重をかけながらしな垂れ、情報の開示を求めてきた。とはいえ『麗華の生き霊に作ってもらった』なんて、様々な意味で口にできるわけがない。


 まず前提として、信じてもらえるわけがなかった。

 万が一に信じてもらえたとしても、本当のことを告げれば海晴は面白くないだろう。幼馴染み二人の関係は、いま非常に難しい。ここで下手なことをすれば、仲直り以前の問題になりかねなかった。



「でも、いつまでもこのまま……ってのもな」



 そうは思いつつ、俺は意識せずにそう呟いた。

 帰郷して二人と再会してから、俺の中には一つの『願い』がある。それは以前のような三人に戻ることであり、それに不可欠なのは『彼女たちの仲直り』だった。

 それなのに、不仲の原因はいまだに分からない。

 果たして俺がいなかった三年で、何が起こったというのか。



「……なぁ、海晴」

「ん、どうした?」

「そっちこそ、そろそろ教えてくれよ。中学の頃のこと」

「………………」



 俺は意を決して、肩にぶら下がっている幼馴染みへ訊ねた。

 すると海晴は息を呑んで、分かりやすく黙り込む。

 そして、彼女はそっと俺から離れて――。



「…………教えない。教えられるわけない」

「海晴……」



 初めてその問いを投げた時と同じように、怒りに満ちた声色で言った。

 振り返るとそこには、いまにも泣き出しそうな海晴の表情。そこにあるのは悔しさなのか、それとも怒りなのかは分からない。ただ一つたしかなのは、俺にはまだ知らないことが多い、ということだった。

 幼少期を共に過ごしただけでは分からない、何かが……。



「と……とにかく、この話はやめようぜ! ほら、早く行かないと遅刻だし!」



 俺が悩んでいるのを察したのか、海晴は途端に明るくそう言った。

 そして、こちらの手を取って駆け出した直後――。



「…………なっ!?」

「え、麗華……?」

「…………」



 俺たちは偶然にも、同じく登校中の麗華に遭遇した。

 思わず立ち止まる海晴に対して、麗華は冷めた視線を向けている。場には険悪な空気が漂い、状況はまさに一触即発のそれへと変化した。

 俺は少しだけ迷うが、勇気を振り絞って麗華に声をかける。



「お、おはよう。麗華、その――」

「海晴、昼休みに話がある」

「え……?」



 だけど、それを無視するようにして。

 麗華は俺の隣にいる海晴に、淡々とそう告げるのだった。

 海晴も少々驚いた様子だったが、すぐに麗華のことを睨みつけて言う。



「……アンタ、どういうつもり?」

「…………」



 しかし麗華はまったく答えず、立ち去ってしまった。

 俺たちはただ、そんな彼女の背中を黙って見送るしかできない。言いようのない不安感が残され、俺は海晴の方を見た。すると、そこには――。



「ホントに、昔から気に食わない……!」



 見たことのない幼馴染みの表情。

 その時の俺には、彼女にかける言葉がなかった……。




https://book1.adouzi.eu.org/n9876jk/

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