初めての参加
「「「ありがとうございましたー!」」」
珍しく賑やかな神社へと続く参道の脇にある公園の一角、お眼鏡に適う商品を見つけ嬉しそうに手を振って立ち去る女性の背中に可愛らしい声のお礼が響いていた。
「なぁんだ、三人でも出来るじゃん」
「あ!ちよちーどこいってたのー!?」
「ちよよん居なくて大変だったんだぞ!」
「緊張で死ぬかと思った……」
「あはははは、ごめんごめん。いつも仲良くしてるおばさんおじちゃん達に見に来てくれって言われてたからさ」
これからの良好な関係の為にも見に行かない訳には行かなかったんだよー。
「でも凄いじゃん、ちょこっと私が離れてる内に四つ?五つ?くらい売れてるじゃん。充分充分!すごいすごい!」
「いやいやいやいや」
「私達なんて……ねぇ?」
「千代のあのお客さんの捌き方を見せられたら……な」
帰ってくるなり早々パチパチと手を叩きながら、そう三人を褒める少しの間売り場を任せて他の参加者を見てきた俺は、三人にそう言われあははははと苦笑を浮かべる。
そりゃあ家のお店の手伝い初めてもう結構経つからなぁ。生前のバイトで培った接客スキルも込で嫌でも捌き方上手になるさ。
「さて、それじゃあそろそろお昼だし、私はさっき他の参加者のお店回るついでにご飯食べてきたから、暫く私が見てる間に皆はご飯食べておいで」
「いいのか!?」
「やったー!ご飯だー!」
「もーお腹ぺこぺこー」
「ふふふっ♪入口に色々出店もあったよ、食べに行っておいで」
「「「はーい!」」」
ちゃりちゃりと自分のがま口財布から俺は百五十円取り出すと一人に五十円ずつ渡し、嬉しそうに出店のある方へかけて行く三人の背を見送ったのだった。
そしてそんな俺に聞きなれた声がかけられそちらを振り向くと──────
「すいません。今よろしいでしょうか?」
「あ、はい!いいですよ……って父様!?なんでここにっ!?」
いや、そうか、参加するって言って取り次いで貰ったもんな、そりゃ来るよな、うん。
「そりゃあ娘の働く姿を……こほん。それでこれはどういった商品なんですか?」
そうだらしない笑みを浮かべながら聞いてくる我ら花宮家の大黒柱である父の姿を前に、思わず驚いてしまった俺はハッと気がつく。
この父様が聞いてきてる商品は父様の前で作ってたやつ……それを聞いてくるという事は──────
「えっと、そちらの商品はポケットティッシュのケースとなっております!」
俺がきちんと品を売る事が出来ているのか、その視察に違いない!
「なるほど、それでこれはどうやって使うのですか?」
「これはですね、裏のこのボタンを外してですね、こんな風にポケットティッシュを入れて使うんです。こちらは女性用の可愛らしい柄ですが、男性用にシンプルな物もございます」
「なるほど……それではこれは?」
「それは──────」
その後も俺は数ヶ月前からちまちまと皆で作っていた数々の手芸品を手に取り聞いてくる父様に、一つ一つ懇切丁寧に説明して行く。
そして数分後……
「ふむ、それじゃあこれを貰おうか」
「──────!ありがとうございます!」
そう言って父様が手に取ったのは、父様が最初に手に取った商品でもあるポケットティッシュのケースであった。
……もちろん花柄の可愛い淡いピンクな女性用のでは無く、紺色の布地に黄色のワンポイント刺繍がある男性用のだが。
「……にしても、完璧にこなしてるじゃないか。千代」
「えへへへへ♪どうどう?父様、私ちゃんと出来てた?」
前世のバイトで磨いた接客スキルと今世で身につけた父様仕込みの接客の合わせ技だぜ!……後半のはほぼ媚びに近い小さい子特有の可愛らし全開の売り方なんだけど。
「あぁ、ちゃーんと出来てたぞ。ほんとにちゃーんと……な」
「ふへへへへ♪」
やっぱり直接言われると嬉しいものがあるなぁ〜♪
「だがそれ以上に……最っ高だったぞ千代ぉ〜!父様は鼻が高いぞー!」
「むにゃあー!」
やめろ父様ー!こんな人の沢山いる所で抱きつくなぁー!
「こんなに立派に育ってくれて嬉しいぞ!」
「あ!ちよよんのお父さんだー!」
うげっ!この声は!
「叶奈ちゃん!?」
もう帰ってきたのか!
「ちよちーぎゅーされてるー、いーなー」
「千代も子供らしい所あるんだなー」
「み、みるなー!みーるーなー!というかそこォ!こっちを見てニヤニヤするなぁ!」
「わはははは!そんなちよよんかわいいぞ!」
「うんうん!普段ちよちーって大人っぽいから可愛いよ!」
「あぁ……くくくっ……かわいいぞ、うん、かわいい」
「もがぁぁぁあ!」
コロス!礼二の野郎笑いやがって!アイツダケハコロス!
「あはははは!やっぱり、最高に可愛いぞ千代ー!、」
「にやぁぁぁぁ!」
父様の腕の中に抱きしめられながら、そんな状況を皆に見られた俺はそのがっちりとした父様の腕の中で暴れ回っていたのだった。
こうして俺の初めてのフリマ参加は幕を閉じたのであった。




