我等が街の精鋭達
「千代ー、ちょっといいかしらー?」
む、母様の呼ぶ声がする。
「はーい。母様なにー?」
「ちょっとお使いに行ってきてくれませんか?」
お使い!すっごい久しぶりな気がするなぁ。でもまぁこの花宮千代、両親姉妹の頼みとあらば!どんなものでも即乗り出す所存でございますよ!
という事で。
「もちろんいいよ母様!それで何を買ってくればいいの?」
「今日はちょっと豪華にしようと思ってね。はい、いつも通りお財布の中にメモがあるからそれを見てお願いね?」
「わかった!それじゃあ行ってくるねー!」
「こけないようにゆっくり行くんですよー」
「はーい!」
夕暮れ時、ひらひらと手を振る母様に見送られ、お使い用の青い花柄のがま口財布を手にスカートをひらひらとはためかせ、俺はお使いへと向かうのであった。
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「あいっ変わらずこの時間は凄いなぁ」
前世のゲーセンなんかめじゃないくらい人が多い多い。
「お!千代ちゃんお使いかい?」
「あ、酒屋のおじちゃん!そうだよー、今日もお使いなのー」
買い物やお使いで来る人の多い一番混んでくる時間帯、案の定混んでいた市場を前にそんな事を思っていた俺はユウヒビールのケースを抱えた酒屋のおじちゃんに声をかけられる。
「偉いねぇ。それじゃあ偉い千代ちゃんにおじちゃんが一本おすそ分けしてあげよう。お父さんによろしく言っといておくれ」
「わわっ!おじちゃんありがとー!父様喜ぶよー……っておじちゃん、これ渡す代わりに私から父様にウチにツケてる分の支払い伸ばして貰おうとしてるでしょ」
「ぎくっ!」
「ほらやっぱり。まぁ私にはお酒の善し悪しはわかんないけど、このお酒上物なんでしょ?言うだけ言ってみるよ」
「おぉ!助かるよ千代ちゃん!今度いい商品まけてあげるから頼んだ!」
「任せてー。それじゃあねー」
そう言うと俺は酒屋のおじさんへひらひらと手を振りながら、貰った一升瓶を鞄へ入れて市場へとかけていくのだった。
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「八百屋のおじちゃーん、こんにちはー」
「お!千代ちゃんいらっしゃい!今日もお使いかい?」
「うん!母様に頼まれたのー」
「一恵さんに頼まれたのか!それじゃあ安くしといてやんないとな!それで、今日は何が欲しいんだい?」
「今日はねー。えーっとメモメモ……あった!はいこれ!」
いつも通り八百屋のおじちゃんとそんな会話をした後、俺はお財布の中に入っていた買い物リストの書いてあるメモをおじちゃんにつま先立ちで渡す。
「ふむふむ……千代ちゃん運いいねぇ。丁度お使いの野菜全部今日仕入れたばっかりの奴だ」
「おぉ!」
それは運がいい!今日来れて良かったー。
「それじゃあおじちゃん、メモの通りお願いします!」
「おう!今日もオマケしてやるからまた来ておくれよ!」
「はーい!」
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「千代ちゃん毎度!また来てね!」
「はーい!」
ふぃー買った買った。
まぁ毎度の事ながらオマケにオマケがオマケされて、最早買った量より多いのはー……気にしたら負けという事で。
八百屋さんで買い物を初めてから約一時間と三十分がたった頃、ようやく市場を一周する形で買い物を終えた俺は、最初に持っていた鞄と途中で貰った袋一派に商品を抱えていた。
「さて、俺も体力そこまで残ってないし、早い所帰るとしますか……ん?」
「かー、かーどこー?……うぅ……」
あれは……迷子か?
「仕方ない……おーい、そこの子ー。どうしたのー?」
「うぅ……?」
「大丈夫大丈夫、お姉ちゃんに話してご覧」
「あのね、かーとね、おかいものきたの」
「うんうん」
「それでね、きがついたらね、かーがね……うぅぅぅー……」
あわわわわ!思い出しちゃったか!
「大丈夫、大丈夫だよー!私が直ぐにお母さん見つけてあげるからねー」
「ほんと?」
「うんうん!それじゃあはい、これあげるからここで少し待っててね?」
「うん」
俺は途中で貰った棒付き飴を渡しそう言うと、その俺よりも頭一つ小さなその子が棒付き飴をぱくっと頬張ってこくんと頷くのを見て、俺は市場へと戻る。
すると案の定直ぐに顔馴染みのおじちゃんおばちゃん達がまた寄って来たので、何があったかを説明する。
「となるとその子は迷子か」
「迷子だな。それで千代ちゃん、その子はどこに?」
「あそこ、飴渡して待たせてる」
「あの子か」「見た事あるか?」「いやないな」「となるとやっと三歳になった子か」「ここらで迷子なら市場の中だな」「じゃあ俺らは市場内探すか」「じゃあ私らは外を探すね」
うん、やっぱりこの手が一番だな。
この市場の事なら誰よりも知り尽くしているお店のおじちゃんおばちゃん達がそう言いあう光景を前にしながら、俺がそんな事を思っている内に話はまとまったらしく……
「それじゃあ千代ちゃん、あの子についててあげてくれるかい?」
「もちろん!」
「よぅし!それじゃあ皆探すぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
頼もしい限りだ。
その後、精鋭達による母親捜索により、五分も経たずに彼女のお母さんは見つかり事なきを得たのだった。
そして俺はお母さんに手を引かれながら、俺へと手を振って居なくなった彼女を見送り、笑顔で家へといっぱいに抱えた荷物を持って帰るのだった。




