田舎小学校の優等生
「全く……とりあえず千代、もうそろそろ先生が来るでしょうからお説教はここまでにします。ですが貴女ももう二年生なんだから、あんな所通って戻ったりなんてしないように」
「はーい」
少なくとも今後は母様に見つからないようにするのと急いでる時にしか使わないようにしまーす。
陽の当たる暖かな居間で制服から和服へと着替えた後に正座させられていた俺は、内心そんな事を思いながらもいかにも反省している様な声色で母様に返事を返す。
「よろしい。それじゃあ千代、こっちにきなさい」
「──────!うん!」
「きゃっ!ふふっ、もう千代ったらこんなに髪の毛ぐちゃぐちゃにしちゃって♪せっかく真っ黒で艶のある綺麗な髪なんだから、もっと大切になさい」
「えへへ♪ん〜♪」
人に髪を梳いて貰うのってなんでこんなに気持ちいいんだろうな〜♪こればっかしは女にならないと知れなかった事だな。
「ふふふっ♪千代ったら、そんなに気持ちいいのですか?」
「うんー」
ニコニコ笑顔の母様にそう聞かれながら、俺が母様の膝の上で気持ちよく目を細めて髪を梳いてもらう心地良さを堪能していると、玄関から「ごめんください」と聞こえてきた。
「あら、先生がいらっしゃったのかしら。それじゃあ千代、お出迎えしに行きましょうか」
「ひゃーい」
ーーーーーーーーーー
「わざわざ今日はありがとうございます。つまらないものですがお茶とお茶菓子を」
「おっと、わざわざありがとうございます。おぉ!これは美味しい!」
うおぉー……やばい、改めてこう、先生が家に来てるって緊張する!
そんな事を思いながら、俺はテーブルを挟んで右前に居る先生と、その先生にお茶を出して俺の右側に座った母様のやり取りを内心物凄くドキドキしながら見ていた。
「ふぅ……ありがとうございます。とても美味しかったです」
「いえいえ、娘がお世話になってますから」
あはははは、俺は毎日ちゃーんといい子にしてますよ母様ー。
「さて、いつまでもお茶を飲んでる訳にも行きませんし、そろそろ本題へ移らせて頂きます」
「はい。それで先生、うちの千代は……」
「娘さん、千代ちゃんですが……」
「……」
母様の問に先生が話し始めようとすると、今までのほっこりとした雰囲気からスっと真剣な雰囲気に移り変わり、俺は思わずゴクリと唾を飲む。
そして一呼吸置いてから先生は────
「いやー!勉強も出来て周りへの気配りもできる、優しくてとても素敵な子ですよ!教師として様々な子供を見てきましたが、千代ちゃんのような素晴らしい子は初めて見ました!」
ふぅ……よかった、先生にちゃんと「いい子」って判断して貰えてた。
「まぁ!その様に褒めていただけるなんて……偉いじゃない、千代」
「えへへー」
物凄くいい笑顔で褒めてくれた。
しかし、先生はその浮かべた笑みを嘘の様に一瞬でクシャッと悔しそうに顔を歪めると、とても言いにくそうにしながらもその言いにくそうな内容を話し始めた。
「ですがやはり同年代の子に比べて大人びてるからか、クラスの中では浮いています。一応仲のいいお友達が居るので一人ではありませんが、今後何かトラブルがあるかもしれません」
「そうですか……この子、昔から手のかからない子で……他に三人子供が居るので助かってはいたのですが、やっぱり他の子と違う感じがあったのでそこだけが不安で」
「えぇ、私達は大人だからこそ不安で済んでますが……同じ子供達からしたらやはり気味悪かったりするのでしょう」
確かに……今まで子供らしく振舞ってたつもりだったけど、やっぱり前の人生で染み付いてた癖は簡単には抜けないか……
「……」
「あ!大丈夫だよ千代ちゃん!先生は千代ちゃんがお手伝いしてくれて本当に助かってるし、優しくていい子って知ってるから!」
あ、もしかしてこれ俺が黙ってたから落ち込んでるって勘違いされてる?
「あははっ!大丈夫ですよ先生、私気にしてませんから!」
慌てふためいてそう言う先生を見て首を傾げながら慌てている理由に見当がついた俺は、思わず笑ってしまいながらもそう言い、大人達に大丈夫だと伝えたのだった。
そしてそんな俺を見て目を合わせ意思確認をした二人は、これなら大丈夫だと言わんばかりに肩を竦めたりし合った後、今後の話へと移った。
こうして、俺の家庭訪問は少しの不安要素を示されつつも、平和に幕を閉じたのだった。




