第17話:愚かな勇者と、狂気の蒐集家
地下の悪臭と効率的潜入
王都の地下に広がる廃棄水路。腐敗臭が漂うその場所を、コウとサラは音もなく進んでいた。コウは**《嗅覚遮断》**の魔術をサラと自分にかけ、不快感をカットしている。
「コウさん…魔力の気配が、強くなっています」
「ああ。間違いない。この奥だ」
コウは、ザックから奪った情報と、自身の**《魔力探知・改》**を組み合わせ、最短ルートを進んでいた。
「いいか、サラ。俺たちの目的は、将来的なリスク(実験体による被害)の排除だ。感情的にならず、淡々と処理するぞ」
「は、はい…!」
コウはそう言うが、探知にかかる**「小さな、怯えた魔力の反応(子供たち)」**を感じるたびに、歩く速度がわずかに速くなっていた。
クラン幹部:『蒐集家』ヴェルト
水路の奥にある広大な空間は、異様な実験室に改造されていた。 檻の中には、さらわれてきた孤児や、希少な魔獣が押し込められている。
その中央で、一人の男が楽しげに指揮を執っていた。 派手な紫のスーツを着崩し、指には大量の魔石の指輪をはめた男。Rブレッドクラン幹部、『蒐集家』ヴェルトだ。
「あー、ダメダメ。このガキは魔力回路が濁ってる。**商品価値**が低いねぇ」
ヴェルトは、泣き叫ぶ孤児の首輪を掴み、ゴミのように部下に放り投げた。
「素材として解体して、魔石の燃料にしちゃいなよ。骨は砕いて肥料にね。リサイクルこそエコでしょ?」
「ひっ…嫌だ、おうちに帰してぇ…!」
「うるさいなぁ。君たちはこれから、偉大なるRブレッドクランの一部になれるんだよ? 光栄に思いなさいって」
ヴェルトは残虐な笑みを浮かべ、次の檻を開けようとした。その非道な行いは、効率や利益のためなら人の命など欠片も気にしない、クランの本質そのものだった。
立ち塞がる「正義」の味方
コウとサラが、その実験室へ踏み込もうとしたその時。 実験室の入り口を守るように立っていた男が、二人の前に立ち塞がった。
黄金の鎧に身を包み、聖剣を構えた男。勇者ガゼルだ。
「止まれ! 侵入者め!」
ガゼルは、コウの姿を認めると、驚愕と軽蔑の入り混じった表情を浮かべた。
「コウ…!? まさか、お前だったのか。この**『王都の極秘医療施設』**を狙うテロリストというのは!」
「は…?」
コウは、あまりの**「認識のズレ」**に、冷徹な顔を一瞬だけ呆れさせた。
「ガゼル。お前、ここが何かわかっているのか?」
「知れるか! 俺は依頼を受けたんだ! 疫病に苦しむ人々のための**『特効薬の原料』**を守る、名誉あるクエストだとな!」
ガゼルは本気だった。彼は、フェリシア(クランの治癒師)に吹き込まれた「正義のクエスト」を疑いもせず、子供たちの泣き声すら「治療の痛み」だと信じ込まされていたのだ。
「お前は追放された恨みで、俺の邪魔をしに来たんだろう? 燃費の悪い落ちこぼれが、どこまで腐れば気が済むんだ!」
ガゼルは聖剣に魔力を込め、コウに切っ先を向ける。
コウの「言い訳」と開戦
コウはため息をついた。 目の前の元仲間は、あまりにも非効率的に愚かだった。だが、今のコウにとってガゼルは、説得する対象ですらない。ただの**「排除すべき障害物」**だ。
「サラ。ガゼルの相手は俺がする。君はその間に、中の子供たちを確保してくれ」
「で、でも、ガゼルさんは勇者です! コウさん一人じゃ…」
「問題ない。今のあいつは、効率の悪い燃料切れの車みたいなものだ。それに…」
コウは、実験室の奥で子供をゴミのように扱うヴェルトを睨みつけた。
「あの中で行われている非効率な資源(子供たち)の浪費を止めるには、玄関の**粗大ゴミ(ガゼル)**をどかさないといけないからな」
コウの言葉に、ガゼルが顔を真っ赤にして激昂する。
「粗大ゴミだと!? この俺が! 行くぞコウ! 貴様に正義の鉄槌を下してやる!」
ガゼルが聖剣を振り上げる。 コウは、短剣で奪った能力と、サラの調律で得た**「最高効率」**の魔力を静かに循環させた。




