足りない一人を足す勇気
「それじゃあ私は職員室で仕事してるから、五人で班を組んで内容の確認、その後俺に班員と班長を伝えた班から帰っていいからね」
ガララララ……ピシャッ!
「って言われた訳だけど……」
「ちよちー!」
「ちーよよん!」
「「一緒にくもー!」」
ま、こうなるよねぇ。
「勿論、私は大歓迎だよ!んで、ここまで来るとあと一人も……」
「な、なぁ千代。良かったらその……俺と班組まないか!?」
「ま、こうなるよね~」
九月も終わる頃、いよいよ秋へと季節が移ろうと風が寒くなってきた季節、俺達五年生は修学旅行へ向けて準備が始まっていた。
「んで、問題はあと一人をどうするかなんだけど……」
俺は一応友達も多いし、ここに女の子を入れるのは簡単だ……だけどそれじゃあ男子が礼二だけになっちゃう。
それは俺達女子はともかく、礼二にはあんまり良くない。だって他の男子からなんて言われるか分からないし、礼二だけ置いてけぼりで可哀想なことになっちゃうからね。
だからといって全く知らない男子を入れようとすると……
「修学旅行楽しみだね~♪どこ行くのかなぁ」
「この後話し合う時にしおり見るだろ、そん時分かるさ」
綺月ちゃんがフリーズしてしまう。
「うーん……どうしたものか……」
「班員の話か?」
「うん。あと一人、出来れば男子がいいと思うんだけど」
「ちよよんは兎も角、私達の友達に男子ってあんまり居ないもんなー。それにみやみやの大丈夫な男子となると全くだし」
「ねぇー。まぁ一人心当たりがあるっちゃーあるんだけど……」
「ちよよんはアイツの事完全に苦手になっちゃったもんな」
「そうなんだよー」
そう言って机に突っ伏す俺の頭に浮かんだあの金髪に、俺はブルりと身を震わせる。
先日のお初の日に精神不安定な状態でいつも以上に寄り付いてこられた事で、俺は完全に神井くんを怖く思うようになり、神井くんも俺から距離を取っていた。
でもいつまでもこうグダグダしてる訳には行かないし……
「あぁもう!女は度胸!」
いつまでもウジウジしてるなんて、それこそ精神まで面倒臭い女じゃないか!
いや面倒臭い女じゃないけど!多分!
「神井くん!」
「は、はいっ!」
「うちの班、来てくれる!?」
「え、そ、そりゃ勿論行けるなら行きたいけど……いいの?」
「いいともいいとも!」
「ほ、ほんと!?やったぁ!」
「ただし!私はどれだけあんたに言い寄られようと何をされようとぜーっっっっったいに好きになったりはしないし、次もし変なことしようものなら父様に言いつけるからね!分かった!?」
「は、はい!」
「ならばよし。ほら、おいで」
と、そんな俺のほぼ一方的なやり取りの結果、俺達の班の五人目は神井くんとなったのであった。
そしてその事を担任へ報告を済ませ帰ろうとした時……
「よっし、先生にも報告済んだし帰るとしますか」
「だな」
「疲れたぞー……でも修学旅行楽しみだぞー!」
「うんうん!いっぱい楽しもうね!」
ふぅ、とりあえず何とかなったな。明確に苦手って思ってたけど、やっぱり話しかけてみれば大した事無かったな。ふふふ、この調子で少しづつ慣れていってや────
「は、花宮さんっ!」
「うひゃいっ!にゃっ、にゃんですか!?」
俺は前に居た三人が曲がり角で姿が見えなくなったタイミングで神井くんに後ろから声をかけられ、ビクッとなりながらそう返事をする。
思わず驚いて猫語に!じゃなくて、一体なんの用なんだ……?ま、まさかこの期に及んで────
「ごめん!」
「へ?」
「僕、花宮さんが嫌がってるって分かってたのに、どうにか好きになってもらおうと無理矢理関係を作ろうとしてた!本当にごめんなさい!」
「か、神井くん?」
いきなり謝ってきた!?な、何か悪い物でも食べたのか!?
「今更都合がいいかもしれないけど、僕と友達になってくれませんかっ!」
と、友達か……それなら…………いや、これは安請け合いする事じゃないな。
「ねぇ神井くん。なんでそんな話しようと思ったの?」
「そ、それは…………」
「それは?」
「このままじゃ……行けないと思って…………今日班に誘ってくれたのに、このままじゃ花宮さんも、花宮さんの友達にも嫌な思いさせちゃうから……」
なるほどねぇ……
「だ、だから!花宮さんが友達も嫌ならもう修学旅行から後は関わらないようにもする!だから────」
「大丈夫、もう大丈夫だよ」
「へ?」
「私こそ、妙に距離取っちゃってごめんね。あの時変に寄られて私、神井くんの事少し怖く思っちゃったの。でももう大丈夫。これからは友達としてよろしくね?神井くん」
「……!うんっ!よろしく!花宮さん!」
「おーい何してんだ二人ともー」
「置いてっちゃうよー!」
「ごめん!今行くー!ほら、いこっ!」
「うん!」
こうして図らずも俺と神井くんの仲は修復され、俺にとっては十数年ぶりであり、知らない事しかないであろう昭和の時代の修学旅行の準備がはじまったのであった。




