*。*:゜ ニニコ論文 「まだ間に合う! 小切手講座」 ゜:。*
私ことニニコ・スプリングチケットは、衝撃的なニュースを聞いた。
いいか?
聞いて驚くなよ?
なんと……
2027年の3月に、日本で小切手制度が廃止されるんだって。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● なんてこと!
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ●
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 〇 〇 いや待った!
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ⦿ ⦿ 困るぞおい!
ノノ 人С川 w )
だって小切手、フィクションにたびたび出てくるもん。
映画やドラマなんかだと、巨額の取引の定番だよね。
小切手を利用した詐欺事件とか、刑事ドラマでよくあるじゃん。
けど、それがもう時代劇の話になってしまうのか……
小切手が廃止される理由は、シンプルだ。
手間がかかりすぎるから。
スピードが重視される現代に、もはや紙の小切手はムダでしかないらしい。
保管しとくのも場所が必要だし。
なにより、電子決済が広まったことで利用者が激減してるらしい。
だから廃止することになったんだって。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ●
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● いや、わかる。
ノノ 人С川 w )
もちろん、廃止される事情は理解できる。
時代の流れと言えばそれまでだ。
でも、なんかさみしいぞ。
小切手が登場する作品たちは、古い時代のものになってしまうのか。
「小切手ってなに? 聞いたこともない」
「このキャラは、紙きれ1枚になに大さわぎしてんの?」
みんながこんな感想持つようになったら、私は困る。
小切手が出てくる過去作品を、人にすすめられなくなるじゃん。
映画とか漫画とか。
けっこういろんな作品で、アイテムとして小切手を見かけるぞ。
それなのに、小切手がなんなのか伝わらなくなってしまうのか。
さみしい。
というわけで今日のテーマは、小切手だ。
まもなくこの世界から姿を消す存在だけど、解説しよう。
これから時代劇の小道具となる小切手について、説明してやるよ。
小切手が登場する作品を、これからも愛してもらうためにな。
とりあえず小切手の「切手」から説明しよう。
言うまでもないが、いわゆる郵便切手とはぜんぜん関係ない。
切手とは「切符手形」の略だ。
約束を守るために、前もってお金を払いましたって証明書だ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● で、どこが小?
ノノ 人С川 w )
さて、小切手の「小」とはなんなのか?
なんでもない。
紙のサイズが小さいってだけだ。
小切手は英語で「チェック」っていうの。
そのチェック、明治時代に外国から入ってきたんだけどさ。
それまでの日本にも、似たようなシステムはもうあったのよ。
年貢米の取引とか預かりの証明に、切符手形を使ってたわけ。
これを米切手と呼んでいた。
その米切手よりも、チェックは小さな紙だった。
だから小さい切手。
チェックのことを、日本では小切手って呼ぶことになったの。
さて、そもそもの話だけど。
みんな、小切手がなんなのかは知ってるんだろうな?
小切手がなにに使うものか、ボンヤリとしか理解してないんじゃない?
ひとことで説明しよう。
クレジットカードみたいなもんだ。
ようするに現金が無くても、買い物ができるのよ。
買い物をするぅ。
代金を小切手で支払うぅ。
お店の人が、小切手を銀行に持っていくぅ。
そしたら銀行が、小切手を持ってきた人にお金を支払うの。
ね?
クレカといっしょでしょ?
おし!
じゃあ実際の利用について教えてあげよう。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● メルヘン劇で。
ノノ 人С川 w )
ここに小切手を使いたい犬井くんがいる。
犬井くんは、最初に銀行に行かないといけません。
なぜなら小切手は、銀行でもらうものだからです。
すいませーん。
小切手ほしいんです。
小切手やとワレ!
当座口座は持っとんねやろな?
なに、無い!?
ほな作らんかい!
ハイ、みんなは銀行の通帳を持ってる?
通帳には、普通口座と当座口座があります。
当座 (とうざ)っていうのが、小切手や約束手形のための口座だ。
だから当座口座を持ってないと、小切手は使えません。
さあ、当座口座を開設したったで!
これが小切手帳じゃ。
ウチの銀行の小切手帳は、1冊50ページや。
ようするに50枚の小切手やな。
1枚も失くしたらアカンでえ!
各ページに点線が入っとって、切り離せるようになっとる!
相手に渡すほうが、小切手。
残ったほうが「耳」じゃ!
どっちにもおんなじナンバー入っとるんや。
なるほど。
小切手を払うたびに、耳にもメモしておくわけですね。
これは便利ですね。
ドアホ!
小切手は「切る」言うんじゃ。
払うとか言うとったら、ド素人や思われるぞ!
まるほど。
あの、実際に使うときは……
グズグズぬかすな、オンドリャ!
必要な金額書いて、サインとハンコせえ!
それだけじゃ!
おう、まさかワレ。
前もって全ページにサインしたりせえへんやろな?
ダボ!
小切手帳ごと失くしたらどないする気じゃ!
ワレ、責任取れんのかい!
そのときそのときサインして切らんかい!
お前がサインせえへん限り、それはただの紙切れのままや。
サインの入った小切手は、その瞬間から現金といっしょじゃ!
よう覚えとけ!
さあ、いよいよ小切手を使えるぞ。
ワクワクするなあ。
奈良公園のダンゴ屋さんで使ってみるかな。
この三色ダンゴください。
小切手でいいですか。
はい、いいですよ。
500円です、毎度あり。
はい、小切手に500円って書きます。
すまん。
ややこしいから、ここでは消費税のことは考えずに進めるぞ。
はい、小切手に日付と金額を書きます。
この小切手を使った日を「振り出し日」という。
あ、当たり前だが。
小切手での支払いを拒否されたら、そもそも使えないからな。
あくまで小切手支払いを、猫田が了承したらの話だ。
はい、たしかに小切手を受け取りました。
毎度あり!
ようし、11日以内に銀行へ行ってお金をもらうぞ。
そう。
小切手を換金できるのは、振り出し日から11日以内だけだ。
受け取った人は、それまでに銀行に行かなきゃいかん。
11日以内に銀行でお金に換えてもらうわけだ。
さあて……じゃあここからは。
映画のネタになりがちな、小切手のトラブルを紹介しようか。
まず最悪なのが、小切手を盗まれるケースだ。
へへへ!
小切手を盗んでやったぜ。
しめしめ!
銀行に行って、俺が金をもらってやるぜ。
すいませーん。
小切手を換金に来ましたー、ひひひ。
おう、500円やな。
払ったるで。
ほれ、持ってけや。
ひゃっほー!
500円もうかった!
ひひひ!
マジでこうなるんだ。
ホントにお金を持ってかれるのよ。
もし小切手を失くしたら、いそいで銀行に連絡せねばならない。
ただちに小切手を無効化してもらうのだ。
これが小切手のメリットでもあり、デメリットでもある。
というのも、盗まれたのが現金だったらすでにおしまいだ。
実際に500円玉をパクられたら、もう帰ってこないじゃん?
小切手はその点、銀行で現金化されるまでに時間差がある。
盗まれるのを食い止めるチャンスが、まだ残ってるわけだ。
その代わり、よっぽど失くさないように気をつけなきゃならん。
なんせホントに紙ぺら1枚だからな。
では、そんな恐ろしい小切手。
盗難や紛失のための対策はないのか?
もちろんある。
線引きと、受取人の指定だ。
さあ、気づかれる前に銀行に行って現金化してやるぞ。
んん?
ややや!
ちくしょう、こいつは線引き小切手じゃねえか!
しかも受取人のウラ書きがある。
こりゃダメだ!
不正使用を防ぐために、小切手にはいくつかの予防策がある。
まずは持参人。
持参人ってのは、小切手を銀行に「持ってくる人」のことだ。
もともと小切手には、持参人にお金を払ってねとしか書いてない。
銀行のほうは、持ってきたのが誰かなんて気にしない。
小切手さえあれば、そいつが何者だろうと現金を受け渡すのだ。
これだと盗まれたらおしまいだ。
それを防ぐために「持参人」を消してしまう方法がある。
はやい話、猫田の名前を書いとくわけだ。
持参人じゃなくて、この人に払ってねと受取人を指名しておく。
そして小切手の裏面に、猫田も名前を直筆する。
これでこの小切手は、猫田専用のチケットになったわけだ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● もうひとつ。
ノノ 人С川 w )
これは盗難防止とは別の仕組みだが、斜めに二重線を引いておく。
ひとことで言えば、現金での支払いをNGにしてくれって記号だ。
これを線引き小切手という。
線引きがしてあると、その場で現金でもらえない。
持参人の口座への入金に限られるのだ。
もちろん受取人を指名してある場合、受取人の口座にしか入金出来ない。
ようするに、銀行に支払いの記録がデータとして残るのよ。
もし盗んだ小切手で入金させたりしたら、動かぬ証拠になっちゃうわけ。
さて、ここからが小切手の最大の使い道になる。
譲渡である。
小切手を、第三者に渡す方法を説明しよう。
うわあ、すごいカッコいいサンダルだなあ。
これください。
ありがとうございます。
お会計、500円です。
じゃあちょうど500円の小切手があるからこれで。
えーっと。
私こと猫田は、ウシジマくんに小切手を譲渡します。
ウシジマくんも小切手の裏に名前書いてくれ。
これが小切手の譲渡だ。
ウシジマがOKすればお金とおなじように使えんの。
くりかえすが、ウシジマがOKすればだぞ。
もちろんこの場合、銀行へ行くのはウシジマだ。
小切手を持って、11日以内にな。
さあ。
ここからがメインだ。
不渡りについて説明しよう。
銀行に来たぞ。
これ、換金してくれ。
よっしゃ見せてみい!
ハンコ持ってきたやろなワレ。
ふーむ、振出人のサインの筆跡も、ハンコも合っとるな!
おう!
振出人っちゅうんは、小切手を切ったやつのことや!
たしかに犬井が振り出した小切手やな!
サインもハンコも一致しとる!
ほんでワレのサインとハンコも、裏書きといっしょやな。
よっしゃ、本人に間違いないやんけ。
払ったるで!
どうも。
今日現金でもらえるんですか?
いてまうぞワレ!
これ、線引き小切手やんけ。
せやから口座に入金せなあかんねや!
心配せんでも、いますぐワレの口座に振り込んだるわ。
ちょう待っとけや。
いま入金したるさかい……
ややや!
なんやねんコレ!
え?
なんかありました?
なんかやあるかい!
不渡りや!
オンドレ、だまされよったな。
振出人の犬井の当座口座に、1円も入ってへんやんけ!
これでどうやって払え言うんじゃ!
こんな小切手、ただの紙切れやないけー!
えっ!?
じゃあお金もらえないんですか。
寝言は寝てから言わんかい!
払うわけないやろが!
こうならんように、小切手はさきに換金すんのが常識や。
そのあとで品物を渡すのがセオリーやないけ!
まあ小売りの店とかやったら、なかなか難しいやろけどな。
そこは相手を信用できるか判断すんのも、プロの商売いうもんや。
とにかくこの小切手やと換金できへんぞ。
文句あんねやったら、ワレに譲渡した猫田に言うんやな。
……これが小切手最大のトラブル、不渡りである。
不渡りの原因にはいくつか種類があるが、まあたいがい残高不足だ。
これじゃ銀行だって支払いのしようがない。
おい猫田!
この小切手、不渡りだったぞ!
500円払え!
えっ、いや……
それは振出人の犬井に請求してくれないと。
ボクに言われても。
バカ!
不渡りは、裏書したやつにも代金を請求できるんだよ!
犬井が払えねえときは、てめえに払ってもらうからな!
よく見ろ!
ここに拒絶証書不要って書いてあるだろ!
お前が支払い拒否した証拠なんかなくても訴えられるんだぞ!
とまあ、これが小切手の仕組みだ。
実際に小切手のトラブルとなったら、人間関係ヤバいことになるぞ。
当り前だ。
こんなの冷静でいるほうが難しい。
小切手とはそのくらい便利で、そのくらい危なっかしいんだよ。
もちろん危ないのは、悪用するやつがいるからなんだけどね。
偽造する、
盗まれる、
コピーする、
他人の口座を利用する、
詐欺のためなら、なんでもござれだ。
だからみんな用心深くなる。
それでも世界中の企業が、何億円って金額で利用しまくってたんだ。
だって、便利だから。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● ……な?
ノノ 人С川 w )
ほらな?
面白いだろ、小切手って。
こんな面白いもの、映画やドラマで使われないわけがない。
あーあ、それがもう無くなっちゃうんだもんなあ。
まーたフィクションの世界にボーダーラインが引かれてしまう。
小切手が廃止される前の作品と、それ以後の作品にだ。
なんだかさみしいな。
ていうか、私も使ってみたかった。
カッコいいじゃん、小切手。
いっぺん使ってみたかったな。
まあしかたない。
電子化がこれだけ進んだ社会じゃ、小切手いらないもん。
現代だと、パソコンやスマホから入金できるもんね。
それなら不渡りなんてトラブルも起こらないもん。
それに、クレカでないと出来ないってことが多すぎる。
安全性もだけど、利便性が違いすぎる。
ネット決済で小切手なんか使えるわけないし。
やっぱクレカが最強だ。
けど、いままで経済を支えてくれてありがとう小切手。
ありがとう。
……よう考えたら、や。
小切手のほうが、クレカよりもええことが1個だけあるわ。
たしかに小切手とクレジットカードは、よう似とる。
譲渡できるできへん以外は、ほとんどおんなじ使い道や。
ほな、なんでクレカは普通口座だけでも使えんねん。
当座口座を持ってへんのに、なんでクレカは使えるんや?
答えはカンタンや。
買い物するたび、カード会社が代金を立て替えとるからや。
つまりやで?
クレカを使うっちゅうのは、そのたびに借金しとるっちゅうことや。
せやから毎月、カード会社から金払えって請求が来よるやろ?
クレジットカードは借金カードやねん。
そんなん常識やと思うけ?
これが人間、なかなか自覚できへんのや。
言うとくけど、小切手は借金やあらへんで。
有価証券やからな、あくまでも「個人資産」や。
そいつが持っとるゼニっちゅう意味やな。
おっと!
小切手やったら借金のリスクが無いとは言うてへんで?
11日以内にカネを口座に入れとかなアカンわけやからな。
それこそリスクどころやあらへん。
最悪、金借りてでも入金しとかんと不渡りや。
もし不渡りで訴えられたら、れっきとした詐欺になるからな。
そらウチかて銀行やから、貸してくれ言うたら貸したんで?
ワレも逮捕されんのはイヤやろが。
逆に言うたらや。
逮捕される覚悟がないかぎり、小切手はムチャな使いかた出来へんねん。
そこまでのアホは、なかなかおらへんからな。
ところがクレジットカードは最初っから借金や。
そんで借金ちゅうことは、や。
もし金を返せへんでも、詐欺にはならへんねん。
犯罪ではないんや。
せやからクレカは、使うことに抵抗感がやたら軽いんやな。
財産管理のできへん人間にとって、小切手はまだ健全やった。
なんでか言うたら、ブレーキがついとったからや。
犯罪者になる可能性っちゅうブレーキ。
それと、そもそも店に利用を拒否される可能性ちゅうブレーキや。
クレカにも上限はあるけどな。
せやけどそれはブレーキやない、天井や。
自分で自分をコントロールせなアカンねん。
せやのにクレカは、借金することのハードルを下げてしまいよった。
社会全体でや。
そら、カード会社に支払いできんヤツかて出てきよるがな。
クレカはこの世界に、破産するやつを大量に生んでしもうたんや。
これからも生みつづけるやろな。
これが小切手のほうがマシやった、たったひとつの点や。
みんなもゼニのムダ使いしたらアカンでえ。




