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俺の気ままな幼馴染

「んー?よしよし、美味しいかー?」


 俺の幼馴染は猫である。


「みぃう!」


「そうかそうか〜♪ほら、いっぱい食べなー」


 物理的であろうとそうでなかろうと問題があれば突っ切るか飛び越えるし、自分のやりたい事はとことんまでやりきり、やらないでいいやりたくないことには一切手を出さない。

 そんな自分勝手を具現化したかのような存在のくせに皆から好かれ、必要とされている。


 そんな俺の家と背中合わせの家に住む彼女は今────


「あっ、こら!ダメだぞそんなスカートの中に潜り込んだりしちゃ。えっちな子はお仕置だ!」


 目の前で泥だらけになって猫と戯れていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「満足したか?」


「うん!大満足!やっぱり月に一回くらいは全力で戯れたいよね!」


「お、おう……そうか」


 可愛いから分からなくはないけど、俺は少なくともあそこまで泥だらけになる程戯れたいとは思わんがなぁ……女の子の考え……というより千代の考えは分からん。


「にしても災難だったなぁ。幾ら千代が体弱いとはいえピンポイントに風邪引くなんてさ」


「いーわーなーいーでー。私だってなりたくてなった訳じゃないんだから」


 お昼過ぎ、ぽんぽんと髪の毛をタオルで乾かしつつ俺の家の風呂から上がってきた千代はキャミソール?という肩の出ている服とスカートという涼し気な格好で俺の横に座る。


 よくうちの風呂入ってるせいかもうお風呂上がりの姿も見慣れたし、今更私服一つで可愛い綺麗似合ってるくらいしか思わないけど……


「あのさぁ千代……もうちょっと危機感ってやつをだな……」


「危機感?礼二も難しい言葉を使うようになったもんだ……昔はあんなに小さくて可愛かったのに」


「うっせぇ、というか同い年だろ俺ら」


「……いつの間にか私より大きくなって生意気になりやがって……でもまぁ大丈夫だよ。私、礼二以外の人の前じゃこんな事絶対しないから」


「!」


 い、いかん。思わずドキッとしてしまった。千代本人にはこれっぽっちもそんな気無いだろうに……でももし、千代がそういう気だったとしたら……


 もう何十回、いや何百回もアタックを仕掛け、その度に心折れたにも関わらず────


「ん?礼二?」


「そ、そのっ千代!俺と付き合ってくれっ!」


「お、何何?何に付き合えばいいのー?」


 分かってた!絶対そうなるって思ってたよっ!なんなら予想ついてたから次の言葉用意してたよっ!


 目の前で何に誘ってくれるのかと目を輝かせている千代を前に、こうなることが予想できていた俺は内心膝を突く程悔しがりながらも平静を装って用意してた台詞を話す。


「次の日曜に父さんと上流に釣りに行くんだ。千代も魚釣り好きだから一緒に来ないかって」


「日曜かぁ……ごめん礼二、今回は無理だ」


「そ、そうか……」


 千代が俺の誘いを断った……だと?い、いやまて慌てるな、そうだ、きっと叶奈ちゃんとか綺月ちゃん辺りと先に約束してたに違いない。

 でも……


「い、一応聞くが……なんか用事でもあるのか?」


「用事……というか予定が入っててね」


 予定……?まさか男と!?


「実は先生とお出かけする事になっちゃって。ほら、礼二もさっき言ってたじゃない、私修学旅行中風邪で倒れてたって。だからその代わりにって」


「な、なるほどな……なんだ、先生か」


 よかった、男とどこかに行くって訳じゃなくって。


「ん?礼二何か言った?」


「いや何も。ほら千代、いつまでもそんな格好じゃまた風邪ひくぞ。今羽織るもの持ってきてやるからちょっと待ってろ」


「えへへ、礼二ありがとう」


「はははっ、気にすんな。お前と俺の仲だろ?」


 パタン


「それでも、いつかは必ず……」


 こうしてまだ若い一人の男子は、後ろにある襖一枚挟んだ先に居る手強すぎる相手を思い浮かべ再びその決心を胸へ刻むのであった。

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