信頼度を上げすぎました
「いらっしゃいいらっしゃーい、楽しい楽しい金魚掬いだよー!赤青黄色、色んな可愛い金魚がいるよー!」
「いやいやいや、黄色っぽい金魚は居ても青い金魚はいねぇだろ千代」
「あ、礼二いらっしゃーい。お祭り来てたんだ」
「まぁことある事に祭りはあるけどせっかくだからな。参加しないと勿体ないだろ?」
「お、やっと礼二も祭りの良さが分かってきたかー。やっぱり去年一昨年みたいに「祭りなんて子供っぽいのに俺は参加しねぇ」なーんてかっこつけてるより参加した方が楽しいもんね」
「う、うるせぇ!」
恥ずかしがって顔を赤くしてそう言う礼二を前に、俺はクスクスと笑いながら店員さん店員さんとお金を渡してくる小さな子からお金を貰いポイを渡していく。
「所でなんでお前は店番してるんだ?千代の家は毎年お祭りの運営実行委員だから店なんて出してないだろ?」
その通りだし今年もお店は出てないんだけどねぇー。
「このお店の魚屋のおじちゃんが少し離れないと行けなくなっちゃったらしくて、そこに私が丁度よく通りかかったから「千代ちゃんなら大丈夫!」って押し付けられちゃって……」
「あはははははは……千代はお店のおっちゃんおばちゃん達と凄く仲良いもんな。それが仇になったってわけか」
「そういう事。まぁそれだけ信用してくれてるって事は凄く嬉しいし、出店とはいえお店をさせて貰えるなんていい経験になるよ」
「流石千代、寝込んでもタダでは起きないな」
「何故そこで寝込むという言葉をチョイスしたし」
「だってほら、千代って転んだりとか殆どしないけど毎年風邪で寝込むだろ?だから千代に関しては転ぶより寝込むかなぁって」
「礼二酷いっ!後でわたあめとりんご飴とかき氷奢らせてやる!」
「毎年りんご飴一つで満腹撃沈してる奴が欲張るんじゃない。それにかき氷食べて毎回お腹下してるの知ってるからな」
「え、私のトイレ事情を知ってるなんて……変態?」
「変態?じゃねーよ!お前のお母さんに注意してあげてねって言われてんだよ!それに俺がついてないといっつもなんかしでかすだろ!」
「そんな事ないですー。いつもいい子ですー。というかそんな礼二こそいつも私に頼ってばっかりだと思いますー」
「そ、そんな事ねーし!」
「あらそう?毎年夏休み終わり際に「お願い千代!宿題見せてー!」って頼み込んでくる人は誰だったかなー?」
「うぐっ!しっ、仕方ねーだろ!ほぼ毎日お前らと遊んでんだから……というか、なんで俺らと遊んでるのに全部終わってんだよ!何かズルしてんだろ!」
そんな異世界チートじゃあるまいし、というか「夏休みの宿題が勝手に終わる」チートなんて別に欲しくも何とも…………いや、ちょこっとだけだけどそれは欲しいな、うん。
じゃなくて。
「しーてーまーせーんー。ちゃんと毎日夜やってるからですー」
実はちゃんと貰った日に速攻片付けてるだけですー、なんてのは流石に言えないからな。あ、でもそう考えるとある意味俺もチート持ちみたいなもんか。
なんだっけ、確か内政チートとかそんな分類のチートじゃなかったっけ?前世の記憶でうんたらかんたらする奴の分類の────ん?今なんか袖引っばられたような……
「おねーちゃ、これ」
クイクイっと小さく袖が引っ張られたのを感じた俺は、すぐさま礼二とのくだらない言い争いの考えを止め、袖を引っ張ったちっちゃなお客さんの相手をする。
「ごめんねお嬢ちゃん。えーっとどれどれ……あー、ポイ破れちゃったんだね。それで肝心の金魚は……あら、ゼロ匹」
小さい子にはやっぱり難しいよなぁ。
「おちゃかな、むりだた。ぐずっ」
「あーほら泣かないで泣かないで。泣いたらせっかくお母さんに着せてもらった浴衣が汚れちゃうよ?」
「うぅぅ〜」
ヤバいなぁー、このままだと絶対ギャン泣きし始めるぞこれ。何か、何かいい手は……そうだっ!
「ねぇお嬢ちゃん、まだ挑戦できるみたいだよ?」
「ふぇ?でもやぶえ……あれ?やぶえてない?」
「ふふふっ、はいどうぞ」
「わー!がんばゆ!」
そう喜ぶ小さな子に俺は満足そうに頷きながらこっそりと自分の財布から代金を払っておく。
「……やっぱお前すげぇよ」
「ふふん♪でしょー?」
本来はあんまり褒められた事じゃないんだけどね。
「あぁ、素直に尊敬するよ。そういや千代、時間は大丈夫なのか?なんかあるっていってたよな?」
「あっ!」
やっべぇそういやもうそろそろそんな時間だ!
「えーっと、どうしようどうしよう」
礼二に言われそういえばそろそろ予定の時間だと気がついた俺はお店を離れることも出来ず、その場でアワアワと足踏みし始める。
するとそこで────
「千代ちゃんありがとうね!お、お友達かい?」
「あ!魚屋のおっちゃん!」
いいタイミングでもどってきてくれたぁ!
「遅くなってごめんよ千代ちゃん、手伝ってくれたお礼は今度するから────」
「ありがとうおっちゃん!私もう行くね!あ!その子にサービスよろしく!」
「えっ?あ、千代ちゃん!?……ってもう行っちまった……何か用でもあったのか?」
「まぁちょっと大事な用が」
「へぇー、よし桜ヶ崎の坊主。今度はお前が手伝え!」
「えぇっ!?」
そんな風に魚屋のおっちゃんの無茶振りに驚く礼二の声を背中に受けながら、俺はからんころんと下駄を鳴らし急いで目的地へと向かうのであった。




