■ダンジョンボス攻略がはじまろうとしていた。
久遠はまず明里と葵に里奈のことと強制ログインゾーンで起こることを共有した。
最初は二人とも半信半疑だったものの実際にことが起こればすべて納得してくれた。
とりあえず病院へ進むためには瘴気で強化された魔物の群れの中を突破する必要があった。
「久遠の刀は変わった形状をしているね」
久遠は棍ではなく蒼烏に持ち替えていた。おそらく攻撃力を重視してのことだろう。
明里の指摘通りで久遠の刀は切っ先が両刃になっている。
「 鋒両刃造というらしいです」
別名、子烏造ともいうそうだ。
「強力そうなのは見ただけでわかるよ。頼りにさせてもらうからね」
明里と葵は瘴気の中では能力減退のせいでいつもの実力は発揮できない。
攻撃の要となるであろう久遠への負担増は必須であった。
「里奈は一撃でももらうと即死ですから二人で守りをお願いします」
里奈があげられるパラメーターを制限されているせいで初期のものしか装備できない。
その関係で里奈のHPは強制ログインゾーン内で戦うには極端に低かった。
つまり里奈にダメージが通らないよう明里と葵には護衛してもらう必要がでてくる。
裏を返せばその分だけは久遠の負担が減少するということだ。
「子鬼が目の前に五体。遅れて左右から三体ずつ向かってくるわ」
里奈は索敵に専念することにする。久遠が討ち漏らした敵を封印スキルで弱体化させて、それを明里と葵が倒す。
実際にその目論見はうまくいっていた。
主には久遠が素早い動きと重い一撃で魔物を確実に撃破していくためだ。
おかげで討ち漏らしはほとんどない。
「ちょっと強さの次元が違うね」
明里は感心しているというより呆れている様子だった。
「ああ見えていっぱいっぱいだったりするんですよね」
里奈がぼそりとつぶやくと明里はニンマリと笑みを浮かべる。
「……何です?」
その表情が里奈は気に入らなかったので聞いてやることにする。
「あんた、あいつのいい女になれるよ」
「はあ……」
明里は横目だけ里奈に向けて、あとは魔物のほうへ視線をむき直す。
いずれにしろ雑談している余裕などない。
湧いてくる魔物は子鬼ばかりだが、レベルも高いし瘴気のおかげで能力も向上しているのだ。
急ぐが慌てずに。里奈たちは確実に病院へ足を進めていた。
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