初めてのプール
「夏だ!体育だ!プール授業だー!」
「おー、今までに無いくらいはしゃいでるねちよちー」
「そりゃそうだよー!」
なんたって水泳は運動苦手な俺が得意とする数少ない種目だからな!去年プールが建築途中で無いって知った時は寝込んだくらいだ。
「ちよよん泳ぐの競争するぞ!」
「受けて立つ!」
スクール水着の似合っている叶奈ちゃんの挑戦を、同じくスクール水着にこっちは水泳帽の中へ髪を入れた俺が受け、勢いそのままプールに入る所で後ろから首根っこを掴まれる。
「まだ準備運動もしてないのにプールに飛び込もうとしてる馬鹿娘共はだーれーかーなー?」
「「ひいっ!」」
こわっ!体育の先生こわぁっ!!
「ほら、泳ぐの禁止にされたくなきゃさっさと並べー」
「「は、はぁーい」」
物凄く威圧感のある笑みでそう言ってきた体育の先生は、俺達の返事を聞くと俺達の首根っこを離し列を作るようにと指示をした。
「ちょっとはしゃぎすぎちゃったねー。ちよちーもかなちーも」
「えへへへへ……めんぼくない」
「もうちょっと大人しくしまーす」
綺月ちゃんの元に戻ってきた俺は、叶奈ちゃんと一緒にそう言いながら揺れる綺麗な水面へ顔を向け、辛抱ならんとばかりに足踏みをする。
そう、今日は夏のお楽しみ、プール開きの日なのである。
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「それじゃあ準備運動も終わったし、今日は水に慣れることだけにする。という訳で今日は自由だ!」
「「「「「おぉー!」」」」」
「好き勝手やってよし!ただし絶対に喧嘩はしない事、いいな?」
「「「「「はーい!」」」」」
一通り説明と準備運動が終わり、最後に今日の授業内容の説明にクラス全員がそう元気よく返事をすると我先にとプールへ飛び込んで行く。
「ぷふぁー!きもちいー」
やっぱり思いっきり泳げるのって気持ちいいなぁ。
まぁまだこのスク水の全身にぴっちりひっつく感じと、この足の付け根までしか被われてない感じには全く慣れる気がしないがな。
でもまぁモロ大事な所を隠す三角形が見えちゃってる前はともかく、お尻はきっちり覆われてるだけマシか。
「すごーい!ちよちー泳げるんだー!」
「えへへー、凄いでしょー?ん?そういや叶奈ちゃんは?」
「叶奈ちゃんならさっきちよちーが潜った後にちよちーの横で……」
ブクブクブクブクブク……
「「叶奈ちゃん!?」」
綺月ちゃんの指さした場所から泡がブクブクと音を立て登ってきているのをみた俺と綺月ちゃんは次の瞬間、大急ぎでその場所へと行き叶奈ちゃんを引き上げたのだった。
「あぁうー、助かったぞちよよん、みやみやー」
「気にしないで気にしないで」
「まだ最初の授業なんだし、でも……」
まさかあんなに俺と同じくらいはしゃいでた叶奈ちゃんが……
「全く泳げないカナヅチとはねぇ」
「うぅぅ……千代ししょー!」
「うぉおっ!?なっ、何!?」
「後生だ!叶奈に!叶奈に泳ぎ方を教えてくれぇ!」
「そこまで?まぁ別にいいけど……」
「本当か!?」
うぉおお……流石の切り替わりだなぁ……
「それじゃあまずは水の中で息を吐く練習だね」
「息を吐くのか?」
「そ、少しずつ息を吐いて……」
ゴボゴボゴボゴボゴボ……
「叶奈ちゃん!?」
「どうだっ!出来てたゴホッ!ゲホッ!オエッ」
「うおおぉ!ストップストップ、落ち着いて落ち着いて……」
「ぜひゅーこひゅー」
「水飲んじゃった?」
「う、うん……しこたま……」
水面から顔を上げゴホゴホと咳をした後ゼーハーと荒い呼吸をしながらそう言う叶奈ちゃんの背中を、俺はよしよしとさすってあげる。
「息を吐くために口を開けるだろ?そしたら水が入ってきただろ?あ、騙したのか?ちよよん叶奈を騙したの────」
「落ち着け落ち着け、やり方見せて上げるからまずはそれをじっくり見てね?」
「分かったぞ!」
……不安だなぁ、まぁいい、出来るようになるまで付き合ってやるさ。
その後、結局今回の授業で叶奈ちゃんは泳ぐ事は叶わなかったものの、水の中で息を吐く事は出来るようになったのであった。




