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ある日のお風呂事情

「ひゅうどーろーろー♪」


「千代は本当に色んなお歌を知ってますね。何処でそんなに知ってくるのですか?」


「母様にもないしょー」


 まさかこの時代にはないボカロとかアニソンみたいな前世で好きな音楽だなんて、言えるわけないよなぁ。


「それにしても、今日もお勉強疲れたわねー」


「ね、分数とか難しいー。そういやよーちゃんもそろそろ掛け算を習う頃かー」


 あー、そういや来週から掛け算とか言ってたなぁ。


「掛け算は難しいぞー、九九とか覚えなきゃだし。よーちゃん、覚悟してなよー?」


「むぅあー」


 もう五月も末に差し掛かり、少しずつ夏らしくなっていく中ある日の夕暮れ時、からんころんと下駄を鳴らしながらそんな雑談をしつつお風呂屋さんへと向かっていた。


「でも夕方とか涼しいから助かるねー」


「日中は日向に居ると本当に暑いですからね。でも涼しくて過ごしやすいからって縁側で寝てたらまた風邪ひいちゃいますよ、千代」


 うぐっ……!


「だ……だって、気持ちいいんだもん!」


「ふふふっ。千代ったら可愛いんだから……ってあら?」


「え?」


「これって……」


「もう、お風呂屋さん着いたしこのお話おしまい!……ってあれ?」


 お風呂屋さん……閉まってる?


 お風呂屋さんの前に着いた事だし、この話を終わらせようと俺が顔を逸らした所で、いつもは開いているお風呂屋さんの扉が開いておらず、さらに何か張り紙がある事に気がつく。


 えーっと何何……「急な親戚の不幸の為本日は休業致し〼」あーそれは……うん、仕方ないな。


「あらら……親戚の不幸ですか。それはそれは……今度品でも持ってきましょうか」


「母様、親戚の不幸ってなんですか?」


「ウチも気になるー。親戚の不幸ってなにー?」


「親戚の不幸って言うのは……それはまた今度話しましょう。とりあえず今日はお風呂抜き────っというのは無理そうですね。うーんどうしましょうか」


 やはり普段は厳しい母親とて同じ女なだけあって気持ちは分かるのか、俺含む娘達からの「嘘でしょ?」と言わんばかりの視線を受け、母様はどうするか顎に手を当てて考え始める。


 正直、令和産まれからしたら風呂抜きだけはほんっっっっっとうに勘弁して貰いたい!何か……何かこの危機的状況を打破できる方法は……!


「あっ、そうだ」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「ありがと礼二ー!」


 やっぱりお前はいい男だよー!元男で現女の俺が認めてやろう!


「わわっ!千代ちゃんいきなり抱きつくなよ!」


「こらこら、千代ちゃん礼二君から離れなさい。ありがとうね礼二君、千代のお願い聞いてくれて」


「い、いえ!千代ちゃんの頼みだし、いつもお世話になってるから……」


「お、礼二くん謙虚だねー。でもよーちゃんの相手大変でしょ?」


 む、それはどういう意味だ千保お姉ちゃん。


「そ、そんな事ないですよ!」


 おい礼二、なんだそのどもりは。というか何故俺以外には敬語なんだ。


「はいはい、人様の家で騒ぐもんじゃありませんよ」


「「「はーい」」」


 母様にそうピシャリと言われ、きゃいきゃいと礼二の周りで騒いでいた俺達三姉妹はすぐさま大人しくなる。


「にしてもすいません。急に押しかけて」


「いいのいいの!気にしないでください花宮さん!千代ちゃんにはうちの礼二がいつもお世話になってるから!それにほら、やっぱり女の子は毎日綺麗にしてないと、ね?」


 そう言って礼二のお母さんがバチンとキレのある綺麗なウインクを俺にしてきたのを見て、グッと俺もサムズアップを礼二のお母さんに返すのだった。

 ちなみに礼二の家に来ているのは花宮家の女性陣だけで、男性三人は風呂無しで過ごすそうだ。


「でもこの人数だと一人一人入ってたらお湯が温くなっちゃいますし……そうだ、二人組で入りません?」


「二人組……いいですね。それじゃあ私達は私と千胡、千保と千代でどうでしょう?」


 まぁ妥当な組み合わせだな。そうと決まれば早く────


「まぁそれが一番なんですが、うちの子私と入るのが嫌みたいで」


「「あー」」


 確かに、この歳になると男の子はお母さんとか家族と一緒に入るの嫌がるよなぁ。前世で親戚の集まりとかあった時によくちびっ子が嫌がって俺と一緒にって言ってた。


「でもそれなら、私にいい考えがありますよ。いいですよね、千代」


「はひ?」


 思わず母様と一緒に声を上げたせいか、呑気にそんな事を考えていた俺に母様は、確実に何かを企んでる笑みを浮かべ、俺の頭をそう言ってよしよしと撫でるのだった。

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