■勝負は一瞬。久遠は決して機会を見逃さない。
「明里さん、久遠のサポートをお願いします」
里奈は式神を取りだして大鬼に狙いを澄ます。
久遠があれから刀でずっと大鬼とつば競り合いを続けてくれていた。
おかげで大鬼は動きを止めたまままだ。
「もちろんオーケーさ。で、どうすればいい?」
「あの棍棒、武器のレベルは高くないんです。つまりスキル封印してしまえば――」
あとは言わずもがなである。明里は右手親指を立てて大鬼に向かって走りだす。
里奈は明里が走りだすよりも早くに式神を撃ちだしていた。
式神が大鬼に当たると拘束の効果が発動して動きが鈍る。もちろんスキルがすべて封印された効果もあるだろう。
ボス系統の強い魔物には武器破壊スキル無効が備わっている。里奈の封印スキルときたらそれさえも無効にしてしまう。
久遠と大鬼の間を明里が割って入ってくる。
「おらっ!」
明里の気合一閃とともに棍棒が粉々に砕け散る。それと同時、明里は視線だけで久遠に「行け」という合図を送ると、少し驚いていた久遠はすぐに真剣な表情に戻る。
久遠は刀を両手で握り直して、突撃できるように構え直す。
明里はすり抜けるように受け身を取りながら、久遠と大鬼の間の射線を空ける。
「久遠……!」
里奈は思わず名前を呼んでいた。
「いっけーー!」
里奈が叫ぶとともに久遠は左足を少し下げて、刀の刃先はまっすぐに大鬼の心の臓に向かう。
それから久遠の体はバネでもついたように前へ弾丸のように飛びだすと、蒼烏の刃が大鬼の心臓を貫く。
苦しく悶えながら後ろへ倒れようとする大鬼の体を久遠は足場にして、刀の刃先逆時計回りに八十度ほど回転させて、その方向へと切り抜けた。
大鬼の鮮血が宙に弧を描いて舞い散り、月明かりが久遠とともに照らす。
大鬼はその一撃で事切れたようで、ゆっくりと何の抵抗もなく後ろへ倒れこんだ。
「大したヤツだ」
横にいた葵が独り言のようにつぶやく。おそらく久遠に対してだろうが、思わず言葉が漏れたようにある。
里奈は改めて久遠のことを頼りになると思うと同時に誇らしかった。
とりあえず勝利したのには違いない。しかし一同は喜ぶというよりホッと胸を撫でおろしている。
月光の下、静やかな勝利宣言であった。
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